025
屋根のある建物で、朝を迎えたのはサラと旅をして初めてだ。
テントの中では、俺が起きるといい匂いがしていた。
俺はベッドで寝ていたのだが、両脇にいたサラもダッツも姿がない。
俺が最後に起きたのか、衝立の手前のテーブルの方に近づいていく。
「ん……朝か」
「ごはんですよ」サラは真っ白な、チャイナ服みたいなセクシーな服を着ていた。
彼女の前には、コンロのようなものが見えてグツグツと何かを煮込んでいた。
「さ、サラっ!なんだその格好は?」
「この村の民族服みたいですよ、似合いますか?」
サラが可愛く俺の前で、回ってみせた。
純粋に母親の手伝いをする女の子みたいで、単純に可愛らしかった。
「う、うん」
「本当は、お気に入りのワンピースで料理しようとしたのですけど。
折角なので、レティアさんに頼んで服をもらったのです。
でもレティアさん、ひどいんですよ!私と違って全体的に大きくて、胸なんかも……大きいし」
「それは……人それぞれじゃないか?」
俺に対して、胸を一生懸命前に突き出すサラ。
胸は残念すぎる小ささで、かわいそうに見えてきた。
「そういえばマトイさんも、衣装がないですよね?」
「まあ、あまり気にしていないがな」
茶色の毛皮に全身覆われているから、衣装の概念をあまり考えたことがない。
寒いとか、暑いとかそういうものは、この体ではあまり感じないようだ。
やはり、神経がそれだけ鈍感なのだろう。
「衣装を頼んだのですけど、この村にはマトイさんが着られるような大きい服はないみたいです」
「まあ、いいよ。この大ききで着られる服があるとは思えないからな。
それよりサラは、スープを作っているのか?」
「はい、ずっと保存食ばかりでしたからね。
台所も借りられましたし、料理をしてみました。火を使えるのはありがたいですね」
そう言いながらも、サラがコンロの火を止めた。
彼女の前にある小さな鍋からは、いい匂いが漂ってきた。
「今日は温かい食べ物です、保存食は飽きたでしょう」
「おお、うまそうだ」
そう言いながら、テーブルにはダッツが声を出していた。
頭だけ狼の男は、ちゃっかり椅子に座っていた。
「ダッツ、無事なのか?」
「ああ、俺がどうやらおかしくなっていたようだな。本当にすまない」
ダッツがすっかり、元気がなくなっていた。
「獣になると、襲ってしまう。それは仕方ないことだ。
別にダッツが悪いわけじゃない」
「いや、俺がいけない。兄貴達を怪我させてしまった」
「あ、兄貴?」
一瞬、兄貴とは誰を指しているかわからなかった。文脈で判断すると、どうやら俺の事らしい。
「ああ、兄貴を怪我させてしまってすまない。
なんと詫びていいのかわからないが、本当に申し訳ないと思っている」
「いや、多分だけど……俺はあんたよりも年下だと思う」
「いやいやいや、こんな大きな熊の獣なんて初めて見たし、すごくドッシリしているから」
ドッシリしているのは、グリゴンが単にデカイだけだ。
別に俺の年齢とは、何も関係がない。むしろ顔だけ見れば、間の抜けた顔にも見えるぐらいだ。
「はーい、できましたよ。シチューです」
サラは三つの皿によそったシチューを、テーブルの方に運んできた。
サラも椅子に座って、テーブルにシチューを分けていた。
だが、そんなサラを見てダッツはすぐさま椅子から降りた。
膝を折って、床に手をつけて、頭を床につけた。
「申し訳ない、このとおりだ」土下座だ。
「だ、ダッツ……」
「俺は、獣になったとはいえ……兄貴やサラ姉を殺そうとしてしまった。
再び過ちを犯すところだった、許してくれ!」
「いえ、いいのです。あれは病で、どうしようもないですから」
サラが、土下座するダッツに笑顔を見せていた。
「この責任と罪は、必ず晴らしますので……」
「罪とかそういうの、やめていいんじゃない?」
「兄貴……」ダッツは顔を上げた。
「どんなに人を殺したって、罪は晴れない。
それは死んだから晴れるとか、都合のいい事ではないだろ。
ダッツは死に場所を探しているんだよな、だけどよ、どうせならもう少し生きてみないか?
ここにいるサラが、ダッツをなんとか生かしてくれたんだし」
俺は土下座をするダッツに、声をかけた。
お人好しで人の命を大事にするサラならば、きっとこう言うだろう。
「兄貴……わかった。ありがとな」ダッツは顔をあげた。
「いいや、俺は何もしていない。全ては、サラが処置したことだ」
「すごい、すごいですよ!マトイさん」感動していたサラは、俺のそばで涙目になっていた。
「お、おい……サラが、いつもやっていたことだろう」
「やはり、マトイさんはすごいです」涙を俺の毛で拭きながら、感動していた。
シチューのスプーンを持ったまま、隣のサラがなぜか泣いていた。
「違うって……」
「マトイの兄貴、俺はどこまでもついていきまずぜ!」
土下座のダッツは、顔を上げて俺の足元にしがみついていた。
そんな時、タイミング悪くテントの入口が開いた。
そこには、アロハシャツと短パンに背中に大きな杖の優男が現れた。
細めた目で、俺らの様子を見ていた。
「やあ、来たっすよ……て取り込みをしていたっすね」
「お、おい、ノニールっ!」
俺は仕事前に、ノニールに変な誤解をされてしまっていた。




