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アントンが指さし緑色の石柱の正体を、俺は知らない。
初めて見るようなその石の柱は、どこか暖かい光だ。
森の木漏れ日のような、そんな暖かさを感じた。
「これは……」
「大司祭フロア様、『聖女の柱』」
「さすがは勇者、よくわかっている」
アントンの問いかけに、レティアはスラスラと答えていた。
「この聖女の柱には、魔を退ける力がある。
柱の及ぶ範囲に、このトロンダールの町は存在していた。
これがどういう意味か、わかるか?」
「魔が周囲を、取り囲んでいる。だから結界として、この柱を作り出した……でしょ?」
「やはり、勇者は知識があるようだ。
そうだ、このテスコンダルは魔があちこちに存在するのだ。
だから命を守るために、この『聖女の柱』が存在している。
この柱の範囲外に出た場合、命の保証はできない」
アントンの言葉には、重みがあった。
それを、真剣な顔でサラは聞いていた。
「それでも、パパやママはここを出たのでしょう。
調査団として参加して、ここにやってきた」
「一つ聞くが、探している人が死んでいても後悔はないのか?」
「死んでなんかいません」
サラは強気に言い返した。アントンは、首を横に振った。
「では何を、根拠に言っている?
この大陸に来たばかりだというのに」
「根拠は……わかりませんけど。ママは、死んでなんかいません。
私はそれを確かめに、ここに来ました!」
「やはり、何もわからないようだな。
ダムレイめ、希望的観測を与えおって。
あやつもまた、この島の呪いにとり憑かれているのだろうな。
仕方のない男だ……」
「アントンさんは、何かご存じないですか?」
「明日、そこの船がアロイジオに向けて出港する。
その船に乗って帰れ!」
「嫌です!」
アントンが首を横に振るが、サラは否定した。
俺はそんなアントンの顔をじっと見ていた。
「何か知っているのか?」
「そうだな、少し自分の足で見て回るがいい。
俺はいったんそこの宿舎に帰る、お前たちも今日はそこで泊っていけ。夜は危険だ」
アントンが、あきらめたように言うと近くにあるレンガの建物を指さした。
その建物は平屋の大きな建物が、そこに見えていた。
「では、そうさせてもらおう」
「おい、ユキ」
急に不機嫌な態度になったユキは、アントンから離れるように町の奥へと進んでいった。
「お、おいっ!」
俺は仕方なく、彼女の背中を追いかけていった。
そんな俺たちに、アントンが最後に一言。
「何も知らないでこの街を出たら、お前たちは死ぬぞ」
そんな意味深なことを、俺たちに言い残していた。




