表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/114

43.閑話


「何が書かれていると思う?」


 レイナルドの言葉に、水を飲んでいたアルベルトは動きを止め、視線をレイナルドに向けた。


「恐らく王子はもう、マリーに想いを伝えることはないだろうね」


 キィンと、レイナルドの指がワインのグラスを弾く。

 アルベルトも同じ事を考えていたが、特に同意はせずに水を飲み干した。

 時折城内で見かける王子の様相は今までと全く違っていた。

 まだあどけない様子があった王子だったが、父を知り真実を知り、別人のように変わった。

 甘さが残っていた王子は、既に居ない。

 そこに立つのは王として覇気を纏う青年であった。

 父が無くした王家の信頼を取り戻したいと国民の前で告げた彼は、次期国王として多大に期待されている。元々期待は高かったが、今回の反乱に手を貸していたと伝聞することで、その声はより強まった。

 リゼル王子もまた、その偽りの真実を利用して国民の心と貴族の心を掴んだ。

 突如揺れた王国も、この波を乗り越えれば穏やかな成長を遂げるだろう。

 次に出てくるのは、また王の婚約者問題だった。

 ここぞとばかりに婚約を急ぎたい諸侯から声が上がったのだが、それをキッパリとリゼル王子は断った。


『今、優先すべきは民からの信頼を取り戻すこと。後継者など盤石な体制が整わなければ意味をなさない。よって、今いる令嬢達を一度帰らせて欲しい』


 その言葉に反対する者は現れなかった。リゼル王子からの強い意志を感じたからだ。

 今まで率先して自身の親族との婚姻を薦めていた各貴族達も、それには黙って従った。

 会議を端で見守っていたアルベルトにも、王子が何処か吹っ切れた様子に見えた。

 リゼル王子なりに事の真実を、受け止めたのだろう。


「こうなると、マリー嬢を捕まえるのは私かアルベルトのようだね」

「…………」


 レイナルドの言葉にアルベルトは、更に沈黙を落とした。

 顔の赤みはだいぶ引いた。酒に酔っている時に交わす会話でも無いのだが、こういう時にしかレイナルドの本音を聞くことが出来ないのも事実。


 アルベルトはレイナルドのマリーに対する激しいまでの独占欲を知っている。

 ローズ領に閉じ込めたのも、復讐を果たすためという大義名分がありながらも、自身の手元に囲いたいという欲が入り混じっていたことを知っている。


「何だ。違うのか?」


 からかうように聞いてくるレイナルドの顔は、悪戯な色に満ちている。

 復讐から解放された彼は、時々以前には見られなかった顔をするようになった。


「違いません」


 それに比べ、復讐から解放されてもアルベルトは固いままだった。こればかりは性分であり、変えられない。


「素直でよろしい」


 上機嫌にワインを飲むレイナルドを睨む。

 レイナルドの様子は、復讐という呪縛から抜けてようやく、彼らしさを取り戻したように見える。

 呪縛から解き放たれたのは、アルベルトも同様ではあった。

 まだ問題は残ってはいるが、長年抱き続けてきた復讐から解放されたためか、以前と異なり何処か心に余裕がある。

 それはレイナルドも同様であるからこその、先ほどの言葉なのだろう。

 作り笑顔をもってしても淑女の視線を根こそぎ奪うような美丈夫であるレイナルドには、立場も何もかもがアルベルトは及ばないと考えている。

 年齢すらもアルベルトは高く、まだ二十にもならないマリーとは不釣り合いかもしれないが。

 それでも。


「諦めるつもりはありません」


 一度諦めた事で、後悔する日々は繰り返さない。

 焦茶の細長い眼でレイナルドを見据えれば、レイナルドはニヤつくように笑った。

 意地の悪い顔をするようになったのも、つい最近の事だ。


「よく言ってくれた。そんなお前に褒賞を与えるよ」


 ニッコリと微笑む笑顔は幼い頃、美少年であった彼の面影を思い出させる。


「褒賞?」


 何のことだと尋ねるアルベルトの手前に一通の書状を差し出す。

 机に置かれた書面に目を通し、アルベルトは固まった。


「此度の貢献に伴い、貴君に没収されていたユベール領の一部を与えよう。よって貴君に子爵を授ける。という王からの勅命だ。お前の爵位授与に関する式典は戴冠式など全てが落ち着いてからだけど、さっさと命を下して良いとのことだったから渡しておく」

「どういう……ことですか」

「同じマリーを想う者として、立場は少しでも対等でありたいということが一点。それと、ユベール領にローズマリー姉様の墓碑を建てるためにも、父の失脚時に奪われていた土地を返還してもらったんだよ。私にはローズ領があるから兼ねることもできない。かと言って姉様を大事にしてこなかった兄にくれてやるのも気に食わない。だからお前に預けようと思う。大切にしてくれよ。私達の大切な故郷だ」


 次期王の署名が末尾に記載された書面を、アルベルトは硬直したまま眺めていたところで。

「どうしたんですか?」と、リゼルからの手紙を読み終えたマリーが戻ってくるが。


 固まったアルベルトは、暫く戻ることが無かった。


この回の次より次章とさせて頂きます。

思ったよりも長くなってしまいました。もう少しだけお付き合い頂けると嬉しいです!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 諸悪の根源王妃が残ってるのに余裕あるなぁ… ローズマリーの冤罪を晴らすと同時に、王妃の指名手配とかしなくていいの?
[一言] あれ? 次章ですか? てっきりこのままアルベルトがマリーを口説き落としてエンディングだと思ったのですが……。 新たなライバル現れる!! なのか、行方不明の王妃が何かやらかして来るのか、気にな…
[良い点] お疲れ様でした。 >大切にしてくれよ。私達の大切な故郷だ これは、「ローズ姉様の墓はくれてやるが、マリーは渡さん」という挑戦状だな(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ