068
ボスッ、俺の胸にブリニッドの拳が命中した。
俺のグリゴンの体は、ブリニッドの拳すら全く効かない。
それでもブリニッドは拳を、胸につけたままじっと俺を見ていた。
「お前は獣か?」低音の声で話してきた。
「ああ、そう呼ばれているらしい」
「なぜシアラ様を見ている?」
「いや、可愛い子だなって」
「嘘つけ!お前のその目は、物を観察する目だ」
「俺の目は細いからな。多分睨んでいるように見えるのだろう」
その言葉を聞いて、ブリニッドが拳を引っ込めた。
意外とコイツは、鋭い。何かを警戒しているかのようだ。
「ちょっと、何やっているのよ!ブリニッド!」
「いえ、すいません。つい彼の目が気になってしまって……申し訳ない」
素直にブリニッドは、シアラに頭を下げていた。
「ごめんね、コンレイ。あなたの仲間に……」
「いえ、いいのよ」
「失礼ついでにもうひとつ聞くが、マリアには会ってきたのか?」
今度はレティアに対して向いていたブリニッド。
「ええ、そうよ。ここに来た日に……二日前に偶然会ったわ」
「そこで、何かを吹き込まれたのか?」
「いいえ、違うわよ。酒場でも、あなたたちのことが噂になっていたわ」
ブリニッドは、「そうか」と言いながらレティアから顔を背けた。
「ねえ、言いたくないけど……このデマに関しては、あの子が犯人よ」
拳を握ったシアラは、悔しそうな顔で俯いていた。
「マリアが?シアラとマリアは仲がいいはずでしょ!」
「あの子はおかしくなった、父が亡くなってから……」
「それはわからないけど」
「父上が亡くなって、あたしは気丈に振舞ったけど、マリアはおかしくなった。
一年前のあの日も、マリアはある一人の妻子ある大臣とモーテルに入っていったのよ!」
「も、モーテル?もしかして」レティアが、顔を赤くした。
この世界には何故かモーテルがある、宿屋をよりエロ方面の建物の事をいうらしい。
宿屋のある大通りから、一歩外れた裏路地にモーテルはいくつも建っていた。
そういえば昨日も言っていたな、マリアが不倫したとか。
「ええ、浮気よ。マリアは大臣の不倫相手なの」
「それって、そんな……あんなに真面目なマリアが」
「驚くのも無理ないわ、あたしだってあんなことをすると思わなかったから。
でもその大臣は、かなり偉い人だし……あたしたちの決闘を裁く審判と関係もあるし」
「そうなのね」
だけど、その目は少し泳いでいるようにも見えた。
もしかして、この会話の中に彼女は嘘をついているのか。
それでも、モーテルの名前を出されてかレティアはすっかり信じきっていた。
不倫なんかの話は、女が好物なジャンルの話だろうからな。
「何をしたのかしら、モーテルで?」
「いろいろ、あんなことや……」
「うんうん」レティアがしっかりシアラから聞き出していた。
「こういうことを、きっとマリアはいろいろやっているのよ」
シアラの目が、全く泳がなくなった。
どうやら会話の中に、部分的なウソと真実が混じり合っているようだ。
「シアラ様、そろそろ訓練の時間です……」ブリニッドが力説したシアラを、止める。
「いい、とにかくマリアには気をつけなさい!」
「そうね、わかったわ」
シアラは巨漢の男にズルズルと連れて行かれながら、大きく手を振っていた。
レティアが、やはり大きく振って見送っていた。
大柄の俺は、ただ呆然とそれを見守るしかなかった。
「終わったな」
「うん……それにしてもマリアめっ!何てことを」
顔が完全に真っ赤になったレティアは、勝手に妄想していた。
「だが、これでよかったのか?」
「シアラはやっぱりシロだと思うわ」
「感情に流されるなよ、レティア。この戦いは、決着がつかないことが問題だからな」
俺の言葉に、顔の赤いレティアは頷いていた。




