028
勇者レティアの俺に対する印象は、さらに悪化した。
俺に対する怒りや不満もあるが、それ以上に彼女の印象が悪いのは何か理由がわからない。
彼女に何があったのか知らないが、怒りが俺と戦う原動力になっていた。
「覚悟しなさいっ!」
両手で剣を握って、突っ込んでくるレティア。
俺の腕を試すような余裕が、一切なかった。
ただ直線的な攻撃なので、俺は巨体を揺らしてヒラリとかわしていた。
俺に突っ込んできたレティアは、両足で倒れないように踏ん張った。
彼女のボディバランスがいいようで、転倒せずに上手く体の向きを変えた。
「やるじゃない」
「動きが直線的だからな」
「な、なによ!」不満そうな顔で、剣を構えるレティア。
彼女の剣はまっすぐで正直なだけに、読みやすい攻撃だ。
再び剣を構えて俺に斬りかかるが、直線的な攻撃は避けやすい。
巨体の俺は、大きな体を動かして彼女の攻撃を避けていく。
「だあっ、なんで当たらないのよ!」
動作が遅そうな巨体な俺が、レティアの剣先を避けていく。
女勇者が、悔しそうな顔で叫びながら俺をじっと見ていた。
「今度こそ、当てるっ!」
再び剣を両手でしっかり握って、俺に向かってきたレティア。
村人のギャラリーは、小柄で女でセクシーな格好のレティアを応援していた。
(まあ、彼女は血気盛んだな……さてどうするか)
俺の頭に、再び四つのコマンドが浮かび上がってきた。
少し戦ったがレティアははっきり言って強くない、剣も動きも未熟だ。
巨体で遅い俺がよけられるのだから、獣と言われた狼男よりも弱いかもしれない。
やる気だけがある彼女は、俺に一直線に向かってきた。
(攻撃に出るか、しかし動き回っているからな……これでいいか)
頭の中にあるコマンドから、俺は一つのコマンドを選択した。
レティアが、まっすぐ俺にめがけて突っ込んできた。
彼女の動きに合わせるように、俺も動き始めた。右足を後ろに下がり、そして強く蹴り出した。
蹴り出した次の瞬間、俺の体が水平に浮き上がった。
浮き上がると同時に巨大な体が、まるで投げた槍のように平行に飛んでいく。
俺の巨体は、走ってくるレティアに向かって飛んできた。
「えっ、ちょ、ちょっと……」
俺の巨大な体を避けきれない、レティアに命中した。
「ああっ!」レティアの体が、俺の巨体にはじかれて飛ばされた。
彼女の体が軽々と、大きな水たまりの方に吹き飛ばされた。
巨漢の俺も、レティアとぶつかった後、器用に前転をした。
クルクルと回って、無事に着地をしていた。
俺に吹き飛ばされたレティアを見た観客は、たちまちどよめきが起きていた。
(これが《ずつき》か。思ったより突撃系だな)
コマンドを入れて、ただ頭を突き出すものだと思っていた。
なので、こんなに激しい技だとは思わなかった。
「どうやら決着は、ついたようっすね」
勝負を見守っていたノニールが、俺とレティアのいる広場に向かってきた。
流石にやりすぎだと感じた俺は、ゆっくり水たまりの方へ向かう。
水たまりでは、うつぶせになって泥をかぶったレティアが倒れていた。
手に持っていた剣は、少し先の地面に突き刺さっていた。
「大丈夫か?」俺が大きな手を差し出す。
「ううっ、なんでよ……」
レティアが泥を全身に浴びて、ビキニのような鎧は泥だらけだ。
ゲホゲホと、口の中に入った泥を吐き出した。
「悪かったな」
「何がよ?単に、あたしが弱かっただけよ」
俺の手を払いつつも、素直にレティアは負けを認めていた。
綺麗で凛とした少女の顔も泥だらけで、全身も泥で汚れていた。
「あんた、どうしてそんなに……」
「ストップストップ!」
そう言いながら、俺のマントとレティアの盾を持ったノニールが走ってこっちに向かってきた。
「な、なによ!」
「まあまあ、ここは一旦温泉に入って……それから話すっす」
「そ、そうね。鎧も汚れちゃったし。一旦休戦ね。お風呂に入りたいわ」
自分の姿を見ながら、レティアは素直に引き下がった。
だけど、ノニールは何故かにこやかな顔で俺の親指を立てていた。




