041
――それは、洞窟内にまで遡る。
青い魔法陣の部屋で、俺は魔術師ラオルを追い詰めた。
ラオルに馬乗りになったとき、俺は迷わず右手で叩いた。
殺すつもりはない、気を失うまで殴るつもりだった。
「グヘッ」真っ白なラオルの顔が、ボコッと凹んだ。
まるで膨らんだ浮き輪を殴っているような、感触があまりない。
二発目の攻撃をしようとしたとき、ラオルは既に崩れた顔で笑っていた。
「我は死なぬ」それでもラオル口元の詠唱は、止まっていた。
「黙れ」腕を押さえ込んでいるので、魔法は使えない。
二発目の《たたく》で、さらに顔が凹んでいた。
「待って、マトイっ!」胸を腕で隠しながら、裸のレティアが俺の背中に声をかけてきた。
俺が振り返ろうとするが、「こっち見ないで」と険しい顔で睨んでいた。
俺がマウントで乗っかったラオルは、もう動いていない。
「コイツは偽物よ」
「偽物?」
俺がレティアの言葉を聞いていると、徐々にローブの中にある肌の色がねずみ色に変わっていく。
いや、顔の皮膚がボロボロと崩れてきた。
そしてそれは、小さな破片のようなものに変わっていく。
「これは、ネズミ」
俺の足元から灰色のネズミが、走っていた。しかも、俺の尻に見えたのはネズミの群れだ。
体がボロボロ取れて、ネズミに変わっていく。
何かに逃げるように、ネズミの大群が洞窟の空間の中を走っていた。
「なんだ、これは」俺の足元には黒いローブが、バサリと床に落ちていく。
「使い魔ね」レティアが遠くで答えた。答えながら、落ちている金色の胸当て拾う。
「使い魔?」
「魔術師がペットを媒介にして、自分の下僕を作る魔法よ」
レティアは手早く金の胸当てを、装着し直していた。かなり、手馴れているようだ。
「じゃあ、これは?」
ラオルの黒いローブの中に、硬く赤い固形物が見えたが。
「さあ、あたしはわからないけど。まだ敵がいるわ」
レティアの言うとおり、俺の近くに敵がある。
赤い何かを俺は拾うと、すぐ近くに一人の赤い狼男が立っていた。
爪を光らせて、ダッツの方に向き合っていた。
「サラも、ピンチみたいだ」
俺は赤い固形物を、自分の胸の毛の深いところに隠しながらゆっくり立ち上がった。
立ち上がって、ダッツの向き合う赤い狼男に向かう。
ちょうど俺に背中を向けていた赤い狼男が、俺からわりと近い場所にいた。
(届くかな)俺はそう言いながら、頭の中でコマンドひとつ選択した。
それと同時に、俺の体が動いていく。
右手を振り上げながら、赤い狼男に向けて歩いていた――




