19.(過去)一転した世界
レイナルド・ユベールの人生は一転した。
姉の死によって世界が暗転したようだった。
爵位は降格。
父は国外追放。後継の兄は縮小されたユベールの地を治めるために爵位を継いだ。
レイナルドも細々とユベールの地に住んでいたが、身を潜め生活した。
姉の復讐に必要なものを考える。
まず金だ。
姉が投獄される前に弟へ授けた財産を遠慮無く使わせてもらった。
自身の死後まで弟を気にしてくれた姉を悼むと心が張り裂けるほどに痛かった。
しかし有り難く使い、投資に手を染め、没落しかけた貴族に対し兄の名を騙り資金繰りに手を貸し、結果数倍にして戻した。
次に必要なのは地位だ。
こればかりは簡単には手に入らない。
何よりユベールの名は地に落ちたため再利用することは適わないだろう。
なら新しい名を得るしかない。
何年間も下積みし、幼い自分では信用されないだろうから、資金繰りで手を貸した貴族の名を借りて隣国に手を伸ばす。
自身がようやく青年の仲間入りした頃に、国が悩ませている小部族に着目し、争いの火種を焚きつける。
結果、思う通りに事が進み。
自作自演した争いを解決した功績を得て公爵の地位を手に入れた。
新しい領地となる地に名をつけて欲しいと言われ、即答してローズと付けた。
姉の名を語る喜び。
まるで姉が見守っているようで、ようやくレイナルドは息を吸うことが出来た気分だった。
地位を得た後、次に攻略したのは政治だった。
ダンゼス伯爵が得ていた権力の縮図を、金と人脈を使い均衡を崩した。
それは、ダンゼス伯爵がかつて父に行った事の繰り返しのようだった。
観念したダンゼス伯爵は、既に城を追われ姿を消した。
だがレイナルドは彼のように地位が欲しかったわけではない。
均衡を崩したかっただけだ。
もはや枯れ木のように脆くなった王権を掌握するのはいとも簡単ではあったが、それでは復讐にならない。
金と地位と同時に動いていたのは人心だった。
レイナルドはアルベルトに命じてリゼル王子を懐柔させた。
また、グレイ王とティア王妃との仲を裂いた。この件に関しては、レイナルドが動かなかろうと時間の問題ではあったが。
姉を陥れた者達が地に堕ちていく様を眺めるのは気分が良かった。
幸せになどしてたまるか。
永遠に不幸を噛み締めるがいい!
鬱々とした想いを王家に差し向ける。
この感情を隠すつもりもなく、王を、王妃を睨み据えた。
彼らはレイナルドを怖がった。
もっと怖がるがいい。
姉と同じ翡翠の目でお前達の不幸を見つめることで、姉が見ていると思い込めば良い。
レイナルドの復讐はまだ続くはずだった。
次はリゼル王子の婚約者問題を進めていた。
グレイ王子と同じく侍女と添い遂げさせ、姉と真逆の仕打ちをさせようと盤石整える予定だった。
が、その思惑は見事に打ち砕かれる。
打ち砕いたのが、まさに姉の所業と思えば、レイナルドは喜んで作戦を放棄する。
だが彼の中で燃え続ける仄かな炎は消え去ることなく彼の心の底で燻り続けていた。
微かな光が胸の中で生み出されながらも、彼は消化する術を忘れ、彼そのものが復讐を糧に存在しているようだった。