029
このラナジー村は温泉が名物らしい。
近くに高い山があるわけではないが、それでもここには温泉があった。
その中でもノニールが勧めてきた温泉に、俺はやってきていた。
温泉は混浴ではなく、男女でしっかりと木の柵で分けられていた。
一応このグリゴンは雄ということから男湯に入った俺は、ノニールと温泉に使っていた。
アロハシャツのノニールも、流石に服は脱いで裸になった。
ノニールの体は、やはり痩せ気味で肌も白い。
「いやー、強いっすね!さすが全身獣っす」
湯船に使ったノニールが、俺を見ていた。
「褒め言葉か?」大きな体の俺は、のんびり風呂に入っていた。
毛が濃くて体を洗うのに、かなりかかったが。
この温泉には、俺とノニールしか入っていないようだ。
「やっぱり興味あるっすよ、その体」
「男に興味持たれても、全然嬉しくない。ノニールは、大きな男が好きなのか?」
「いやいや、僕は女の子の体に興味あるっすよ」
「だろうな」
湯に浸かりながら、ノニールを見ていた。
一見すると軽そうな男だが、なかなか本性は見せない人間だ。
それにしても、この温泉は少しぬるいな。体感的に、三十度ぐらいじゃないのか。
「あのパワーといい、あの硬さといい、人間技とは思えないっすね」
「俺もそう思う、時々自分じゃないみたいだ」
「それ、わかるっすよ。僕も初めて魔法を使ったときは、そう思ったっす」
「ノニールは、レティアとは最初から仲間なのか?」
「そうっすよ。魔法もレティア様のために学んだっす」
「生まれながらにして、勇者のつき人ってわけか」
「それが僕の宿命っすから……」
風呂に浸かっているノニールが、遠い目で見ていた。
彼の目の前には、木の柵があって奥は女湯らしい。
「なんだ宿命って?」
「僕の家は、先々代々からレティア様を守る魔術師の家系だったっすよ」
「大変だな」
「まあ、あまり選ぶとか面倒だから考えなかったっすから。
生まれながらにして、次に生まれる勇者の補佐をする。
僕はそう言われ続けながら、彼女の成長を見守ってきたっす」
「まて、ノニールはレティアより年上か?」
「そうっすよ。確かレティア様は、僕の六つぐらい下だったっすか?」
赤い髪のノニールは、淡々と言っていた。
「そういえば、俺は試すとか言ったが結果はどうなる……」
「マトイ君は、もう合格っすよ」あっさりというノニール。
「合格って、あれだけでわかるのか?」
「まあ、わかるっすよ。見た目通りの怪力だし、その力を、是非僕らの仕事で役立てて欲しいっす」
「そうか」ノニールの言葉に、俺は一安心をした。
「僕らは、村から仕事を請け負っているから用意もあるし。
細かいことは明日、またテントに迎えに行くっすよ。そこで説明するっす」
「そうか、わかった」
「そんなことより、今からその体を有効に使ってみたくないっすか?」
「は?」ノニールの提案に、俺は首をひねった。
「この温泉、男女別々で隣は女湯っすよ。あの柵、高いっすよね」ヒソヒソと話してきたノニール。
彼が見上げるのは、木製の柵。三メートルほどの高さがある木の柵が、高く立ちふさがっていた。
温泉の隣は、女湯だろう。隣には泥だらけになったレティアが、入っているのだろう。
「そうっす。だから、マトイ君の獣の体の出番っす」
「俺の身長では、ギリギリ見られないか」
「僕を肩車すれば、見られるっすよ」
「ああ、なるほど。だが……俺には、なんのメリットもない」
素直に、俺は断固として断った。
確かに俺の上にノニールが乗れば、木の柵の一番上に届くだろう。
「報酬が欲しいっすか?」
「報酬とか、アイツが裸を見られたら怒るんじゃないか?感情の激しい勇者なんだろ」
「でも、鎧に隠された胸を見たくないっすか?
レティアは、ああ見えてかなりの巨乳っすよ」
ノニールに言われるがまま、俺はレティアの裸の姿を想像した。
確かに、レティアはサラよりも発育のいい体だろう。
「足場になってくれたら、後でレティア様の秘密を教えてあげるっすから」
俺に懇願するノニール、はっきり言って乗り気ではない。
だが、ノニールに恩でも売っておこうと判断した。
「仕方ないな、土台にだけはなるから」ヒソヒソ声で俺は了解した。
「おお、流石っす。持つべきものは、熊の獣っす」
「壁を背に、俺が立っていればいいんだな」
「そうっす、僕がマトイ君の体を登っていくっすよ」
ノニールはしゃがんだ俺の体に、器用に登ってく。
ノニールが俺の肩まで登りきった時に、ゆっくりと立ち上がった。
俺のさらに上にいるノニールの頭が、木の柵を超えた。
「おお、見える……ああっ、湯気が」
なるほど、確かに二メートルいや、三メートルを超えていた。
ノニールは、木の柵の上から堂々と頭を出していた。
「見えたか?」
「え、あ……えと……」
ノニールの様子がぎこちない。
次の瞬間、俺の上にいたノニールが暴れだした。
足を掴んで、倒れないように俺がノニールの足を支えていた。
しかし、ノニールはなにか重いものに当たっていた。何かが向こうから飛んでくるのが見えた。
「バレバレなのよ、ノニール!」レティアの大きな声が、柵越しに聞こえてきた。
吹き飛ばされて、ノニールが俺の肩から湯船に落ちていく。
ノニールが墜落した湯船のそばには、向こうから飛んできた木桶がプカプカと浮いていた。




