005
狼の頭でそれ以外は人間のダッツ、身長は百七十ほどの男だ。
それでも全身熊男の俺よりも、かなり小さい。
ダッツと俺は姿こそ違うが、獣のようなオーラを出しているの変わらない。
俺は獣のダッツが出す殺気を、この体でははっきりと感じられた。
ひたすらダッツは俺に、本気の拳を繰り出してきた。
胸で拳を受けていた俺は、殴り続けるダッツをじっと見ていた。
バシッ、ドスッという重い一撃を、連打で繰り出すダッツ。
マントが攻撃の風圧でなびき、俺の筋肉隆々の胸板が見えた。
それでも、傷一つつかない俺の体。ダメージも、痛みもほぼ感じない。
「マトイさん、大丈夫ですか?」床に倒れたサラが、俺を心配して立ち上がった。
「大丈夫だ、問題ない」
「それでも、私は……」
「サラ、これは殺すしかないぞ」
サラが喋っている瞬間、攻撃をやり続けていたダッツがバックステップをした。
全く攻撃を効いていないと判断したのか、俺との距離を取った。
少し息が切れたダッツに、俺はゆっくり歩いて間合いを詰めた。
「そんなことはありません!彼はまだステージ3です」
「だけど、目が赤いし……はっきり言って、既に人間じゃない」
その言葉は、自然と俺から出てきた。
ダッツは覚悟を決めている。自分が殺したことで、自分もそうなって助かろうとしている。
殴り疲れたダッツは後ろの部屋に戻り、短剣を握って目の前に現れた。
俺もサラをかばうように、ドアの入口に立ちふさがった。
「お願いします、私は救える命は全てを救いたい!」
サラが俺の背中で泣きそうな声で、俺に頼んできた。
「そうか、分かった!」
右手でナイフを握ったダッツが、俺の方に向かってきた。
全くためらいのないその目で、俺を見ていた。
向かってくるダッツを、俺は大きな体で受け止めた。
グサッ、マント越しに俺の胸に刺さった。
しかしナイフが刺さったにも拘わらず、俺は表情を全く変えなかった。
これでも、痛みがなかったからだ。
俺の表情が全く変わらないことに、ダッツは流石に驚きの顔を見せた。
目は赤いが、明らかに恐怖を感じていた。
「サラ……悪いな、貰ったマントがボロボロだ」
「ガルルルッ」ダッツの目が赤く血走りながら、なんとか短剣を抜こうともがく。
「いえ、あなたさえ生きていればいい。マントならいくらでも買えますから」
泣き出しそうな声で、サラが心から言葉を吐いた。
「優しいな、サラ」
「マトイさん」俺の背中で、サラは呟いていた。
「泣くなよ、俺は無事だ」
「あなたは、無茶しすぎです!私は心配してしまいますよ」
「そうか、悪かった」謝罪に感情を込めない俺は、じっとダッツを見ていた。
恐怖を感じたダッツは、俺の体に刺さった短剣を手放した。
「ひとつ言っておこう、俺は遅いぞ」
「ええ、あなたが無事でいてくれれば」
「それは約束できる」右胸に刺さった短剣を、俺は軽く抜いた。
分厚い胸板が、俺の全身を鎧の如く守っていた。
「俺はこの世界では、完全に化け物だぜ」
ナイフを抜いて、そのまま投げ捨てた。
それでも間抜けな細い目の顔で、殺気を放つダッツの目と合っていた。




