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十分後、俺たちは走っていた。
黒い荒野を、鎧を着たまま走っていた。
俺と、勇者セイツと、そしてクローデの三人だ。
後ろには、茶褐色の翼を生やした人間。いやそれは魔族だ。
「逃げろ、逃げろ!」
魔族は空を飛んでいる、右手には黒い球を持っていた。
エネルギー弾を、俺たちに放ってきた。
「くっ!」
黒い球が、俺たちの後ろで爆発をした。
走りながら、それをよけるだけでいっぱいだ。
仲間の兵士は、既に魔族にやられていた。
「町はまだか?」
「セイツ様……」
「この魔族には勝てない」
あきらめた様子で、勇者が言い放った。
俺たちの前には、円形の壁が見えてきた。
「もうすぐですよ」
「……」俺と一緒に走っているセイツの顔が、元気はなかった。
頭に包帯も、雑だけどまかれていた。
疲れた様子で、くたびれたかの勇者。
俺たちとトロンダールの町まで、あと数百メートルだ。
だけど、魔族との距離も徐々に詰まっていた。
「追いついてくるぞ、魔族か」
「邪魔するな」空を飛ぶ魔族は、魔法を繰り出す。
その魔法弾は、大きなエネルギー弾だ。
まがまがしいエネルギー弾を俺たちに向けて放つ。
「だめだ、奴らの魔法が早い」
魔族の詠唱は早い、俺たちがたどり着く前に魔法が完成してしまう。
魔族は、トロンダールの壁の方に魔法を放つつもりだ。
すると、クローデはおもむろに振り返った。足を止めたクローデに俺は足を止めた。
「アントン、先に行け!」叫ぶクローデ。
「なんだよ、クローデ」
「いいから、勇者様を頼む」
俺はクローデに言おうとしたが、魔族が魔法の詠唱を続けた。
俺のそばでは、勇者セイツがトロンダールの方に走る足を緩めない。
「くっ、勇者!」
俺は勇者セイツを追いかけて、走り出した。
理解していた、このままいけば三人とも死んでしまう。
助かるには、一人犠牲になるしかない。
そのために、俺は前を向いて走るしかなかった。
クローデの思いを、無駄にしないようにするために。
門に滑り込むように、飛び込んだ勇者セイツと俺。
それとほぼ同時に爆発の音が聞こえた。
強い爆風の後、トロンダールの門は無常に閉められた。
「クローデ!」俺は門の中で叫んだ。
その俺の隣では、傷だらけの勇者セイツがうつむいていた。
「セイツ様……どういうことですか?」
まもなくして俺たちのそばに守備兵が、声をかけてきた。
浮かない顔のセイツは、唇をかみしめて首を横に振った。
「調査団は、全滅した」
それが逃げ出してきた勇者が、つぶやいた初めての言葉だった――




