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満員の観客は圧倒していた。
闘技場の席はほぼ埋まり、人の波が押し寄せていた。
レティアの計らいで、俺たちはそんな観客席の上に位置するVIP席に通された。
これも勇者レティアの特典の必要らしい、勇者の権限は本当に強いな。
闘技場の中でも、最上階で周りに仕切られるものもない。
最高の席で、レティアと俺が眼下にみえる闘技場の舞台を眺めていた。
円形の観客席も、このVIPルームからは下に見えていた。
「もうすぐ始まるわね」
「そうだな」俺は、それほど感情を表さない。
「ここ、王族も観覧に使う場所なのよ」
「へー」そんな事を言うと、下の方から声が聞こえてきた。
「今日はVIPにファルカメルの勇者、コンレイ・レティア様が来ております!」
審判の声だろうか、それが聞こえるとVIP席のさらに前に出てレティアが手を振っていた。
堂々と笑顔で手を振るレティアをみて、観客がさらに湧き上がった。
「すげえな」と思いながら俺は離れたところで、ぼんやりと見ていた。
「マトイはいつも、落ち着いているのね」
「俺は、元々テンションが低いんだ。あまり、気にしないでくれ」
「そう」隣に座るレティアは、舞台である下を見ていた。
下の舞台では、審判の黒服の男が真ん中に立っていた。
マイクのようなモノを持って、二人の女が紹介されていた。
一人はマリア、もう一人はシアラ。
細かく表情はよく見えないが、髪型で上から確認できた。
ツインテールのマリアは、さっきと同じ戦闘用の衣装に着替えていた。
ただ一つ、槍を背中に背負って舞台の右手側に見えた。
ショートカットのシアラの格好は、白い水着だ。胸に白い布、白いパンツと赤いロングブーツ。
勇者というのはなんでこんなに、セクシーな格好をしているのだろうか。
さらに舞台には、クラーがマリア側の人間として、後ろで見守っていた。
ブリニッドは、シアラ側の人間として後ろで腕を組んで立っていた。
「あそこに居るのが、審判よ」
「小さいな」
会場に紹介をした審判は、黒い服を着ていた。
その審判が二人を呼びつけて、マリアとシアラが近づいていた。
二人は小さな布のようなものをもらって、腕に巻きつけていた。
「あれが勇者の腕章。勝利するためには、あの腕章を、地面に落とさないといけない」
「それがルールか」レティアが、上から解説をした。
「ええ」説明の間も、観客の盛り上がりがすごい。
だけど、俺はずっと気になることがあった。
「さあ、いよいよ始まるわよ」
レティアが身を乗り出して、既に用意された椅子から尻が離れていた。
「楽しそうだな」
「ええ、だって見るのは初めてだから。
夢だったのよね、他人の決闘をこうやって上から見るの!」
「それにしても、ノニールがいないな。
ここで、合流する筈じゃなかったのか?」
「トイレかどっか行っているんじゃないの。
対戦相手のシアラも、ちゃんと出てきているし」
確かに闘技場にシアラは、舞台に出ていた。見た目はやや恥ずかしい格好だが、様子は普段と変わらない。
「ちょっと俺もトイレ」
「もう、マトイったら!試合がはじまっちゃうわよ!」
何かが気になった俺は、表情を変えずにこのVIPの部屋を出て行った。
それとほぼ同時に、大きな歓声が上がっていた。
舞台ではシアラとマリアが、互いの武器をぶつけ合って戦う。
レティアは、興奮気味に親友の戦いを見守っていた。




