一
昼日中というのに、品川宿は、白粉と香水の匂いに、咽せ返るようであった。街道沿いにずらりと並んだ遊郭の窓には、客待ちの女郎が、虎視眈々とそぞろ歩く町人、遊客の品定めをして、上客が通り過ぎないかと待ち受けている。
目当ては、もちろん、遊客に決まっている。何しろ、品川宿は、遊客の大部分が最初に、江戸へ足を踏み入れる場所で、遊客目当てに、遊郭が軒を並べている。
品川宿付近に住まう町人は、あまりこの辺りにやっては来ない。何しろ遊郭の狙う客が遊客なので、女郎を相手に、ちょっと遊ぶだけでも、目の玉が飛び出るような料金を請求されるのだ。
ここで後先を考えず、女郎を相手にするのは、江戸に慣れない、新顔の遊客のみである。
つまりは、ぼったくりなのだ。江戸に慣れた遊客は、そんな事情を充分に承知しているから、別の場所で楽しみを見つける。
遊客を狙うのは、遊郭の女郎だけではなく、夜鷹などの私娼も含まれている。街道を、明らかに物珍しそうに遊客がやって来ると、さっそく纏わりついて、獲物にしようと狙っている。
「ねえ、ちょいと! お兄いさん! そこの、良い男っぷりの旦那!」
黄色い嬌声が弾け、声を掛けられた遊客と思しき、若い男は、びくりと飛び上がるような姿勢になった。
若い。まだ二十歳前後であろう。もしかすると、十七~八かもしれない。遊客の年齢は中々把握しづらい。
何しろ江戸にやって来る遊客は、各々自分がなりたい姿に変身しているから、もとの年齢と懸け離れた姿態を取っている場合が圧倒的に多いのだ。
が、声を掛けられた若い遊客は、あまり自分の姿に変更を加えてはいないようだ。
ひょろりとした背格好で、頭髪は蓬髪にして、髷は結ってはいない。花札の柄を一面に施した着流しに、真っ赤な鞘の刀を差しているところは、いかにも遊客らしいが、物腰はおどおどしていて、視線はあちらこちらを彷徨っている。
年齢は、態度物腰に出る。どんなに見かけを繕っても、若さは隠せない。躊躇いがちの視線、常におどおどしている物腰。強がれば強がるほど、化けの皮は剥がれるものだ。
声を掛けたのは、三十がらみの、いかにも海千山千の夜鷹であった。目が糸のように細く、絶えず笑みを浮かべている。夜鷹は獲物と見て、するりと若い遊客に近寄った。経験豊かな夜鷹には、目の前の若い遊客は、手玉に取るに相応しい、カモであった。
自分の身体を擦りつけるようにして、下から見上げている。
若い遊客は、背の高さ五尺八寸ばかり。江戸の人間はたいてい、五尺前後のため、飛びぬけて背が高く見える。
もっとも、遊客というのは、ほとんど背が高い。中には、六尺を遙かに越える長身の者もいる。
「ね、江戸は初めてなんだろ? あちしが良い場所を知っているから、一緒に遊ばない? 一晩中でも、楽しませてあげる!」
遊客の男が何か答えようと、口を開いた。