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俺たちがこの部屋に逃げてきて、三十分あたりが経過した。
俺とサラを逃がすために、レティアとノニールは残った。
ラオルはそれなりに強いが、相手は一人。
それなのに、二人共戻ってくるのが遅い。
「遅いな」
「うん、マトイさん」
俺とサラの間に沈黙が続く。ラオルの名前を出したあと、サラは困った顔で俯いていた。
そして沈黙が、ずっと続いていた。なんだかこの空気は居心地が悪い。
「あの二人は、強いから負けたりはしないと思うが」
「そうですね」それでも、言葉に感情はない。
ダメだ。さっきまでいい空気に戻ったと思ったのに、また重苦しくなった。
「ん、なんだこれは?」そんな時、置かれたリュックサックが目につく。
いや、正確には僅かにはみ出した本のようなものの上の部分が見えた。
「あっ、これは……その……」慌てたサラ。慌ててリュックの前に立つ。
「何を隠した?」
「えっ、これは大事なもので?」
「もしかしてラオルが言っていた『ナーリーレシピ』か?」
「あっ、うん」すんなりとサラが自供した。ラオルが欲しがっている本だ。
「そういえばサラが、渡すのを拒否していたけどこの本はなんだ?」
「私のママで薬剤師の、ナーリーが書いたレシピです」
サラがリュックサックを開けて、一冊の大きなノートを取り出した。
表紙は古ぼけていて、年季の入ったボロボロなノートだ。
「これが、ラオルが欲しがる本。なんでアイツが欲しがるんだ?」
「おそらくこの本の内容を、彼は知っているからです」
「どういう意味だ?」
「私のママ、ナーリーはテスコンダルで優秀な薬剤師です。
ナーリーは世間に自分の薬剤研究の基礎を書に残した人で、その人が唯一世の中に出回らせなかった本。
これが『ナーリーレシピ』です」
「それはわかるが、やはりラオルが欲しい理由はわからない」
「おそらく、私が解明できない薬があるのでしょう」
「解明できない?」
俺は首をひねった。
「はい、このレシピは全ての薬剤の知識がないと解明できません。
だから私は、このレシピの全ては理解できません。
それでも、このレシピを誰かに渡すことはできません」
「ましてや、あの怪しいラオルならなおのことだ。そういうことか」
「はい」サラは、再び大事そうにリュックサックの中に本をしまった。
それと同時に、下の方から足音が聞こえてきた。
「レティアさんが、戻ってきたのでしょうか?」
「うーん、それにしては数が多い」
足音はひとつふたつではない、もっと多い。
「何だ、すげえ嫌な予感しかしないんだけど」
俺はすかさず、サラとドアの間に割って入る。
そのまま、俺とサラは息を飲んでドアを見ていた。
やがて、足音がこの部屋で止まる。数はどうやら四人。
「ここにいるのか?サラ・バリジャッド」
ドアを開けた瞬間、青いマントに黒い虎の頭の人間を、ど真ん中に立っていた。
その脇に、兵士みたいな三人を引き連れていた。




