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イセカイGO!  作者: 葉月 優奈
一話:『纒 慎二』とグリゴン
3/639

003

ドアを開けると、強烈な匂いがした。

正しくはリビングで嗅いでいた匂いが、より強くなった。

案内された部屋には目を覆いたくなるような、凄惨な光景が広がっていた。

個室のタンスやカーテンが荒らされて、赤く染まっていた。


それは腐った魚……というか狼だ。

地面に血がベッタリとついていて、赤黒く見えた。

ベッドの上にズボンを履いた狼が、背中に何本も矢を刺さって倒れていた。

狼は呼吸もしていない、完全に死んでいた。


「くさっ、これは……マジか!」

「そんな……ことが」

血まみれの白い毛の狼が、ベッドで死んでいるのを見て絶句する俺。

隣のサラは、その場にしゃがみこんっで悲しそうな顔で哀れんでいた。


「そいつは獣人になった、獣化病が進行してこうなった俺の元相棒だ。

お前ら医者が言うところの、多分……ステージ4と言うやつだろ」

「ダッツさん!これは、いつやったのですか?」

「三日ぐらい前だ」

絞り出すような声でダッツも、悲しそうな顔を見せていた。

血がベトベト生々しい部屋の中に、ベッドに倒れる狼を見ていた。

ここで倒れている狼は、元は人間だったのだろう。

ちぎれた服のような布が、ドア付近の床に落ちていた。


「ごめんなさい、私があと三日……早くここに来ていれば、彼も救えたのに……」

血の床に膝をついてサラが、優しく寄り添うように白い狼の頭を撫でていた。

ベッドに横たわる血まみれの狼は、呼吸もしないし目を覚ますことはない。


「お前が救えたというのか?」

「私は医者です、最善を尽くして……」

「嘘つくな!」サラに叱責をしたダッツ。

狼となったその顔は、恐怖に震えているようにも見えた。


「俺は知っている、獣化病はどんなことがあっても絶対に治らないことを。

俺もいつかは……こうなる運命だということを」手を力強く握るダッツ。

「ダッツさん……興奮はいけないです!あなたの、病の進行が早まってしまいます」

「病か進行するか……俺も獣になるのか?

病のせいで俺は人間をやめられるんだろ……いいじゃねえか」

叫びながらダッツは、空笑いをしていた。

立ち上がったサラは、それでも真剣にダッツに向き合った。


「私は人の命を救うために、旅をしています。あなたを救わせてください」

「俺は友を殺した、相棒をこの手に殺した、仲間を殺した!

この手で、俺が……どうしようもなかった……

ステージ4になったら、助からない。絶対に助からない、人間をやめ……ウオオッ!」

興奮したダッツの目が、突然赤く光った。

俺の全身の毛が逆立った。ダッツから、殺気を放ったのをすぐに理解した。


「まずいぞ、サラ!」

俺は重たい体を、なんとかサラとダッツの間に割り込ませた。

興奮した赤い目のダッツは、ためらいもなく右手の拳をサラに向けて殴ってきた。

人間の右腕のダッツの拳が、サラではなく俺の茶色の毛の背中に命中した。

それは手加減一切なしの、獣の拳だった。



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