4.(過去)悪役令嬢と騎士の誓い
『ねえ、騎士様ごっこして?』
『また?もう飽きましたよ』
『いいじゃない。予行練習は大事よ?ね、アルベルト。私騎士様ごっこがしたいの』
ローズマリーの言う騎士ごっことは、姫に忠誠を誓う騎士とのシーンを延々繰り返させる行為のことだった。
当時六歳の夢見る少女と、当時六歳の遊びたい盛りの少年では意見も食い違うが、結局押しに負けてアルベルトは騎士ごっこに付き合った。
『アルベルトは騎士になるんでしょう?』
『そうですよ』
『じゃあ私が王女様になったら守ってね』
代々騎士団長として名を連ねる家族に倣い、騎士になることを当然としていたアルベルトに小さな目標を与えてくれた幼馴染み。
将来はローズマリーを守る護衛騎士として働くようにと父親に言われたが、言われなくてもアルベルトはそのつもりだった。
幼少の頃から主従関係でありながらも、幼馴染みとして育ってきた彼女がアルベルトにとって大切だったからだ。
『アルベルトもこの本みたいな騎士様になってね』
少女が何度も読み返し、擦り切れてきた絵本の挿絵には、騎士が跪き姫に忠誠を捧げている。
少女達の憧れを描いた絵本を、アルベルトは何度も読まされたため、内容も熟知していた。
ローズマリーはキラキラ輝く翡翠の瞳で絵本を見つめている。
将来は王太子の婚約者として決められた彼女は、日々稽古の合間を縫っては、アルベルトと遊び、絵本を眺めていた。
遊びたい気持ちを抑えて勉強して、ダンス練習をして、マナーを覚えて。
ひたむきに進む彼女の姿に寂しさを覚えたけれど、彼女を守ることを目標にしてアルベルトも剣を学び、勉学に勤しんだ。
幼い頃に交わした約束を果たすために。
見習い騎士から漸く正式な騎士として所属されてからしばらくして、王宮で不穏な噂が立ち始めた。
王太子の婚約者であるローズマリーが私室に男を招き入れていると。
そんな筈が無い。
アルベルトはしょうもない噂だと吐き捨てた。
続いて出た噂は、ローズマリーの浪費についてだった。
王宮にまたドレスの仕立て屋が訪れた。宝石商がローズマリーの命で訪れた。
それも聞き流した。が、少しばかり不安になった。
しかしまだ騎士に成り立てのアルベルトには何も動くことなど出来ず、ただ命令されては出仕し、時に遠征で王都を離れることもあった。
しばらく遠征で離れていたアルベルトが戻った時には既に遅かった。
ローズマリーは反逆罪と殺人未遂の罪により投獄され、処刑が決定していた。
驚愕して異議申し立てようとしたが騎士団長に止められた。
怒りで握り締めた拳からは血が垂れた。青筋立てて騎士団長に抗うと頬を強く引っ叩かれた。
もう遅いと。
耐えるしかないと。
逆らえばアルベルトも処刑されると脅され、アルベルトは悔しさで泣いた。
『私が王女様になったら守ってね』
アルベルトは約束を守ることが出来なかった。
謹慎の命を受け、真っ暗な自室に篭っていたアルベルトの元に訪れたのは、幼馴染みの弟であるレイナルド・ユベールだった。
姉と同じ金色の髪に翡翠の瞳。最後に見た時の彼は十歳の頃で、まだ幼い印象があったが、今目の前に立つ少年と同一人物とはとても思えないほど、瞳は氷のように冷え切っていた。
ゆっくりと歩く姿は幽鬼のように冷たく美しかった。
「ローズマリー姉様を助けたい」
声変わりの途中であろう少年の静かな、けれど意志の籠もった声。
「手伝ってほしい」
小さな手が差し出される。
この時アルベルトは、まるで悪魔と契約を交わしているような気持ちになった。
それがどれだけ救いか。
悪魔がいるならば喜んで契約しよう。
「喜んでお受けいたします」
『アルベルトもこの本みたいな騎士様になってね』
記憶の底で微笑むローズマリーに頷いた。
なってみせるとも。
貴女の望む騎士になって、忠誠を誓う。
それが彼女に恋慕した自分の、生きる目的だったのだから。
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