063
薄暗い教会を、あたしはシアラと闇の中を登っていく。
この場所は、五歳の時に一度両親と連れられて来た場所だ。
階段の位置も、なんとなく覚えていた。シアラを先頭に、あたしは道案内をしながら上を登っていく。
五歳の時に来た時は、教会で普通にミサが行われていた。
教会の上のテラスから見えるこの町の景色が、あたしは忘れられなかった。
その景色を、初めて出来た年の近いシアラやマリアに見てもらいたかっただけなのに。
しかしあたしが思い描いていた形と、全く違うことが起きていた。
(なんでこんなことになったのだろう)
あたしは運命を恨みながらも、なんとか三階にたどり着く。
だが後ろから獣が、確実に追ってきていた。
「コンレイ、いざとなったらあたしが守るから」
「シアラ……」幼いあたしは、幼いシアラに守られていた。
「だからあたしから離れないで、コンレイっ!」
「うん、大丈夫。屋根まで登れば……追ってこられないから」
三階の一室にたどり着いたあたしとシアラ。
暗闇の部屋の中で、あたしはハシゴを見つけた。
しかし、ハシゴを見つけたとほぼ同時に獣も三階のこの部屋に来ていた。
入り口付近を完全に抑えて、ゆっくり間合いを詰めてきた。
「先にハシゴを登って……コンレイ」
シアラが、あたしに指示をした。
「シアラ、どうするの?」
「コンレイが登るまで、守る!」
シアラは、近くに置いてあった椅子を見つけて、木刀にように振り上げた。
二人が上がっているうちに、ハシゴを壊されたらどうしようもない。
「でも、シアラが……」
「ここはお姉ちゃんの言うことを、聞きなさいっ!」
シアラの年上オーラが、迷うあたしをハシゴに向かわせた。
そのまま獣が、シアラに向かって来た。シアラは思いっきり獣に、椅子をブン投げた。
椅子がいともあっさりと獣の爪で、バラバラになっていく。
シアラを尻目に、あたしはハシゴを登ろうとする。
必死に登ろうとするが、恐怖のあまりに普段登れていたハシゴが登れない。足がすくんでいた。
「なんで……なの」震えるあたしの足が、全然言うことを聞かない。
早く登らないと、シアラがあたしのために時間を稼いでいるのに。
あたしの足元で、シアラは部屋にあった椅子を再び持って振り上げた。
「早くっ!」シアラはハシゴの上にいるあたしに、声をかけた。
獣の方を向きながら、椅子を投げつけていた。
だけどあたしの足が震えて、体が上に進まない。
それを下で見ていた獣が、シアラの椅子を避けた。
そのまま、シアラもハシゴの方に一直線に走ってきた。
「マズいっ!」
シアラが椅子を投げて抵抗するが、それでも獣は無視して突撃する。
そしてハシゴの前にたどり着いた。
(ダメ……あたしのせいで)
あたしは自分を、自分の弱さを憎んだ。
あたしのせいでシアラを、危険な目に合わせてしまった。
「ごめんなさい!」大きな声であたしは叫んだ。
叫んだ瞬間、突然獣の動きが止まった。そのまま、獣がその場に倒れ込んでしまう。
よく見ると獣の背中に一本の剣が、体を貫くように刺さっていた。
「それならいい」
「その声は……」
闇の中、部屋に入ってきたのは二人だ。大きい人間と小さな人間。
大きい人間は、剣が刺さった獣の方に近づく。
「ボラウェン様!」それは、シアラとマリアの父親で勇者のボラウェン。
小さな人間は、大きな人間から少し遅れてこっちにやってきた。
「マリア……無事だったのね」
「はい、父上を呼びにいいっていたのですわ」
「マリア、ありがとう」
あたしの前で、シアラとマリアが泣きながら抱き合った。
「コンレイちゃん」ボラウェンが、ハシゴに登っていたあたしを呼んでいた。
その顔はにこやかな顔だけど、半分怒りを押し殺したような顔でもあった――




