044
それから二日後、俺はテントの中にいた。
昨日、仕事終わりの報告でレティアから報酬をもらった。
最も、後始末的なアジト調査も行われた。
あの洞窟は、『獣協会』が住み着いた洞窟だ。
最近住み着いたらしく、行方不明事件が起きた一か月前とほぼ重なった。
行方不明者は全部で五人、俺たちの前に現れた人質はそのうちの一人の町娘だ。
レティアは村長から話を聞いていたので、手が出せなかった。
彼女の出された命令は、人質の保護だった。勇者という立場も、彼女の動きを鈍らせた。
残りの人質もいたが、ノニールやサラたちの活躍で無事に救助されていた。
にしても、『獣協会』は実働一人の組織だったとは意外と言えるかもしれない。
レティアから貰った初めての報酬は、全部で一万ゴルダ。
これがどんな貨幣価値かわからないので、俺は買い物に出ることにした。
最もこの村は、商店らしきものが殆どない。
さすがは、レティアが言う『辺境』というだけのことはあった。
とりあえず贅沢として、七面鳥みたいな鳥の丸焼きを食べて、大きな肩掛けのバッグを買った。
肩掛けのバッグは、俺の体が大きいからこれしか買えなかった。
余った七千ゴルダは、とりあえずそのまま袋に入ったまま手をつけていない。
昨日のショッピングから今日、サラの診察は午前中で終わっていた。
前任者から溜まっていた診察を、ほぼ予定通りの三日でこなしたサラは本当に優れた医者だ。
三日ほど村にとどまったサラは、リュックサックの中を整理していた。
俺のカバンの中は、サラのリュックに入っていた保存食のパンを入れていた。
「マトイ君は、それぐらいで大丈夫ですか?」
「ああ、俺は特に荷物はない。保存食ぐらいで」
「ごめんね、私の方は整理がいっぱいあって」
サラは、かなり大きなリュックサックを背負っていた。
彼女の体がそのまま入れそうなくらいの大きなリュックを、彼女はパンパンになるまで入れて背負っていた。
その中には薬や簡単な保存食なんかはもちろん、本や寝袋も入っていた大きいリュックだ。
「俺は怪力だ、他にもまだまだカバンの中には入るぞ」
「でも、レティアさんが一緒に旅をしてくれるんですか。ありがたいですね」
サラは鼻歌まじりに、リュックを整理していた。
「ああ、四人パーティということになるな。サラは、俺に会う前に一人で旅をしていたんだろ」
「そうですね、一人でしたね」
「仲間とかいなかったのか?」
「そうですね」ため息を一つ吐いたサラ。
「いなかったというか、なってくれなかったんです」
「どういうことだ?」
「私の最後の夢は、前に話しましたよね?」
「ああ、父親のような医者になる」
「父のいる場所は『テスコンダル大陸』。そこは、もう死んだ大陸なのです」
「え?」俺は首をかしげた。
「私はいつか、そこに行こうと思うのですけど、誰も行きたがらない」
「アスカンテに、行くんじゃないのか?」
「アスカンテにも行きますよ、そこでお仕事がありますから」
「今度はお仕事か」
レティアは約束で、サラはお仕事で行く場所。
アスカンテとは、どんな場所なのだろうか。ますます興味が沸いてくるな。
「アスカンテは、港町ですので」
「さらに属性がつくのか」俺が思わず突っ込んでしまう。
「属性?」サラがキョトンとした顔で、俺を見ていた。
「ああ、いや……何でもない。港町か、これはますます行ってみたくなったな」
「それに、勇者様と冒険ですから」
「嬉しそうだな」サラが嬉しそうな顔を、俺は眺めていた。
小学生の女の子が、遠足を待ち遠しそうにしているそんなハシャギ方のサラ。
一見すると微笑ましいが、サラは俺と一つしか違わないんだよなと思うと、いろいろ考えてしまう。
「勇者と冒険するって、すごいことですよ。いろいろと、あちこちで優遇されますし」
「このテントも、レティアたちが掛け合ってくれたんだろ。
それに、サラは診療もできるちゃんとした医者だしな」
「マトイさんだって、すごいですよ!」
サラは薬を、リュックサックから取り出して俺に渡してきた。
両手で大事そうに俺の手を掴んできた。少しだけ頬が赤い。
「これは保存の効く薬なので、マトイさんに渡しておきます。
万が一、マトイさんと私が離れてしまってもこの薬は……」
「大丈夫、俺は今度こそいなくならない」
「でもでもっ!私に内緒で、洞窟に行って……レティアさんの裸見て……」
「あれは……その……ラオルが悪いんだ!」
「レティアさんは、艶やかないい胸!していますからね」
「胸」という部分をやたら強調するサラ。サラは幼児体型を、今でも気にしているようだ。
サラは喋りながらも、リュックの整理の手は止めない。
「薬で思い出したけど、前に渡した薬は……」
「よしっ、できた」パンパンのリュックサックを、無理やり閉めていたサラ。
彼女が大きなリュックを閉めるのを見ると、すごい重労働に見えてきた。
サラがなんとか口を閉めて、重そうなリュックを小さな体で背負う。
「いつ見ても、すごく重そうだな」
「大丈夫です、問題ありません」サラは笑顔で答えていた。
彼女もある意味怪力ではなかろうか、と思わざるを得ない。
「そか!じゃあ、あいつも待っているし行くか」
「はい!」サラは、眩しい笑顔を見せて俺に応えていた。




