064
(MATOI`S EYES)
再び現在に戻った。レティアが俺に語った自分の過去の話。
真ん中にぼんやり輝くランタンが、チリチリと燃える中で話していた。
レティアの話を、俺はじっと聞き入っていた。
「あの後、あたしやシアラ、マリアもボラウェン様やパパからすごく怒られたけどね。
でも、今となってはいい思い出よ。翌日旅立つあの二人とあたしは、約束したことがあるの」
「約束?」
「『今度、アルカンテに来たら一緒に遊ぼう』って。
まあ、アルカンテはファメルカスからかなり遠いから来る機会はなかったんだけど。
ようやくアルカンテに来たら、こんなことになっているなんて」右手でテーブルを、ガンと強く叩いていた。
レティアにとって、それは辛いことだろう。親友の双子が、街を上げて喧嘩をしていたのだ。
「二人とは仲がいいんだな」
「あたしにとっては、初めての同世代の友達だから。あのあと手紙でもやり取りをしたの。
あたしの周りは大人ばかりで、シアラもマリアも……あたしにとっては大事な人なの」
「それはわかったが……お前はどうしたいんだ?」
「わからないの」レティアも迷っていた。胸に手を当てて、困った顔を見せた。
その顔は女の顔で、普段の強気な顔ではない。
「シアラも、マリアも勇者に成ろうと努力をしてきた。
勉強もして、修行もして、勇者の試練を受けて、二人は勇者に成ろうと努力してきた。
しかし、勇者の剣は一本でなれる勇者は一人だけ。
ボラウェン様が亡くなって、跡目争いを続けているけど……終わらせたい」
「勇者は決闘で決まる、決着がつかないと先に進まない。
方法が、決闘だけならいずれは決着がつくだろう。何が問題だ?」
「それはそうだけど……なんかモヤモヤするの」
「モヤモヤ?」
「シアラとマリアの戦いが、最近は互いを傷つけ合う戦いになっているから。
ああっ、おかしいわよね。決闘って本当は互いを傷つけあうものなのに……なんか上手く言えない」
困った顔で、レティアも迷っているようだ。
強気でハッキリと言う彼女が、モジモジした態度を見せていた。
「ちょっと夜風に当たってくるわ」フラフラとレティアがドアの方に向かっていく。
そのまま部屋を出て行った。残されたノニールは、頬杖ついて難しい顔を見せていた。
「うーん、多分こういうことを言いたいと思うっすよ」
「ノニール……」
「勇者は決闘の勝者が、一人だけなる。
だけど負けたほうは、勇者にはなれない。
しかしその決闘は、決着がつかない。その原因はレティア様が、わかっているっすよ」
「原因?知っているのか?」
「まあ、レティア様も一応勇者っすから。だけどそれをしない。しようとする勇気がないっすね」
「じゃあ、俺たちではどうすることもできないということか」
「まあ、勇者の世界はかなり独特っすよ。おまけに個人的な話なので、難しいところっす。
ただ、レティア様があんなに落ち込んで迷っている姿はなんか嫌っすね」
ベッドから立ち上がったノニールは、歩いてレティアが見ていた窓のそばに立っていた。
俺もノニールの後ろで、窓の夜景が見える位置にいた。
「マトイ君は、決闘のことをどこまで知っているっすか?」
「決闘?勇者を決める戦いのことだろ。そういえば、今度はいつやるんだ?」
「その決闘は、三日後にあの場所で行われるっす」
窓の外の夜景の中に、光で輝く円形の闘技場をノニールは指差していた。
だいぶ宿から離れているように見えるが、大通りの交わる街の中央にその建物はあった。
「三日後か、今度の戦いは六度目だっけ?」
「そうっす」
ノニールは、俺の方を振り返って首を横に振っていた。
「その決闘は、やらないといけないのか?」
「勇者になる最終試験っす。大勢の観客の前で、勇者のお披露目をする場でもあるっす。
本来そこで、後継者として剣を与えられて勇者の剣を引き継ぐっす。
ただボラウェンさんが亡くなって、引き継ぎはややこしくなっているっすが」
「勇者も大変だな」
「勇者は大変っすよ」
「レティアの時は、どうだったんだ?」
俺がノニールに質問したとき、俺の肩に手を乗せてノニールがにこやかな顔を見せた。
「本人に聞いたほうが、早いっすよ。マトイ君」
俺にその言葉を残して、ノニールが俺とすれ違うように歩いて部屋を出ていった。




