050
夜になった。
大都市アルカンテの夜は、眠らない。
綺麗に整備された街灯のランタンが灯っていて、飲食店を中心に店が開いていた。
俺たちがいる『黒鉄亭』の酒場で、待ち合わせしたノニールと合流した。
ノニールと俺とサラで、一つの丸いテーブルを囲む。窓際の席で、外の大通りも見えていた。
「それで、どうっすか?」
「私の方は、無事に片づきましたよ」
「そうっすか、それはよかったっすね」
「しかし……報告書を上げるまでは、仕事が残っているのでニ、三日はここにとどまらないといけないですね」
麦酒を飲みながら、サラは大きく息を吐く。
「サラさん、飲み過ぎじゃないっすか?」
「いいのよ、たまに飲みたくなるんだから。エール酒」
サラが飲んでいるのはエール酒、麦を発酵させて作ったお酒だ。
まあ、そのままビールと何も変わらないだろう。
ノニールも、エール酒を飲んでいるが顔色が変わらない。
「でも勇者の特典は、本当にすごいな」
「でしょ、でしょ。基本はタダなのよ!」
サラが既に酔ったらしく、俺に絡んできた。
「ここの宿代に、船や飛行機もタダとか」
「全ての場所ってっわけじゃないっすが、結構タダなのが多いっすね。
旅をする身としては、いろいろと助かるっす!」
「これなら、勇者と一緒に旅をしたくなるわけだな」
「でも、勇者は決められた一族だけっすよ。
誰でもなれるもんじゃないし、一族でも必ずなれるわけじゃないっす」
「違うのか?」俺はノニールに問いただす。
「ええ。勇者になるには厳しい試練や、決闘もあるっす。
勇者の道はとてもとても険しくて厳しい道っす」
「なるほどね」勇者は、そんなに簡単ではないということか。
だとすれば、レティアは試練を超えてなった勇者ということだろう。ちょっと見直してやるか。
「にしても、マトイ君が服を着て現れたときは驚いたっすよ」
「なぜだ?」
「マトイ君が、今までずっと裸で歩いていたから。てっきり、裸好きなのかと……」
「誰が裸族だ。レティアの裸を覗こうとするお前と、一緒にするな!」
「え?レティアさんの裸?」サラが俺の方を、流し目で見てきた。
「いいですよね、レティアさんの体。
胸も大きいし、筋肉質だけど、太っていませんし……
見た目も大人っぽいし、マトイさんはそういう女の人が好きでしょうね!」そして拗ねた。
「違う、誤解だ」一瞬レティアの裸を想像してしまった俺は、愚かだ。
「誤解でも、レティアさんの体は羨ましいですよ。
同じ年にも関わらず私なんか、ずっと子供のままで……神様は不平等です」
いじけてしまったサラ、酒の影響で情緒不安定になっているようだ。
「そういえば、レティアは?」
「ああ。まだ仕事があるとかで、遅れるって連絡あったっす」
「仕事か?勇者って、近所の平和を守るだけが仕事じゃなかったっけ」
「悪いのがいれば、倒しに行くのは勇者のサガっすから」
「ふーん」それはそれで面倒な性格だ。
「それよりサラさん、これからどうするっすか?」
「明日から、私もアルバーニ病院で仕事予定です」
いじけたサラは、反応よくノニールに答えていた。
「おっ、また勧誘されたっすか?」
「はい、医者不足とかで……」サラは、困った顔を見せていた。
病院を出る途中に、受付でサラが白衣を着た男と会話をしていた。
隣にいた俺は、サラが仕事の話をしているのを聞いていた。
「噂だと一ヶ月ほど前に、この街で内乱が起こったとか……でしょうか」
「なるほど、そうっすか」
サラの言葉に、ノニールは驚いた顔を見せていた。
「内乱か?ここは確か首都だろ」
「でも、そう言っていましたよ」
「だけど、昼間行ったアルバーニ病院は設備が優秀なんだろ。
医者の数も、結構多くいるんじゃないか?」
「どこの世界も、医者は不足しているっす。特にここは……」
「どういうことだ?」俺はノニールに、問いただした。
ノニールは難しい顔を見せながら、少し間があって口を開いた。
「半分は勇者の原因っす」
「勇者?」
「レティア様と離れたあと、いろいろ調べてみたっす。
僕の調査によると、このアルカンテには三つの問題を抱えているっす」
「三つの問題?」
「まあ、その話は部屋に戻ってからするっす」
作り笑顔を見せてノニールは、サラと同じくエール酒を飲んでいた。
「ノニールさんもいい飲みっぷひ……ですね、わたひも」
サラは張り合うように、エール酒を飲んでいた。
だが彼女の話す言葉は、既におかしくなっていた。




