表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
電脳隠密~漣玄七郎の才能~  作者: 万卜人
第一回 漣玄七郎、品川遊郭にて災難に遭う――の巻
2/54

 その時、別の声が響いた。

「おっと! そいつは、俺のダチなんだ。お前なんか、用はないね!」

 夜鷹がぎくりとなって、声の方向に身体を捻じ向けた。若い遊客の背後から、もう一人が姿を表した。遊客と同じくらいの年齢で、こちらもすらりとした背格好の、若い男である。

 新たに現われた男も、若い遊客と同じく、髪は蓬髪にして、横に分けている。いわゆるザンギリ頭である。

 身につけているのは、縞の着流しで、刀は差していない。だらりとした綿入れを羽織り、雪駄履きと、江戸暮らしが長そうな出で立ちだ。

 江戸にやって来る遊客のほとんどは、月代を剃らず、髷を結っていない者が多い。したがって、この男も遊客だろう。こちらは最初に声を掛けられた遊客と違い、相当に物腰は慣れ切っていそうだ。

 長い顔に、顎の辺りに青々と剃り跡が出て、くっきりとした太い眉と、芝居に出れば大向こうを唸らせるような「目千両」と形容するに相応しい顔つきをしている。

 目鼻立ちだけ見れば、水も滴る良い男と言える。だが、生憎と表情は良くない。下卑た笑いを終始ずっと頬に張り付かせ、初対面の相手でも、即座に不愉快にさせる表情を浮かべている。

「ちっ!」と夜鷹は、舌打ちをした。獲物を、目の前で掻っ(さら)われた心地であろう。

 ザンギリ頭のほうが、夜鷹に向かって、邪険に手を振って追い払った。

「おととい来やがれ! こっちは先約があるんだ!」

「べえーっだ!」

 夜鷹は悔しそうに舌を出すと、くるりと背を向け、いそいそと街道へ戻って行った。新たな上客を探すつもりらしい。

「玄七郎! 何ボケっとしたまま、突っ立ってるんだよ! あんな時は、きっぱり断らないと、付け上がらさせるだけだぞ!」

 ザンギリ頭が、「玄七郎」と呼びかけた侍姿の遊客に馴れ馴れしく話し掛けた。どうやら、若い遊客の名前は、玄七郎というらしい。玄七郎は、ぼうっと立ち尽くしていたが、ようやく我に返った。

「あ、ああ……。判ってる……。でも、あんまり驚いたもんだから……」

 もごもごと口の中で呟くように答えた。

 ちらりとザンギリ頭に視線をやり、問い掛けるように話し掛ける。

五十八(いそはち)。君は随分、慣れているみたいだな」

「へっ!」と五十八と呼び掛けられた男は肩を(すく)めた。目に、からかうような色が浮かぶ。

 まるで「俺以外の人間は、総て馬鹿!」と言いたそうな、顔つきである。

「いい加減、その言葉遣いも改めねえとな。いつまで経っても、現実世界の癖が抜けねえと、上手くやってけねえぜ!」

 玄七郎は「うん……」と、自信なさそうに俯いた。

 侍姿の若い遊客は名前を(さざなみ)玄七郎と名乗っている。ザンギリ頭は黒須(くろす)五十八。

 もちろん、本名ではない。現実世界から、江戸仮想現実に接続するときに使う、別名なのだ。

 そう、ここは仮想現実の江戸なのである。

 二人は現実世界から、仮想現実接続装置を介して入府するプレイヤー……こちらでは遊客と呼ぶ……なのだ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ