069
その日の夜、宿の個室に戻った俺はある女に呼び出されていた。
それはサラだ。サラの部屋に呼ばれた俺は、無理やり連れて行かれた。
サラの部屋は俺の部屋より、ベッドが小さいだけに広く感じた。
大きなリュックも置かれていて、テーブルには小さなランプが置かれていた。
その部屋に、レティアが既に先客でいた。俺が連れ込まれるなり、レティアのそばに座らされた。
右腕が包帯姿のレティアは、なんだか申し訳なさそうに縮こまっていた。
「レティアさんとマトイさん。なぜ、外に出て行ったんですか?」
「それは……旧友に会っていた」サラが怒っていた。怒られたレティアの歯切れが悪い。
腰に手を当てて起こるサラは、ちょっとだけかわいく見えた。だけどそんなサラがすぐに俺に詰め寄る。
「マトイさんは?」
「その付き添いだ」
「そうですか」サラは、大きくため息をついた。
その表情は、笑顔ではなく怒りだ。頬を膨らませて、椅子に座った俺とレティアを見ていた。
「レティアさんは、右腕がまだケガ治っていないですよね?」
「もう大丈夫だ、ほら……このとおり」サラの前で、包帯姿の右腕を見せてきた。
「ちゃんと治っていませんよ、剣を持つときに力が入らないでしょう」
「そんなことはない、ほら剣だって」
立ち上がってレティアが剣を抜いて振るのだが、バランスを崩して落としてしまう。
表情を歪めながら、ゆっくり剣を拾い上げた。
「腕の踏ん張りが効きません、まだ完治はしていませんよ」
「ごめんなさい……」サラが怒り、レティアがしおらしく謝った。
「マトイさんも、マトイさんです!レティアさんがケガしているのに、外に連れ出すのはダメじゃないですか!」
「すまない」俺も、素直に謝った。
「あれは……あたしが連れ出したのよ!マトイは……」
「それでもですっ!」頬を膨らませたサラは、腰に手を当てて俺の前を上目で見ていた。
「けが人を外に連れ出したら、同罪ですよ」怒っているようで、悲しんでいるように見えたサラ。
「はい、反省します」
「全く……前もそうでしたよね?レティアさんは、すぐ飛び出そうとするんだから」
「面目ないわ。だけどこのまま何もしないのは、いられないのよ。時間もたった三日しかないし」
「……わかっています。レティアさんは、勇者ですから」
呆れて、自分の椅子に座ったサラ。疲れた顔で、大きくため息をついていた。
「半年前だったかしら?私が治療した時も、部屋を抜け出して戦いに行こうとしたでしょ」
「う、うん。あの時は……仇討ちを。アイツを逃がすわけには行かないの」
「そういう人なのは、私もわかっていますから。
レティアさんは、理由なく行動する人じゃないし」
そう言いながら、サラはテーブルの上に薬を置いた。どうやら、粉薬のようだ。
「これ……痛み止めですよ、二回分。食後に飲んでおけば、痛みを感じずに剣を振れると思いますよ」
「サラ……本当にありがとう」
「当然です、私は医者ですから」やはりサラは、にっこり微笑んでいた。
でも、すぐに顔を真顔に変えた。
「でも、ちゃんと自分の体のことを第一に考えてあげてくださいね。
自分のことを面倒見られるのは、自分だけですから」
「わかったわ、サラ」
「あの、ただいまっす」
そんな時、おそるおそる部屋に入ってきたノニール。手提げかばんを持って現れた。
もしかしてノニールは部屋の外で、この会話を聞いてタイミングを計っていたのか。
「ノニールか、おかえり」俺が声をかけた。ノニールもゆっくり部屋の中に入って、テーブルのそばに来た。
「みんなが部屋にいないから、順番に部屋を回ったっす」
「サラに拉致された」
「いいえ違いますよ、ノニールさん!」
俺の言葉をにこやかに否定するサラ。さっき怒っていた表情とは全く違う。
「そうっすか、それよりレティア様。マリアさんに、ちゃんと話を聞いてきたっす」
「マリアさん?」サラは首をひねっていた。
「ああ、あたしの知り合いだ。あたしたちも、シアラに会ってきたわ。
それじゃあ、早速話そうか。これからのこと」
「その前に……」開いた椅子に座るノニールは、手提げ大きなカバンを持っていた。
「マトイ君、これ……頼まれていた洗濯物っす」
ノニールは、俺は手提げかばんを受け取った。
そこには昨日汚れた、サラに買ってもらった服が入っていた。




