053
この部屋には、五人の人間がいた。
俺と、レティア。レティアを看病するサラ。
ドアから入ってきたのは、ノニールと見慣れない女の子。
その女の子は、背がサラよりもさらに小さい。身長は、百三十センチぐらいだろうか。
長い髪を後ろに縛り、大きな目。オレンジのベストに短パン。
腰にポシェットをつけた、可愛らしい小学生低学年のような女の子だ。
「の、ノニール。それって……」
「そうっすよ」
「どこの幼女を誘拐した?」俺が突っ込んでみた。
「クラーは、誘拐なんかされないよ!」
なぜか俺に対してあっかんべーをした女の子が、小さな肩を怒らせながらレティアの方に近づく。
「お前は?」シーツに上半身を隠したレティアが、聞いていきた。
「勇者候補『マリア・ルデース』の補佐盗賊一門、『クラー』と言います」
クラーと名乗った幼女が、丁寧にレティアに頭を下げていた。
「マリアの……か」
「はい、マリア様をクラー達は支持しています」
レティアの言葉に、クラーという幼女が頷いていた。
それを聞いて、俺が聞いてみた。
「マリアって、勇者のことか?」
「そうよ!このアルカンテで次期勇者になる、マリア様だから」
「でも、まだ勇者じゃないってことか」
俺はノニールから聞いていた。アルカンテの勇者は、まだ決まっていないということを。
「でも、マリア様の方が勇者にふさわしいわよ。
あんな暴力女より、絶対にマリア様がいいんだから!」
「マリアは無事なのか?」レティアが、クラーに聞いてきた。
「はい、マリア様は元気ですよ。体調も戻って、気力十分です」
クラーはレティアに、丁寧に答えていた。俺の時と喋り方が、全然違うなコイツ。
「シアラも無事なのか?」レティアが聞くが、クラーの顔が曇った。
「シアラ様は知りません」
「クラー。あなたは、シアラの補佐はしないのか?」
レティアの言葉に、小さなクラーが首を横に振った。
「残念ながら、クラーはシアラ様を補佐できません。
クラーは、正しきマリア様を補佐することにしました。
マリア様こそ、勇者になるべき人物だとクラーは思いますよ」
「本心もそうなの?」レティアが言い張るクラーに、詰め寄った。
「……どこまで分かっていますか?」
「本来なら、マリアと一緒にくるべきではないのか?
それなのに、あたしのところにたった一人できた。クラー、あなたの本意はどこにあるの?」
「……流石、勇者レティア様ですね」
クラーは観念したように、ポケットから二枚の金貨を取り出した。
それをレティアの眠る、ベッドの布団の上に置いていた。
「クラーは盗賊ギルドを運営しているのですが、『魔王の穴』がとても邪魔です。
盗賊たちにとって、裏路地は何かと利用する場所ですから。でも、その裏路地に魔王の穴が開いてしまった。
そこで昨日『魔王の穴』を塞ごうと奮闘していたレティア様を見かけて、助けを借りようと思ったのです」
小さなクラーが、真剣な顔でベッドの上にいるレティアに訴えていた。
俺はそれを聞きながら、素直に質問をした。
「魔王の穴?」
「魔王の穴は、魔王のいる世界に繋がっている穴と言われているっす。
妖魔が出てくるのも、そこからで……ああ妖魔というのは旧時代……魔王時代のモンスターのことっす。
まあ、これがこの街が抱える第三の問題っすよ」
俺に対して、丁寧に補足と説明をしてくれたノニール。
どうやら昨日のレティアの怪我は、妖魔や魔王の穴による戦った結果によるものだ。
「クラー、話を戻すけど……あなたの要求だと、妖魔関係かしら?」
「『魔王の穴』を塞いでください」
「そう……やっぱりね」
クラーの懇願に、レティアは難しい顔を見せていた。
「どうしました?レティア様?」
「あれは無理ね」
「レティア様でも?」
「今、この街には勇者がいないでしょ。おまけにマリアも、シアラも放置ているでしょう。
そのツケが回っているのよ。だが、そのツケは余りにも大きい。あんな大きさの『魔王の穴』は一人では無理よ。
穴もそうだけど、妖魔の数も多くて……あたし一人では無理ね。それに……」
レティアの右腕には、痛々しく包帯を巻かれていた。
「そうですか……」クラーが落ち込んだ顔を見せた。
「なあ、レティア」
「何?」
「暇だし、俺が手伝おうか?」俺は手を上げた。
「魔王の穴を塞げるのは、聖剣である『勇者の剣』だけ。
しかも『勇者の剣』の力を引き出せるのは、修行を受けた勇者だけよ。
だからあなたがいくら強くても、それはできないわ」
レティアの枕元に、一本の剣がある。勇者の紋章が、柄に描かれた長い剣だ。
説明を受けて『勇者の剣』としてみると、立派なの代物に見えてくるから不思議だ。
なるほど、初めて手で触れたとき感じた嫌な電撃は、この剣から起きたものらしい。
「でも、妖魔退治はできる……わね」
「できることがあるのか?」
「ええ、穴は防げないけど。あれだけの数の妖魔も、放っておけないしね。
クラー、このマトイに案内を頼めるかしら?」
「えー、この熊みたいな人ですか?」
クラーが、明らかに不審がって俺を見ていた。
「熊で悪かったな、ちびっこ」俺がサラより小さなクラーを、服の襟を掴んで持ち上げた。
「ちびっこじゃない、クラー!クラーは、チョー優秀な盗賊だから」
両手両足をバタバタさせながら、大きな俺に反抗するが攻撃すら当たらない。
むしろその光景は、可愛くて愛おしく見えてきた。
「仕方ないわね。レティア様の変わりにはならないけど、あんたでいいわ。名前を教えて」
「『纏 慎二』だ」
「変な名前」
イチイチムカつく幼女だな、クラーは。
なのでさらに高く、クラーを持ち上げることにした。
クラーは激しく抵抗するけど、所詮は子供の可愛らしい抵抗でしかない。
「マトイ君に任せっきりってのもね、僕も参加するっす」
「うん、まあノニールもいるし。なんとかなるかも」
最後は掴まれて二メートル近くまで上げられたクラーが、ノニールを見て納得していた。




