056
裏路地の前に現れたのは、路地に似つかわしくない若い女だ。
目玉を横目にして、さらに向かってきた。
黒いジャケットは、丈が短くて腹筋部分が見えた。長いズボンに、目立つような赤いロンググーツ。
背はサラとレティアの中間ぐらいの身長で、ショートヘアー。
つり目で、凛々しい顔立ち、何より目立つのは背中に背負ったドデカイ斧。
レティア以上に筋肉質で腹筋も綺麗に割れていたマッチョな女が、俺たちを睨むように腕を組んでいた。
いや、俺というよりはクラーを見ていた。
「あら、いたの?クラー」
「来ていたんですか?シアラ様」
「一応、あたしも勇者候補だし……興味はないけど」
クラーとは仲が悪いようだ、どうやら彼女がシアラらしい。
「クラー、あたしにつく気はないかしら?」
「あなたと、手を組むつもりはありません!」
「あら、マリアはどうしようもない子よ。大臣と一緒に寝たそうじゃない」
「根も葉もない噂を、いつまで流しているんですか?」
「嘘なもんですか?大臣と不倫する女狐マリアを勇者にさせてはいけないわ。
あの子が勇者になってしまったら、勇者の身分が汚れてしまう。前代未聞よ……」
俺とノニールの前で、クラーとシアラが罵り合っていた。
ルデース家の家督問題は、俺には何にも関係ないしな。ただ眺めるだけでしかない。
「あら、お客さんがいたのね。あなたは……アンテルク卿の御子息」
「ノニール・アンテルク。ファルカメスの勇者を、補佐する魔法使いの一族だということは聞いているわ」
「詳しいっすね、そうっす。僕がノニールっす」
ノニールを知っているらしく、シアラが声をかけた。ノニールには、丁寧に挨拶をするシアラ。
「もちろんよ、勇者の一族については勉強しているわ。そんなことよりあなた……
随分変わった格好の獣ね。獣化病ステージ4……ではないようだけど」
「纒 慎二だ。医者サラのボディガードをしていて、勇者レティアの一行でもある」
「レティア?ああ、そうだったわね……自己紹介。
既に知っていると思うけど、あたしはシアラ。シアラ・ルデースよ。
勇者候補……というより次期勇者になる者よ。サインを、してあげようかしら?」
胸を張って、自信たっぷりに言ってきた。なんか強気な態度が、レティアに似ているな。
「あんた、勇者になるんだろ?」
「そうよ、当たり前でしょ!」
「じゃあ、その勇者候補が……妖魔を倒さずに見物か?」
「妖魔はいくら倒しても、根元を倒さないと仕方ないわ。
あたしを勇者に信任してくれれば、今すぐマリアをブッ倒して、勇者になってあげてもいいのよ。
勇者の剣があれば、すぐにこの穴を塞いであげられるのだから」
「嘘をつけ!この暴力女っ!」
クラーが、シアラに対して叫んだ。
シアラは、眉がピクリと動いたが冷静にクラーを見ていた。
「マリアの方が問題でしょ!妻子ある大臣と不倫した勇者を誰が認めるの?
あの子がね、マリアはね、ただあたしの邪魔をしているだけよ。
あの子がいなければ、今頃あたしが勇者になって、あの穴を既に塞いでいたはずだったのよ」
「妖魔を倒さずにか?」俺が口を挟む。
「妖魔をいくら倒しても、穴から出てくる。最終的には『魔王の穴』を、塞がないといけないから」
「そうらしいな」
裏路地にぽっかり空いた穴に、目玉が集まっていた。
シアラが、苦々しく穴を見ていた。こいつも、なんとかしようと考えているんだな。
だが、シアラに向けてダガーを握って身構えたクラー。
「だったら、あなたが降りればいい。
どう見てもシアラ様は、勇者に不適格だ。あなたが乱暴すぎるのは、皆に知られていること。
兵士を暴行した人間が、勇者になるのは間違っているわ!」
クラーはそう言いながら、シアラに向けて短剣を投げつけた。
目にも止まらぬ速さで、二本の短剣をシアラに向けて投げていた。




