049
病院の通路には、似つかわしくない青い鎧の男。
兜もかぶり、腰に剣を携え、背中に二本の大きな剣を背負う男。
映画で見た青いローマ兵のような出で立ちで、男は現れた。
ただ左腕に包帯が巻かれて、怪我をしているようだ。
「ブリニッド殿、そう急かすな」
「次の戦いは近い、俺にあまり時間は……むっ?獣か」
ハイクイと会話をしたブリニッドという男は、チラリと俺を見て身構えた。
「全身獣……妖魔みたいな獣だ」
「妖魔?」聞きなれない単語を、俺はオウム返しした。
「化け物って意味だよ」ぶっきらぼうに言う男。
まあ俺の姿を見れば、初めは誰だって化け物だって言うよな。少し慣れてきた。
「あんたは戦士か?」
「俺はブリニッド、シアラ様を守護する戦士だ」
「シアラ様?」また新しい単語だ、誰かの名前らしい。
「ルデース一族のことだ、お前はそんなことも知らないのか」
「すまない、俺は今日ここに来たばかりだ」
ルデース一族?また新しい単語が出てきたぞ。
「それにしても、ここの医者は辛気臭いな」
「まあ、わしらは『アルバーニ病院』は弱者の味方ゆえ。
お主もそうじゃよ、ブリニッド殿」
「俺は……弱者なんかにならない。
絶対に、強くなるって決めた。この病を克服して、最強の戦士にならないといけない」
包帯の左腕を抑えて、苦々しい顔で俺を見ていた。
「俺は、あんたみたいにならない」
「なぜ、俺になる?」ブリニッドはどうやら俺のことを、獣化病の末期患者と勘違いしているようだ。
「それより手当せい、時間がない」
「ああ、そうじゃな。じゃあな『未知なる者』よ……さっきの旅医者の女の子によろしくじゃ」
ハイクイが、戦士ブリジッドと一緒に去っていった。
それと入れ替わるように、前のドアからサラが出てきた。
「あっ、お待たせしました」
「サラか……」俺は見送るのをやめて、前に出てきた白いローブのサラのほうを向く。
「ハイクイさんからマトイさんのことで、何か有益な話を聞けましたか?」
「いや、何も……」
「そうですか……それは残念です」
リュックを背負ったサラが、元気のない表情を見せた。
「なあ、サラが言う『ハイクイ』って医者はすごいのか?」
「あたしも博士から聞いたことがあるのですけど、医者の技量も確かです。
ただ、どちらかというと運営手腕も長けている方だと聞いています」
「運営か、この病院には金はあるっていうことか」
「『アルバーニ医院』は、専ら高いレベルで設備が揃っているんですよ。
私立病院なので、全国各地から様々な医療機器が集まっています」
丁寧に説明しながらサラが、じっと俺を見ていた。彼女の目は、潤んでいるようにも見えた。
「どうした?」
「私と一緒にいるより、ここで入院したほうがいいのかもしれないですね」
「そうか?」サラの言葉に、首をひねる俺。
「ええ、マトイさんの獣化は特別だし……病も普通ではないと思うのです」
「でも、俺は普通にこのとおり動けるし。寝たきり生活は、飽き飽きしているんでね」
俺は元気に腕を振りながら、廊下を受付方面に向かって歩き出す。
引きこもりは現代で、散々やってきた。そんな生活を異世界に来てまでしたくはない。
それに、俺がグリゴンの姿になった理由も少し気にはなっていた。
サラが小走りで、俺の大きな背中を追いかけてきた。
「正直な所、私はあなたが心配です。体に変化があって……」
「動けるうちは大丈夫、だから俺はお前と旅をしていられる。
サラ……ありがとな、心配してくれて」
「マトイさん……」
心配したサラに俺が、手をつないだ。俺の柔らかい毛の手で、彼女の小さな手を掴む。
「俺は大丈夫だ」
「でも、本当に辛かったら私に言ってくださいね。
お金の方は、何も心配しなくていいので」
サラは最後に、俺に微笑んでくれた。やはりサラは、俺の天使のように優しかった。




