046
(??? EYES)
――目の前では辛い戦いが繰り広げられていた。
ここは、街のほぼ中央にある闘技場。
観客が入った円形の闘技場のほぼ真ん中で、二人の女が戦っていた。
一人の女は、槍を構えたツインテールの長い髪の若い女。
胸に紋章の入った黒のノースリーブに、タイトな赤いスカート。
スカートと同じ色のミニブーツの女は、右腕に腕章をつけて肩で息をしながら立っていた。
よく見ると彼女の腕や足には、切られたような小さな傷が無数に見えた。
「なぜ、あなたはわからないのですか?」呼吸を整えながら、叫ぶように言う。
「あなたに言われたくはないわ」
ツインテールの女の前には、一人の女が立ちふさがっていた。
白いビキニを着ていたショートカットの女は、両手に大きな斧を持っていた。
水着というわけではなく、布の部分がやや厚めに作られた彼女の衣装だろう。
足元は赤いロングブーツだけという、かなり露出の高い格好だ。
彼女もまた、体のアチコチに傷を負っていて呼吸を乱していた。
それでも、左腕につけた腕章は無事だった。
「これ以上戦っては危険です!ここは引くべきです、あなたの御身が……」
ツインテールの女の後ろにいた私は、大きな声をかけた。
「これは、絶対に引けない戦いなの」
「そう、この国の未来を決める戦いだから」
ツインテールの女は、ショートカットの女と向き合って武器を構えた。
私は分かっていた。このまま戦っても、二人の戦いに決着がつかないことを。
振り上げた拳を下ろすことは、とても勇気がいることを
傷だらけの二人は、武器を持って体を奮い立たせて向かっていく。
見ているこっちが、痛々しく見えてしまう戦い。
二人の女はそれでも命をかけて戦う。
斧が女を切りつけ、槍が女の脇腹を突き刺す。
血が流れ、その度に歓声と悲鳴が入り混じって聞こえてきた。
それでも歯を食いしばって再び、武器を構えたところで二人共膝をついてしまう。
武器を杖がわりに使い、なんとか体を奮い立たせようと立ち上がろうとした。
しかし、最後はやはり二人共倒れてしまった。
闘技場には、戦闘終了を告げる鐘の音が虚しく響いていた――
(MATOI‘S EYES)
ラナジー村を出発して、二日後。
村を囲むサンバ大森林を抜けると、見えたのはどこまでも広がる草原だ。
草原になると、見晴らしも良くてだいぶ先も見渡せていた。
昼間ではあるものの心地よい風が吹いて、気持ちいい。四人で、俺たちは歩いていた。
「だいぶ歩きましたね」
「時間的には、昨日の夜には着いていた予定だったっす」
重そうなリュックを背負いながらもサラは、相変わらず元気に笑顔を見せていた。
白いローブを身にまとって、長い髪を風になびかせた。
そのサラの隣には、ノニール。
相変わらずのアロハシャツに、短パン。
ついでにグラサンまでかけて、背中に背負う杖がなければただの観光客にしか見えない。
赤く短い髪で、前髪だけを軽く黄色に染めているのが彼のオシャレらしい。
「そうだったな。ラナジー村から、二日とかからない予定だよな」
このメンバーで一番体の大きな俺は、相変わらずのフードとマント姿だ。
全身熊の茶色い毛で覆われていた、ノケモンのゲームキャラでグリゴンの姿だ。
いつも眠そうな目の細い顔をした俺は、ラナジー村で買った大きな肩掛けカバンをかけていた。
「う、うるさいわね」
この四人の先頭を歩くのが、勇者レティアだ。
ポニーテールの勇者は、地図を見ながら難しい顔をしていた。
相変わらずの、ビキニのような金色の鎧。金の肩当てに胸当てとブーツに腕輪。あとは白いミニスカートだ。
涼しい風か当たる度に、ビクッと背中を震わせて寒そうにしていた。
「寒そうだな」
「さ、寒くなんかないわよ!あんたこそ、服を着ていないから寒いんじゃない?」
「俺はこの毛皮あるし、どうもいろいろと神経が鈍感らしい」
「そうですよ、マトイさんはフカフカです。一緒に寝るとあったかいんですよ」
サラが付け加えると、レティアがなぜか俺を睨んだ。
「一緒に寝ている時に、サラに変なことをしていないでしょうね?」
「していない。サラが俺を毛布がわりにしているだけだ」
「そう?ならいいけど。それにしてもマトイ……あなたは、時に変なこと言うから」
「勇者様ほどじゃないけどな」
「そんなことないわよ!」俺との言い合いに負けて、レティアがふてくされた。
「それより、あれを見てください」
俺とレティアの後ろから身を乗り出したサラが、左側の景色を指していた。
サラの指し示す方角を見ると、指さした方角には青い地面が見えた。
「海だ」歩いている草原の先には、海岸線がどこまでも続く。
「ほんとに、海ね」
後ろのサラは感動しているが、俺とレティアはあまり興味がない。
「あれっ、意外っすね。マトイ君は、海を見たことないと思ったっすが」
「生まれた場所が、海に近い場所だからな」
「なるほどっすね、了解っす」
半分疑った目を見せたノニールは、そそくさと後ろに下がった。
目を輝かせて見ていたサラは、なぜか海岸線のほうに大きく両手を振っていた。
海岸の方には、誰も人はいないようだが。
「サラは、初めてなのか?」
「いいえ……何度もありますよ」
「その割には、なんかはしゃいでいるな」
「えー、だって海からみんな生まれたものですよ。全ての生物の……母なる故郷ですよ」
「そうなのか」ここは異世界だ、俺の生まれた世界とは違う。
だけどこの世界の生き物も、海から出来たのだろうか。
それでも、サラは元気に海を見ているようで幸せそうだ。
「それよりもレティア」
「なによ?」
「海が見えたってことは、そろそろじゃないか?」
「あっ、そうか!」
広げた地図をじっくりと見ながら、海の位置を確認した勇者レティア。
これでもこのパーティの、一応リーダーだ。だが、かなり頼りないけどな。
「うーん、この海の位置的に……海岸沿いに行けばそろそろよ」
「あれじゃないですか?奥に建物らしきものが、見えますよ」サラは、指をさしていた。
海沿いのずっと奥に、微か白い壁のようなものが見えていた。
だが、ここからでは遠すぎてよく確認できない。
「俺はよく見えないが、サラは見えるのか?」
「はい、視力はいいので……建物ありますね」
どうやら、サラにはちゃんと見えているらしい。
細い目をさらに細めてじっくり見ている俺と、レティアには分からない。
「僕も、残念ながらわからないっす」
「でも、サラは見えるのか。すごいな、視力はいいのか?」
「私は、これでもちゃんと健康には気を使っていますから。
『サトラゾの実』を、毎日食べていますよ」
小さな胸を張って、自慢げに誇っていたサラ。
『サトラゾの実』か、森で取れるあの赤いブドウみたいなやつか。アレ、すごく酸っぱいんだよな。
「場所がわかったんだし、行こうぜ!」
「そうね、アルカンテへ向かいましょ」
レティアは、再びリーダーシップをとって歩を進めていった。




