062
夜六時ぐらい、あたしとシアラ、マリアの三人で裏口から出た。
屋敷からの脱走が成功したあたしたちは、夜の街へと出て行く。
屋敷を抜けると、まもなく大きな橋が見えた。街灯の明かりが、とても綺麗だ。
「ねえ、この橋……綺麗」街灯の灯りに、見とれていたマリア。
「ファルカメスはいっぱい川があって、運河が有名なの。
街灯もついているから、夜は世界一ロマンチックな場所になるの」
あたしはガイドした。夜のファルカメスは、運河の街の規則的な灯りの列が綺麗だ。
海と湖のちょうど真ん中にあるこの街の運河は、世界的にも珍しい景色だと父が言っていた。
「こっちは?」船を指差すシアラ。
「この時間、夜には運河を船で渡ることもできるの。
あたしも何度か船で見たことあるけど、すごく綺麗だったよ」
二人を案内しながら進むと、ファルカメスの繁華街に来ていた。
あたしが一つ一つガイドとなって、二人を案内していく。
「コンレイちゃんは、詳しいのですわ」興味深そうにマリアが聞いてくる。
「うん、あたしはファルカメスが大好きだから」
「あたしも好きになれそうだな、この街」
シアラも目を輝かせながら、夜の街を見ていた。
明かりが幻想的で、人も活気があって、さらに運河の流れも見える街。
三人で歩きながら、街を眺めていた。
「よかった、あたしの街を好きになって」
「ねえ、それよりとっておきの場所って?」
「どこなの?コンレイ?」
「ここだよ、確か……ここだったと思うな」
繁華街を抜けてあたしは、ある教会を指差していた。
その教会は、街の中心から少し離れているが大きい。
このファメルカスでは珍しい、三階建ての建物だ。
「ここ、使われていないのです?」不安そうに、マリアが聞いてきた。
「いや、使われているはずだけど。なんで、誰もいないんだろう」あたしも少し不安になった。
「バイルー教のホーリーシンボルよね。この教会」
「うん、たしかこの教会でいいと……開いた」大きなドアが開いた。鍵はかかっていない。
そのままあたしたち三人は、中へと入っていく。
「誰か……いませんか?」
闇の中に、あたしの声が吸い込まれていく。
「なんか、肝試しで面白そうね」
「面白そうじゃないですわ、もし何か出てきたら……」
「怖いのかしら?マリア」怖がるマリアに、ちょっかいを出すシアラ。
「そうじゃなくて、私はみなさんの安全を気にして……」
「なんかくる」一番前にいたあたしが、闇の奥にある何かを感じた。
奥の何かは闇ではっきり見えないが、あたしたちの方に徐々に近づいてきた。
「どうする、コンレイ?」
「この気配……なんだろ?」
「逃げましょうですわ」怖がりのマリアが、すぐに後ろの方に走っていく。
「マリア、あんたね……」
「これは勝てない相手ですわ、逃げるのも勇気ですわ」
何か気配を感じ取ったマリアが、すぐに走って出口に向かっていく。
「全く、マリアったら。相変わらず臆病なんだから」
「こっちに向かってくるわ。これは……」
まもなくして、奥から近づくのが理解できた。
それは人型だけど、顔は人間のものではない。
「獣……よ」あたしは、獣を知っていた。
獣化病ステージ4で、理性を失った人間をそう呼ぶ。
獣の存在と殺気が、あたしを呆然とさせてしまう。シアラもそれを感じたのだろう。
「コンレイ、ここで逃げる場所は……」
「上」あたしがオロオロする中、シアラがあたしの手を引いていた。
「案内して!あたしは、分からないから!」
呆然としたあたしも、正気に戻る。恐怖を感じながらも、シアラと上を目指して走った。




