086
アルカンテの街は広い。
貴族街から、かなり南の方にサラが勤務する『アルバート病院』があった。
サラはいつもどおりなら、病院でまだ診察をしている時間だ。
病院に行く途中の街で、何箇所で小競り合いが見えた。
いずれも一般市民と兵士が戦っていた。
「いろいろ街の中は混乱していたが、ようやくたどり着くな」
「マトイ、このあたりに病院なんかあるの?」見た目は住宅街だけど、俺はレティアを案内した。
「ああ、大通りの先には病院がある」
「そう」細い通りは、街中の喧騒から離れていた。
貴族街を中心に起きていた内乱の火種は、このあたりはあまり聞こえない。
無論、俺も道案内をする中で戦っている場所を選んで通ることはしないが。
「だけど、最後のヤマか」俺は大通りの近くに向かう途中で立ち止まった。
「何かが向かってくるっす」ノニールも、それに気づいて杖を構えた。
住宅街から病院に向かう小道で、人が向かって来た。
しかし頭を見ると、それは人間ではない。
そこにいたのは狼男。
白い毛の狼男は赤い目を光らせて、路地の突き当たりから現れた。
「獣っすね」
「やるしかないわね、ステージ4だし」
レティアはすぐに剣を抜いた。後ろにいた俺も、ノニールの前に出る。
「やるのか?」
「あたしだって勇者よ、これぐらい」
そう言いながら、レティアが獣に駆け出した。
獣も爪でレティアを攻撃するが、その爪を華麗にかわして上に飛ぶ。
そのまま、レティアが上空から剣を突き立てて切り下ろした。
「これでもっ!」
レティアの剣が狼男の肩に命中し、血が吹き出ていく。
その血の色は人間と同じ赤い血、ヨロヨロとそのまま血を流しながら家の壁に倒れこむ。
剣についた血を払ってぬぐい、俺に背中を見せた。
「どうかしら?」得意げな顔でレティアが、俺に見せてきた。
「うん、勇者らしい」獣人相手だと、躊躇がないレティア。
「ちょっと、もっと褒めなさいよ!マトイっ!」
「獣とか、ますます混沌としているっすね」
「ああ、急ごう。あそこが、サラのいる病院だ」
獣を倒して大きな通りに出て行く。大きな通りに面して、白く大きな建物が見えた。
四階建ての白い壁の建物は、清潔感があった。看板にはデカデカと『アルバート病院』と書かれていた。
「明かりはついているけど、人の気配がないわね」
「サラは中にいるのだろうか」
「さあ、わかないっす」ノニールの言うとおり、上の方に明かりはついているが人の姿が目視で確認できない。
「レティア。そういえばアルカンテに、獣協会はあるのか?ないのか?」
「いや、そこまで情報が揃っていないのよ」
「まあ、勇者の家督争いに巻き込まれたし」
「う、うるさいわね!」
レティアはムキになって、大きな俺に叫んでいた。
そんな折、誰もいない病院のドアがゆっくりと開いた。
そのドアは半開きで開いた後、一人の人間が上半身だけ体を出して外の様子を伺っていた。
だけど、そいつは俺がよく知っている人間だ。
「あっ、レティアさん達!どうしてここに?」
ピンク色の十字を描かれた、真っ白いローブを着た長い髪の女……サラだ。
サラが俺たちを見るなり、安心したような顔で小走りに駆け寄ってきた。




