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17.(過去)悪役令嬢の願い事

「ローズマリー。王子にご挨拶を」

「ローズマリー・ユベールでございます。よろしくお願い申し上げます……」


 何度も教えられたカーテシーで挨拶をする。

 ローズマリーより少し身長が高い少年は、興味無さそうにローズマリーを見ている。


「王子を支える婚約者として今後も勉学に励ませる予定です」

「有難い。どうかグレイの支えとなっておくれ。小さなプリンセス」

「はい」


 グレイ王子はぶっきらぼうで苦手だけれども、ローズマリーはその父親である国王が好きだった。父には全く注がれない愛情を感じられるからだ。


 生まれて間もない頃に決められた婚約者と初めて会ったのは八歳の頃だった。

 それまでの思い出は大体礼儀作法を教わっていた。幼い手で文字を書きなぞり、自国の言葉とは違う異国の言葉を覚えていた。

 時間の合間を見ては従者として一緒に育てられているアルベルトと遊び、途中から家族になったレイナルドと遊ぶ時間に費やした。

 遊ぶ機会が無いローズマリーにとって唯一の安らぎの時間だった。


 母はローズマリーを産んでから身体を壊し、レイナルドを知ってから更に体調を崩した。

 王妃教育に時間を費やせと言われたローズマリーが母に会えるのは、お休みなさいを告げるための夜だけだった。


 母は、とても弱かった。

 父の愛情を得られないこと、父が愛人を作ることが耐えられなかった。

 本来なら侯爵夫人として立ち回らなければならない環境にも慣れず床に伏せることが多かった。

 父も、身体と心が弱い母をすぐに見捨て、社交の場には歳の離れたローズマリーの兄を連れて行くことが多かった。


 レイナルドを迎えてから暫くして、ローズマリーの母は亡くなった。

 ひっそりとした葬儀でローズマリーは静かに母を見送った。


 母に遠慮して遠くから見守るレイナルドを呼び寄せて抱きしめた。


「ねえ様泣かないで」


 まだ守られるべき幼い弟に慰められながらローズマリーは涙を零した。

 何一つ思い出が無くても、母はローズマリーにとって唯一だった。


 王子の婚約者になりたくなかった。

 礼儀作法や勉強なんて嫌いだった。

 ローズマリーが欲しいのは、みんなが持っているような家族との思い出だった。






(次に生まれ変わるならば普通の女の子になってみたい……)


 鉄格子の中、冷えた床に蹲りながらローズマリーはぼんやり考えた。

 婚約者の役割も、父の道具になることも疲れた。

 身分もお金も人並みにあればそれで幸せなんだろうか。


 街で見かける、手を繋いで歩く親子にずっと憧れた。

 ローズマリーが知ってる手のひらの温もりは、レイナルドの幼い手だけだった。


(大きな手と手を繋いで、優しく頭を撫でられたいわ……)


 ローズマリーに信仰心は無かったが、そのぐらいは望んでみたいと思った。

 同時に、誰かに欲している物を与える側にもなりたかった。

 グレイ王子とは形ばかりの婚約関係で、ローズマリーは恋愛というものを経験したこともない。

 家族を与えられたいが、家族を迎える側にもなってみたい。


 普通の恋をして、好きな方と結婚する。

 それこそ絵物語の世界だ。


 この時代、恋愛結婚なんて稀な事だから。だとしても結婚する相手とは互いを想いやれる家族になりたいと思う。

 グレイ王子がティアと恋を成就させたことが、ほんの少しローズマリーには羨ましかった。

ローズマリーの傍には言い寄るような異性など居なかった。

 それが、自分の魅力の無さではなく婚約者という立場のせいで誰一人感情を伝えることが出来なかった事など、彼女は知る由もなく。


 ただひたすらに、誰かからの愛情を得たかったし、誰かに愛情を注いでみたかった。






 結果、ローズマリーは彼女が望むかたちで生まれ変わり。

 彼女が望んだ家族を迎えられたが。


 彼女が普通の恋をし、絵物語のような家族を築けるかは、また別の話だった。




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