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電脳隠密~漣玄七郎の才能~  作者: 万卜人
第四回 電脳大江戸怪異譚の巻
25/54

 二郎三郎と別れた玄七郎は、深雪を連れ、片岡外記の屋敷へ向かった。

 すぐに座敷に通され、玄七郎の報告を待ちかねた外記が挨拶もそこそこに、謁見の内容に話が及ぶ。

「日光東照宮が江戸仮想現実の要、と大樹様は仰るのだな?」

「そうらしい。あの深雪って娘が……」

 玄七郎は背後を振り返る。深雪は、縁側にちんまりと座り込み、足を庭側に投げ出してぶらぶらさせながら、片時も離さない縫いぐるみをいじくっている。

 外記も玄七郎の視線を追って、深雪の後ろ姿を眺めた。

「修正プログラム、と申されたのか。大樹様は」

「ああ。鞍家二郎三郎と言う遊客の話じゃあ、人間の形をしたプログラムなんだそうだ」

 外記は「おっ!」と驚きの顔を見せた。

「二郎三郎殿が、江戸城へ出仕なされたのか? 珍しいこともある」

「知っているのか?」

 玄七郎が尋ねると、外記は深く頷いた。

「有名な開闢遊客じゃ! 普段は品川の、裏長屋にお住まいになっておられるが、江戸においては、様々な事件を解決なされておられる。(かしこ)まった席が苦手で、江戸城に登城される義務を、逃げ回っておられた。しかし、敢えて出仕なされたと言うのは、やはり今回の危機は、それほどの一大事なのじゃな……」

 腕組みをして嘆息した。

 玄七郎は外記の言葉が気になった。

「江戸城に登城する義務、とは?」

「江戸仮想現実を創り上げた開闢遊客の方々は、幕閣にお上りになり、老中を務める義務があるのじゃ。じゃが、二郎三郎殿は、そのような窮屈な義務が苦手と見え、何度も登城を要請されたが、悉く断っておられた」

 玄七郎は、「そうだろうな」と、軽く思った。伊呂波四十八文字を染め抜いた、浪人姿の二郎三郎を思い浮かべる。どう考えても、裃を身につけ、江戸城内部で、堅苦しい遣り取りをする人物には見えない。

 足音がして、そちらを見ると、冬吉の姿が見えた。折り目正しく膝をつくと、外記に向かって口を開いた。

「お召しにより、参上仕った」

「うむ」と外記は頷き、玄七郎に顔を向けた。

「東照宮へは、冬吉を供に参るが良い。途中、何らかの妨害があるやも知れぬ」

「妨害? 敵が攻撃するってえのか?」

 外記は厳しい表情になった。

「そうじゃ! そちの話によると、ウイルス・プログラムを仕掛けたのは、黒須五十八と申す遊客らしいな。儂も調べたのじゃが、黒須五十八と申す遊客は、そちを故意に〝ロスト〟させた罪により、江戸永久所払いとなっておる。普通なら、二度と江戸仮想現実には接続できぬはずなのじゃ」

 江戸所払いとは、遊客が江戸仮想現実に接続しようとしても、アクセスを拒否する処置である。江戸において、あまりに酷い事件を引き起こした遊客に適用される。

「そうか。接続できないはずの五十八が、なぜか舞い戻れたのは、ウイルス・プログラムのためだったんだな! しかし──」

 玄七郎は首を捻った。

「俺の知っている五十八は、しこしこウイルス・プログラムを組むような、そんな辛抱強い性格は絶対していねえ……。プログラムの勉強など、一度もしたとは、聞いてはいないが?」

「協力者がいるのであろうな。五十八と申す輩に、ウイルス・プログラムを提供した、優秀なプログラマーがいるのじゃろう」

 外記の言葉に玄七郎は「ふうむ」と唸った。そんな協力者、玄七郎の記憶にはない。

 多分、自分が〝ロスト〟した後、五十八がお得意の脅しを使って、仕立て上げたのだろう。

 玄七郎と外記が黙り込んだのを見て、冬吉が話しかける。

「外記様。拙者、玄七郎殿と日光東照宮へ向かうにあたり、何か注意すべき事柄は御座いますか?」

「ああ」と思い出したように、外記は顔を上げ、冬吉に向かい合った。

「三人が日光東照宮へ向かうのは、あくまで秘密にせぬといかぬ! 大樹様が玄七郎に深雪様を連れて行くように命じたのは、隠密だからであろう。東照宮に向かう隠れ蓑が必要じゃ!」

 冬吉は首を傾げた。

「隠れ蓑。そのようなものが、御座いますので?」

「ある!」

 外記は自信深げに頷いた。

「ちょうど来月は、日光例幣使(れいへいし)が東照宮へ向かう時節じゃ! お主たちは、例幣使の一員として紛れ込めば良い。儂が工作しておく」

「なーるほど!」

 冬吉は、ぴしゃりと、自分の膝を叩いた。

「それなら、大手を振って、街道を歩けますな!」

 玄七郎はポカンと口を開け、外記と冬吉を見詰めた。

「日光例幣使って、何だ?」

 外記と冬吉は、顔を見合わせた。

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