089
結局俺とサラがこの街で戻れる場所は、大通りの『黒鉄亭』だけだ。
病院から大通りまでは、それほど距離はない。
戻る道中に、幸い獣や小競り合いに遭遇することなく無事に宿屋に戻った。
無論、一階の酒場は臨時休業だ。
それでも客間のある四階には入れたので、俺たちは個室に戻る。
そして入ったのはサラの部屋。あいかわらず、机にランプが置かれていた。
窓の外には、内乱で上がっている煙がいくつも見えた。
「サラ……どうしたんだよ」
「ごめんなさい、私のせいです」落ち込んだ顔で、椅子に座っていた。
「何がだよ、俺はわからない」
「あの獣は、ステージ2です」
サラは突然、獣化病のステージを言い始めた。
「ステージ2?」
「はい、おそらく今街に現れている獣はステージ2、病院に入院していた人間です」
「ステージ2は確か……体に異変が起き始める」
「ええ、そうです」
「あの獣はガッツリ獣をしていたぜ、目も赤かったし」
「私がアルカンテに来た日、届け物をしたのを覚えていますか?」
「ああ、ここにはそもそも届け物をしたって」
「その届け物が、『ノクセント』の試作品でした」
サラの単語が、ラオルの単語に重なった。
「『ノクセント』ってなんだ?」
「ステージ2の症状を、下げる薬です」
「下げるのか」
「試作品ですが、アッサニー博士の研究がうまくいって……それを各病院で試験運用として配ることにしたのです」
「なるほど、でも、この話の流れだとサラの落ち度はどこにもない」
「ノクセントは、試作品で完全に完成していないので副作用があります」
「副作用……か。それは?」
「一時的に、ステージを上げてしてしまう薬です」
「それは困るな」
とにかくステージが進めば、獣により近づく。
俺はステージ3だが、その薬を飲めばステージ4になってしまうのだろうか。
「でもそれは、一時的なものだろ。どれぐらいなんだ?」
「薬の副作用は個人差があるものの、約三時間。
でも……あの薬は副作用さえも緩和できる薬があるの。
上手く処方すれば、副作用の効力を弱められるが、毒にもなるんですよ」
「まさか、処方を間違えて……」
「可能性はあります。急に獣化した理由が処方ミス……ならばいいのですが」
「まだ、あるのか?」
「いずれにしても、私がこの薬をこの病院に持ってこなければ……こんなことに」
「責めるなよ、悪いのはお前じゃないだろ」
俺は両手を肩にかけて、サラを励ました。
だけど、サラにしてみればショックなのだろう。
自分のしたことが、こんな要因を生んでしまったのだから。
「いいえ、それでも……」
「前にも言っただろ、自分を責めるな。
これはお前の善意を利用した、悪用したヤツが悪い」
「ありがとう、マトイさん……」
「ああ、俺に任せろ。それより、その処方した奴はあのラオルか?」
「それですが……ラオルは私もよくわからないのです」サラは困った顔を見せた。
サラの困った顔に、しばらく沈黙が俺との間に続いていた。




