次回予告
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デスクトップの画面に浮かんだ文字から目を離し、テオドルスはため息と共に振り返る。
「おいおい、どうすんだよ。予測率が計算不能とかさぁ……完全にお前が気まぐれを起こしたせいじゃねぇの」
歯車の軋む部屋は、プレアデス機関の振りまく青白い光で染められていた。ゆったりと椅子に腰掛けたアランは、冷たい微笑を浮かべて返す。
「俺の気まぐれではないよ。ラトラナジュが必死にねだって手繰り寄せた結果だ。全くもって予想外だったが、これはこれで、実に可愛らしい」
「確率の悪魔がよく言うぜ。本気になりゃ、あの子の選択を潰すことも出来ただろうにさ」
「予想出来ないことは選択できないものさ。確率として存在しないのだからな。だからこそ、無いものを創り出す彼女が愛しいというもの」
「へいへい、素晴らしい愛じゃあねえの」
「愛だ、そうだとも」アランはそこで僅かに表情を曇らせた。「俺はラトラナジュを愛している。なのに、彼女は私を選べと言ったんだ。妙なことを言うだろう? 心配せずとも、俺は彼女の幸せを何度だって選択してみせるというのに」
「時々、ラナちゃんが可哀想に思うけどな。俺としては」
「ほう?」
剣呑に細められた金の目に、テオドルスはやれやれと大仰に肩をすくめた。
「あんたの狂った愛情深い願いさえなければ、もう少し穏やかな人生を歩めただろ。あの子も」
「何を言い出すかと思えば」アランは鼻先で笑った。「狂っていない願いなどあるものか。それはお前も身に沁みて分かっていることだろう? テオドルス・ヤンセン」
思わぬ反撃に、テオドルスはぎこちなく目をそらした。まさにアランの言う通りなのだった。
誰も彼もが狂っているのだ。アランは死に瀕した少女の幸せを願った。カディルは血と死にまみれた魔術の完成を追い求めた。そして自分は、大病を患った彼女の生きる世界を望む。願いは単純で、けれど何かを掛け違えてしまっているからこそ、時間の巻き戻しという利己だらけの舞台装置が機能する。
自分たちに足りないのは、信頼だとか敬愛だとか、そういうお綺麗なものなのだ。テオドルスがそのことに気づいたのは、アランと共に百度ほど世界を巻き戻した頃だった。だが、同じく確率の悪魔の言葉を借りるならば、そんな不確かなものに縋れるはずがない。それは何千何万と時巡りを重ねた今でさえ変わらない。
テオドルスは黒髪を掻き、早々に思考を放棄する。
「……まぁ、楽しむのも程々にな。カディルの野郎は手が吹っ飛んだからって頭に血が登ってるみてぇだしさ。悪手を打てば、被害もそれなりになるぞ」
「負ける気もないくせに、よく言ったものだ」
「そりゃ、お前もだろ」
「無論そうだとも。ラトラナジュのためにも、敗北という確率を選ぶわけにはいくまい」
くつくつと喉奥で笑うアランへ、テオドルスは肩をすくめた。時間が巻き戻る直前、エドの短剣によって破壊されたパソコンをテーブルに置く。プレアデス機関と直に接続されたデスクトップをしばし見やり、彼はキーボードを叩いた。
プログラムが起動し、無数に開かれた黒の画面が一つずつ閉じていく。今回の世界では、プレアデス機関による予測が利かない。それでもテオドルスは、これが最初で最後になるだろうと直感する。
いまだかつて、ラナの意思で時間が巻き戻ったことはなかった。だからこそ予測困難なわけだが、一度反抗してしまった以上、アラン・スミシーという悪魔が二度目の反抗を許すはずもない。
ラナ達は粛清され、アランの見つけた永久の幸せが繰り返されるか。
あるいは。そんな期待に満ちた予想を、テオドルスは苦笑いして否定する。
そして、最後に残った黒の画面が閉じた。
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> EP5:AL2O3 泣きだす君に祝福を
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