006
ダッツは素早さを活かして、フットワークからパンチを繰り出す。
赤い目のダッツに対し、俺は速さでは圧倒的に劣っていた。
上にも横にも大きい俺の体では、運動性に限界があった。
頭では反応はしたとしても、体がゆっくり動くので動きが鈍い。
右手と左手のジャブ連打、素早くを俺にボコボコと当たっていた。
巨漢の俺は避けることもできず、攻撃が次々と命中していく。
(しかしこの体は、本当にすごいな)
攻撃も一撃が重そうなパンチだと言うのに、致命傷というかダメージはほとんどない。
攻撃を受け止める俺を、サラがじっと見ていた。
「マトイさん、どうするのですか?」
「もう一度確認するが、コイツはステージ4じゃないよな?」
「はい、ステージ3です」
「分かった」そう言いながら俺は、ダッツの動きが鈍くなった。
完全な攻め疲れで、肩で息をしていた。
(そろそろか)
俺は動きの鈍るダッツを見ながら、細い目をさらに細くつぶった。
すると頭の中に、四つの文字が浮かび上がった。
(《たたく》《ねむる》《まるくなる》《ずつき》……)
やはりそうだ、グリゴンの基本的な四つのコマンドだ。
さて、今回は失敗しないようにしないとな。
まあ、選ぶものは既に決まっているけどな。
攻め疲れたダッツだが、それでも攻撃をやめないのは殺気によるものだ。
サラの話だと、獣の防衛本能が働いているのだろう。
一度獣化した人間は、倒れるまで決してやめない。諦めが悪いのだ。
(成功しますように、って。手を抜けるのか?)
頭の中で願い、目を開けた俺は《たたく》を選択した。
選んだと同時に、右手が静かに上がっていく。
今までの俺のトロイ動きと違って、早く、かつしなやかに腕が動いていた。
そんなことを気づかないのか俺の懐で、必死に腹を殴ってダメージを与えようとするダッツ。
次の瞬間、俺はその右手を目にも見えない速さで振り下ろした。
丸くて大きくて毛がモジャモジャな俺の右手で、ダッツの頭を思い切り《たたく》。
ドスッと大きな音を立てた次の瞬間、俺の懐にいたダッツの姿は消えた。
いや、俺の足元の地面にうつぶせに倒れていた。
「マトイ……さん?」
後ろでずっと見ていたサラが、攻撃が終わると同時に俺の右脇から覗き込んできた。
倒れたダッツを見て、すぐさま彼の頭の上にしゃがみこむ。
邪魔そうなので、俺はドアの外リビングの方に体をゆっくりと動かした。
一応俺は、胸板を触りながら痛みがないことを確認した。
しゃがんだサラも、顔を見上げて心配そうな顔を見せた。
「マトイさん、大丈夫ですか?」
「俺は大丈夫らしい。サラ、あいつを何とかしたらどうだ」
「えっ、はい!」
慌てた様子で、サラは小瓶を取り出して倒れているダッツの顔を上げた。
「生きているか?」
「はい、生きています」
顔をあげて、サラは自分の持っていた小瓶に入った紫色の薬を飲ませていた。