38.(過去)こどもたちの憧憬
「アルベルト。私の弟のレイナルドよ」
家に迎え入れられてから間も無いレイナルドを、初めてアルベルトに会わせた。
男の子同士仲良くなれるかなと思ったけれども、レイナルドはずっと私のスカートにしがみついている。
すっかり私に甘えるようになった可愛い弟は、いつも時間があれば私にくっついてきてくれる。
「レイナルド、あいさつして」
「……こんにちは」
不満そうな声。
背の高いアルベルトに怖がっているのかなとも思ったけれど、レイナルドは誰に対してもこうだった。
「初めましてレイナルド様。アルベルト・マクレーンです」
臣下らしい挨拶の仕方を覚えたアルベルトの挨拶は騎士みたいでカッコいい。
私はニコニコしながら挨拶を見ていた。
私を見上げていたレイナルドはつまらなそうな顔をしていた。
そういう顔してても、本当は可愛いけど。
私は笑顔が一番好きだな。
「姉様。この本読みたいです」
あら、珍しい。
庭でアルベルトと一緒に過ごしていた私に、いつもは読み飽きたと言っている大好きな騎士の絵物語を持ってきてくれた。
「いいわよ」
座って花飾りを作っていた私は立ち上がり、レイナルドと一緒にベンチに座った。
一緒に遊ぶといっても、いつも一人で剣の稽古をしているアルベルトは、私達の様子を見て持っていた木刀を振るのをやめた。
「騎士の本、レイナルド様とも読んでるんですか」
呆れた言い方をされる。
「いいじゃない。好きなんだもの」
「知ってますけど」
何か不満そうなアルベルト。
いつも読んでとせがんでも、「飽きました」と言ってくるくせに。
「僕が読んでもいいですか?」
「もちろんよ」
前にレイナルドが住んでいた家では、文字の勉強もあまりさせてもらえていなかったのに、ユベールの家にやってきてからレイナルドはあっという間に文字が読めるようになっていた。
それどころか他の国の言葉も一緒に覚えているみたいで、私は見習わなければいけない。
だって将来は王妃様になるのだから。
隣同士に座って本を開いていると、目の前に影ができたので見上げた。
「アルベルト。稽古してたんじゃないの?」
「俺も読みたくなりました」
ぶっきらぼうな顔で、私の隣に座ってきた。
二人掛けのベンチだからちょっと狭い。
私は二人に挟まれてだいぶきついけれど、珍しい二人の様子から気にしないことにした。
「二人ともいつも読みたがらないのに。変なの」
面白くなって笑ってしまった。
そしたら、レイナルドもアルベルトも顔を合わせて笑ってくれた。
ページを捲る。
大好きな騎士様のお話。
私はこの物語みたいなお姫様になれるかな。
大好きな騎士様が、お姫様の私を守ってくれるのかな。
レイナルドが読み、アルベルトがページを捲ってくれる。
読み終えて、今度はアルベルトに読んでもらう。
何で飽きないんだと、呆れられるけれど。
他の本は難しくて面白くないんだもの。
小さい頃からずっと好きだった物語は、いつも私を励ましてくれる。
物語もそうだけど。
一緒に読んでくれる二人がいてくれるから。
私はとても幸せなお姫様だ。
私の、ローズマリーの騎士はいつだって、この二人なのだから。
食事の時間だと給仕が呼びにくるまでの間。
日差しの中、私達はずっと一緒に過ごしていた。