055
俺は拳を構えて、敵をじっくり見ていた。
俺の後ろでは、少し離れてノニールも俺の後ろで杖を構えていた。
前衛で戦うと、目玉がはっきり見えていた。
よく見ると大きな目玉に、触手のようなものが細いものが何本も生えていた。
(うげっ、レティアはこんな気持ち悪いのと一人で戦っていたのかよ)
見た目が気持ち悪い妖魔相手に、一人で戦っていたレティアの勇気に敬意を表した。
まもなくして、俺の頭の中でコマンドが浮かび上がった。
(《たたく》《ねむる》《まるくなる》《ずつき》と出るけど……《ねむる》って使うことないよな)
無論、選択は《たたく》だ。俺の右手の一発で、近づいてきた目玉を沈めていた。
だが、グシャリと潰れる目玉はかなりグロテスクだ。眼球のあたりが、赤く血走っていた。
この裏路地の奥の方には、他にも目玉の死骸がいくつか転がっていた。
「どんどんくるっすよ」
「らしいな」
俺の前に、既に二匹目の目玉が襲ってきた。
俺の背後では、ノニールの魔法が完成していた。
「疾風の風よ、ナイフのごとくかの者共を切り裂けっ!『ガストナイフ』っ!」
ノニールの魔法が完成すると、俺の前にいたニ匹の目玉を薄緑色の風の渦が包みこむ。
小さく発生した風の渦は、すぐに晴れると目玉は輪切りにされてバラバラになっていた。
「おお、すごいな」
「まだ来るから」
「わかっている」俺は迷うことなく、前に現れた目玉を叩き潰していた。
潰すと吐き出す液体が、俺の新しい服にベチャベチャと汚していた。匂いも、腐った魚のような臭さだ。
だが数が多く、俺の大きな体の壁をすり抜けてノニールに向かっていく目玉もいた。
「来たわね、目玉っ!」
ノニールの隣にいたクラーが、ポケットから短剣を取り出して、そのままノーモーションで投げた。
投げた短剣が、すぐに目玉に命中。さらにもう一発も、近づく目玉に命中した。
命中した目玉は、蚊取り線香のハエの如くボトリと地面に落ちていく。
「へへん、クラーを舐めるんじゃないわよ!」
「やるじゃないか、クラー」
クラーに声をかけながら、俺は目の前の目玉をテンポよく五匹連続で叩いて沈めていた。
「あんたもね、熊」
「マトイだ!」
「そうね、マイトって呼んであげなくてもなくもないわ」
「マイトじゃない、マトイだ」喋りながらも俺は、通算三十匹目の目玉を倒していた。
ノニールの魔法や、クラーの短剣に刺さって全部で四十匹ほどを仕留めていた。
それを見るなり、目玉たちが警戒して穴の方に戻っていく。
「確かに……勇者レティア一行は強いわね。なかなかやるじゃない」
「そいつはどうも、だが……」
俺の着ていたベストは、目玉の吐いた紫の液体で汚れてしまった。
おまけにこの液体は、腐った魚の匂いがするのだ。
奥の路地では、大きな穴が開いていた。まだ目玉が十匹ほど生きているが、こっちには向かってこない。
穴を守るように、漂っていた。
「あの穴は、どうあがいても封じられないんだよな」
「そう……あれだけは、絶対に無理」
通路の奥には、不格好な穴が見えた。
「殴れば吸い込まれるし、魔法を打てば飲み込まれる、飛び道具も消えてしまう。
『魔王の穴』は邪悪な存在だから、聖剣の力が必要なの」
「うわっ、近づきたくないな」
「でも、かなりの数を倒したし。昨日のレティア様も結構倒したから、悪魔の目玉はしばらく増えないでしょうね」
「昨日は、どれぐらいいたんだよ?」
「全部で七十八匹かしら?」しかし、その声は俺が聞いたことのない女の声だ。
裏路地の奥、目玉のいる先から聞こえてきた。
奥からゆっくり歩いてきた声の主は、腕を組んで俺たちを見下ろしていた。




