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イセカイGO!  作者: 葉月 優奈
四話:『纒 慎二』と盗賊少女
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その建物は、この世界で今まで見た中で大きかった。

場所は町外れに建っていたのだが、ひときわ大きな白い壁の建物だ。

女性の肖像画みたいなものが、中央に描かれた五階建ての建物は病院だ。

サラと一緒に病院の中に入ると、大きな待合室が見えた。


現代の病院と違い、機械のようなものは一切なく木の棚がやたら多い印象だ。

受付前の待合室には、多くの人が待っている所は現代の病院と変わらないようだが。

受付で看護婦と話をしたサラは、病院の奥へと進んでいく。

通路がモノで溢れていてか、狭く感じてしまう。

それとも俺が、大きいだけなのだろうか。新しい服を着て、俺はサラの隣を歩いていた。


「しかし、見た目は大きな病院だけど結構狭いな」

「そうですか?普通ですよ」大きなリュックを背負いながら、慣れた様子で棚を避けながらサラが歩く。

「サラ、それよりどこに行くんだ?」

「薬剤管理室です」


綺麗な白いローブを着て、病院の廊下を歩くサラ。

見た目が小さい女の子なので、全く医者の尊厳は感じない。

それでも名札をぶら下げているので、すれ違う人から医者と認知されているようだ。

狭い通路は、さらに狭くなって来た。棚の数が増えているし、人通りも少なくなっているようだ。

さらに進むと、『関係者以外立ち入り禁止』の立て看板が見えた。それも、彼女はスルーした。


「届け物って、そういえばなんだ?」

「私の大学で、博士が作った薬です。

試薬品ですが、こうやって旅医者に渡してあちこち配っているのですよ」

「だ、大学?サラは大学生なのか?」

「大学は卒業していますけど。ほら、サスマラ大学医学部公認って免許って書いてありますよ」

「ほ、ホントだ」まさか、サラが大学卒業しているとは思わなかった。

というか、見た目が子供っぽいから全然そんな風には見えない。


「大卒ってすごいな、サラ。それでその試作品って、どんな薬だ?」

「それがね、すごいんですよ」目が一瞬、キラリと光ったサラ。


「例えて言うのならば、新型薬は『コカトリスの卵』の卵黄を摘出したモノで……

そこに含まれる特殊な成分である『コカノイド』って呼ばれる成分を……

それに最新の研究で出てきた『黒曜花の蜜』をブレンドしたものが……」

「ちょっと待て、全然わからん」俺は薬学に関しての知識は、ゼロだ。

ましてやこの世界の薬学は、木の葉や木の実なんかも使う薬学だ。理解できる要素はどこにもない。

まくし立てるように話すサラの言葉を、俺はなんとか止めた。

なんかこれ、前にもどこかであったような。


「簡単に言うと『獣化病』の症状を、和らげる薬です」

「本当に簡単に言うな」

「まだ試験品で、問題もいくつかあるのです。

病院に薬を渡して、レポートを書いて報告を送るのが私の仕事ですよ」

「ふーん、ん?」

俺は前の方にいる人間を見つけて、立ち止まった。

奥のドアの前に俺より大きくないにも関わらず、真っ黒なマント姿の人間がいた。

顔には黒い仮面をかぶっていて、表情が見えない。


「あれ、怪しくないか?」

「うん……確かに」

仮面の男は挙動不審な動きで俺らを見るなり、驚いた様子で身構えた。


「なんだ、お前たち」

「あなたは誰ですか?ここは、関係者以外立ち入り禁止ですよ」

「関係者だ!」仮面の男が言い張った。

「本当ですか?」サラが流し目で、黒マントの男を見ていた。


「そっちこそ、獣がいるではないか」

生憎(あいにく)だが、俺はこいつのボディガードでな。関係者はこっちの方だ」

「ちゃんと、受付で許可証をもらっていますよ」

サラはそう言いながら、受付でもらった許可証を見せていた。


「サラ……か」仮面の男の声が、一瞬戸惑ったようにも見えた。

「はい、彼はマトイさんです。

私のボディガードをしています。帯同の許可も、ちゃんと取っています。

それよりもあなたは、何者ですか?」

「私は『影医者』マウン。影と共に行動する者」

スタイリッシュに、頭を下げて右手を上に上げていた。

本人は、格好よくポーズを決めているが……ダサイ。


「その『影医者』マウンが、何をしている?」

「ああ、この病院内で危険な薬があると聞いて来たのだよ」

「危険な薬?毒薬か何かですか?」

「おっと、それ以上は言えない」掌を俺たちの前に突き出し、影医者(マウン)はノンノンと言う。


「ここには、ちゃんと薬剤師さんもいますし。

薬の管理も厳重ですから……『アルバーニ病院』は」

「そうか?だといいのだがな」

「それにしても、あなたは……どこかで」何か思い当たるようでサラが、ジーッと影医者を見ていた。

「おほん、ならいいんだ。俺はこれで失礼するぞ!」

周囲をちらりと見ながら、俺たちが来た手前側の通路に消えていく影医者。

考え事をするサラに対し、隣で見ていた俺は聞き返した。


「あいつも医者なのか?」

「さあ……どうでしょう」

「おや、お客さんかのぅ」

通路の奥にあるドアが開いて、一人の女が出てきた。女というか、かなり年老いた老婆だ。

白い白衣をダブダブで着ていて、裾をずるずる引っ張っていた。

腰も曲がっているようで、顔はしわだらけ。綺麗に染められた白く長い髪が、顔との対比で目立つ。


「あっ、『ハイクイ・アルバーニ』医院長っ!」

「おや、旅医者さんかのぅ?」

「はい、『サラ・バリジャット』。旅医者をしている者です。ほら……マトイさんも」

老婆に対してサラが、深々と頭を下げていた。

空気を読んで俺も、仕方なく少しだけ頭を下げた。


「まあまあ、頭を上げてくだされ。

タダの老いぼれじゃ、それにアルバート医院長は言いにくいじゃろ。

『ハイクイ』とでも、気楽に呼んでくれ」

穏やかな顔で、ハイクイという老婆はサラを見ていた。

なるほど、ラナジー村の老人よりも気品がある老婆だ。


「医院長は、診察ですか?」

「今日は休みだったのじゃが、今はそうも言っていられぬ状態じゃからのう」

「大変ですね、医院長」サラがハイクイの話を聞いていた。。


「それより……そなたは?」当然のごとく、大きな熊の姿をした俺に目を向けた老婆ハイクイ。

「マトイさんです。私の患者兼ボディガードをしています」

「なるほどのぅ、こんなところでなんの用かな?わしに会いに来たのか?」

「あっ、そうでした。私、ここに薬を届けに来たのですが。

受付で『薬剤管理室』は、こちらだと伺ったのですが?」

「ああ、ここじゃよ」ハイクイが言うとおり、すぐそばのドアに『薬剤管理室』と書いてあった。


「あっ、では私ちょっとここに用がありますので……」

「待たれよ」部屋に入ろうとしたサラと俺を、ハイクイは呼び止めた。

「どうしました、ハイクイさん」

「ちょっとお主に話がある、マトイといったかな」

腰の曲がった老婆ハイクイは、俺を呼び止めた。大きな俺に、じっと見上げていた。


「あっ、そうですね。ハイクイさんなら、もしかしたら分かるかも」

「何がだ?」サラは理解しがが、俺はイマイチわからなかった。

「マトイさんの体の事についてですよ。ちゃんと聞いておいてください。

私は、部屋に入って薬を置いてきますから!」

「そうか、わかった」サラは俺に言葉を残して、ドアの中に入っていった。

廊下には、俺と医院長のハイクイが残った。


この老婆は、普通の老婆ではないと俺は直感した。

しわだらけの顔でも、その目は鋭く見えた。

鋭い目で、俺をジロジロと見ていた。


「マトイとか言ったな、聞いてもいいか?」

「ああ、構わないが」

「そなたは、普通の『獣化病(ビーストロール)』ではないな」

「この見た目で、それが分かるのか」

サラは俺を病と決めつけているが、ハイクイは違っていた。これも年齢的経験なのだろうか。

何かを理解しているようで、侮れない(たたず)まいだ。


「お主は元々人間だが、何らかの影響でその姿になった。

だが、それは病ではなく……別の何か要因が絡んでいる」

「原理はわかったとして、それは治せるのか?」

「さあな、体を解剖しないと何も分からぬ。なにせ初めてのケースだからのぅ」

「そうか」俺は、なんとなく覚悟はしていた。

サラはそこまで言っていないが、俺の存在自体がこの世界の普通でないのは間違いない。

そしてそれは、解剖レベルで調べないと答えすら出せないかなりイレギュラーなものだ。

ハイクイは、俺の方を見上げながら顎に手を当てていた。


「だが、一つ似た事象をわしは見たことがある」

「事象?」

「お主のような変わった姿じゃよ」

「本当か?」俺は、ハイクイに聞き返した。


「ああ……じゃが、どこじゃったのか?そこまでは思い出せぬ。

うーむ、一年ぐらい前か、二年ぐらい前か……」

「どこで見た?大まかな場所でもいい」

「それはわかる、城じゃよ。間違いない」

「城か」ここ、アルカンテには城がある。

だが、その城に入るには難しいだろうことが予想できた。検問でも兵士はいたし、兵隊も多いだろう。


「おい、それより俺を治せ。ハイクイ」

俺の背後から、一人の男が近づいてきた。

男は筋肉隆々で、青い金属鎧を着込み、ガチャガチャと大きな音を立てて現れた。



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