037
魔術師ラオルは、俺とレティアの共通の敵だ。
俺にとっては初めて異世界に転送した時に、殺されそうになった人間。
レティアもまた、彼を追いかけている理由があるようだ。
ともかく一つはっきりしているのは、ラオルは得体の知れない男ということだ。
佇まい、動き、考え、すべてにおいて気味が悪い人間だ。
「一つ話をしようか」
「話?なんのつもりだ?」
「君らは、ここに何をしに来たのかね?」
「誘拐犯の駆除よ、あんたらがそうでしょ!」
レティアが勇ましく、ラオルに言い放った。
「誘拐とは同意がない人間を連れ去る、アレのことかな?」
「そうよ。あんたたち『獣協会』がやっていることは、誘拐以外の何者でもないわ!」
「彼らに同意を得ていないと、言いたいのですかな?」
ラオルは余裕たっぷりに、言い返してきた。
「当然でしょ!あんたたち『獣協会』は、人間を玩具にしているだけよ。
人間の体を実験にして、獣化病の患者を増やしているだけでしょ!」
「玩具になんかしない、彼らは望んで獣になろうとするのですよ」
「馬鹿なことを言わないで、なんで自ら病に……」
「獣の体を求めることが病?我らには、その考えが全くわからない」
「いい加減にして!あんたのせいで、どれぐらいの人が死んだと思っているの?」
俺の隣のレティアは、やはり沸点が低いようだ。
すぐに、怒ってしまうらしい。俺は隣でレティアの熱量とは全く違う熱量で、ラオルを見ていた。
「落ち着けよ、レティア」興奮気味の女勇者を、俺はなだめた。
「これが落ち着いていられると思うの?」
「そう、落ち着いていられないんですよ。
我がかつての勇者レティア一行を、倒していますから」
「あの時のあたしではないわ」
「そのようですね、前に戦った時は……四ヶ月前でしたか?
我の前に四人で現れて……我らと戦って無様に敗れた」
「そうよ、あたしたちは負けた」
レティアは、俺の説得に応じたのか落ち着いていた。
剣を構えて、ラオルの前にゆっくり近づく。
「その時に学んだのよ。あなたは、絶対に許してはいけないって。
あたしは甘かったわ、ちゃんとトドメを刺さなかったあたしの判断の甘さなのよね」
「だが、学んだのはあなただけではないですぞ。勇者様」
ラオルは、歩いてきたレティアに対してバク転をして離れた。
黒いローブをバサバサとなびかせて、華麗に着地した。
「無駄よ、あなたはここであたしに敗れるの」
「いえいえ先程も言いましたとおり、学んだのはあなただけではありませんぞ」
「何を企んでいるの?」
「二日前、我の放った獣がいたのをご存知ですか?」
「ええ、小屋の方に逃げたのでしょ。
あれも行方不明の村人で……あなたたちが獣化させたんでしょ」
「そう、我らが創りし獣。あなたは二匹の獣を追いかけていて、一匹取り逃がしていた。
実はその一匹が、ここにいるんですがね……」
ラオルの後ろには、通路が見えた。通路の奥から、一匹の狼男が出ていた。
全身が赤い狼毛に覆われた、狼男だ。目も赤く、間違いなくステージ4で殺気を放っていた。
「あなたが、逃した獣はこれですか?」
「お前、まさか……」
「でも、残念です。あなたが攻撃を加えたらこの人、殺すようにしますよ」
狼男の隣には人がいた。両手を縛られた、見知らぬ町娘風の女。
人質のように女が、狼男の爪を突きつけられて現れた。




