035
黒いローブの魔術師のラオル。
俺は、そいつを倒した。この世界で初めて来て《たたく》で殺した人間だ。
最初殺したときは、少しだけ罪悪感があった。
だが、そいつも俺を殺そうとしていた。これは正当防衛なのだと思い、俺は前に進んだ。
「おや、『獣の子』が戻ってくるとは。やはり、ここはあなたの家なのです」
両手を広げてくるくる回ってみせた、ラオル。
相変わらず、不気味に不敵な笑みを浮かべていた。
「ふざけるな、俺はお前に作られたわけじゃないっ!」
俺とラオルのやり取りを、険しい顔で見ているレティア。
「知り合いなの?」
「知り合いというか、俺を殺そうとしたやつだ」
「そう、ならば私と同じ関係性ってことね」怖い顔で、レティアは剣を抜いて盾を構えた。
彼女の構えを見たのか、ラオルが止まった。
同時に青い光だけの部屋で、篝火が灯ってさらに明るくなった。
「おや、あなたは勇者レティアではありませんか?
また我に、殺されに来たというのですか?」
「冗談じゃなわよ、あたしはあんたを倒しに舞い戻ったのよ」
「そですか、そですか。執念深い生き物ですね、勇者というのは」
背中を向けたラオルが首だけをこちらに向けた。
ありえないような柔軟な首の曲がりに、異様なものを感じる男だ。
反対の目から、レティアを怪しく見ていた。
「ですが、我は今のところは勇者には興味ない。我はその『獣の子』に興味あるのです。
さあ『獣の子』を渡すのです、勇者よ。あなたには、絶対に扱えない代物です」
「ふざけないで!なんで、あんたにマトイを……」
「でも、彼のためにはならないですよ。彼はいずれステージ4になる存在。
そうなれば、あなたは殺さないといけない。さあ、獣の子よ。我の元に、戻るのです」
「断る」俺は、きっぱりと否定した。
俺の言葉を聞いて、何故か高笑いをするラオル。
「こ、断るですか?あなたは何も分かっていない、獣の子。
あなたは所詮ただの獣です、今の世界に生きればいずれ殺処分される身。
獣人を殺処分することが仕事の勇者と一緒にいる理由が、あなたのどこにあるのですか?」
「お前の人相と、レティアの馬鹿さだ!」
「な、あたしが馬鹿だって言うの?」
レティアが俺に対して、険しい顔で怒りつけた。
「ああ、コイツは地図も見るのが苦手で、罠にも簡単にかかる。
俺と戦っても簡単に負けるし、わがままで見栄っ張りで、短気だけど……」
「思いっきりあたしを、馬鹿にしているわね」
「けど、コイツは真っ直ぐだ。馬鹿正直に、救うことを考えている。
素直で、真っ直ぐなレティアを俺は選ぶ!」
「マトイっ……あんた」レティアが照れていた。
「ははっ、そうですか、そうですか。我の誘いを断ると」
「ああ……半分は消去法だけど」
「あんたねぇ」レティアは照れながらも俺を睨んだ。
それを聞いたラオルが、体ごと俺の方に振り返った。
目を細めて、俺の方を睨んでいるようにも見えた。
黒いローブから、右手を突き出して俺の方に向けた。
「残念だ、残念だ、残念だよ。
だが君は、どうしても手に入れないといけない。獣の進化のためにも、君は……」
「しつこいのよ、あんた!」レティアは剣を握り、盾を持ってラオルに斬りかかった。
まっすぐラオルに向かい、振り下ろした剣は簡単にラオルによけられた。
「ならば……仕方ありませんな」
ラオルの言葉に合わせて、魔法陣の部屋の奥から二匹の人間が現れた。
それぞれ鷲頭と、ネズミの頭の獣の亜人。
二人共、赤く目が光った人間が俺たちの前に立ちふさがっていた。




