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イセカイGO!  作者: 葉月 優奈
一話:『纒 慎二』とグリゴン
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002

丸太小屋の中は、見た目以上に広かった。

それはリビングで、中央にテーブル。テーブルの反対側に、暖炉もあった。

暖炉はついていないが、中央にあるランプが部屋を明るく照らす。


壁には弓がかけられていて、鹿頭の燻製も見えた。

奥には台所が見えて、反対側に二つのドアが見えていた。

その部屋を案内したのが、狼の上半身の生き物。

そいつの体の上半分が狼で下半身は人間という狼男が、丸太小屋に招いてくれた。


フードをかぶりマントでほぼ全身を隠す俺と、フードを外して濡れた長く栗色の髪を乾かすサラ。

テーブルを囲んで反対側に白い毛の狼頭の亜人は、座っていた。

狼の頭を除けば、全てが普通の人間の男性と変わらない。

狼男がナイフを持って、見たことのない赤い果物を器用に剥いていた。

それを見て、直ぐに俺のお腹が反応した。

この体は、すぐにガス欠になるらしい。なんと燃費が悪いことだろうか。


「私たちを家に入れていただいて、ありがとうございます」

「お前は、俺が怖くないのか?」

狼男が、当然のように質問をしてきた。

狼のようになった男の頭が、サラをじっと見ていた。

目をたるませて穏やかな顔をしていたサラは、狼男を見ていた。

その眼差しは、恐怖も、不安も、畏怖も、狼狽さえもない。ただ穏やかに見ていた。


「はい、変な匂いがしますけど……私は慣れていますから」

サラが言うとおり、奥がちょっと臭っていた。

だが、それは獣の匂いであって少し違う。


「慣れているか……」

「ええ、マトイさん。ここなら脱いでも大丈夫ですね。同じ境遇なら、彼も理解ありますから」

「そうだな」俺は、恐る恐るフードを上げた。

そこには、熊の顔の俺の顔があった。

熊といっても目が細く、獣の耳が見えた。とはいえ、迫力に欠けた顔で間抜けだ。

さらにマントの中から、狼の腕が見えた。濃い腕毛の色は、茶色で腕も太い。


「熊か。なんだか珍しい姿だが……なるほどな、お前も同じ病なのか」

「多分、獣化病(ビーストロール)らしい」

この病の名前は、サラと初めて会った時からその名前を聞いて知ったものだ。


『獣化病』、ごく普通の人間が段階的に獣の姿に変わってしまう病気。

一般的な症状として、普通の人間の頭から全身に徐々に獣に変わってしまう。

獣化病で変わる獣は、人によって異なるらしい。狼以外も、俺みたいな熊も存在するのだ。

まだこの病では全てが、解明されていないらしい。


狼男が果実をむき終えて、皮をむいた果実を俺に投げた。

「ペルの実ですね。硬い果実で、お腹は膨らむものですよ」サラが解説をする。

「旅人だよな。腹が減っているだろ?やるよ、同族」

狼男にそう言われて、俺は一口ペルの実をおそるおそる食べてみた。

一口目は酸っぱいが、すぐに口の中に甘さが広がった。水々しさが口に残って、美味しい果物だ。


「あんたらも、苦労しているようだな」

「仲間意識か?」

「まあ、そんなところだ。自己紹介がまだだったな。

俺の名はダッツ、ここで猟師をしていた」

「俺は、マトイという。変な事を言うかもしれないが、多分俺はお前とは違う」

俺の言葉にダッツという狼男は、テーブルにナイフを刺したまま笑いだした。


「はっはっは……確かに、熊の獣は初めて見た。しかも目の細い熊だと?

珍しい病気だな、もしかして末期(ステージ4)か?

いやいや、それでも普通に喋れているし……どういうことだ?」

「この症状は、私にもわかりません」両手を広げて困った表情で、サラが言っていた。

サラを興味深く見ている、狼男(ダッツ)


「お嬢ちゃん、あんた……なんで獣と一緒に行動しているんだ?」

「私はサラ、『サラ・バリジャット』。旅医者です」

言いながらサラは、重そうなリュックを下ろした。

そのままサラは、小さな小瓶を取り出した。五センチほどの小さな瓶に、黒い液体が入った薬だ。


「あなたは獣化病に蝕まれているのならば、私は医者として助けねばなりません!

私と会話ができる今のあなたなら、必ず助けられます」

「必要ない」薬を差し出すダッツは、首を横に振って拒んだ。


「なぜですか?あなたはまだ、ステージ4ではない。ステージ3ですよ」

「医者の嬢ちゃん、あんたに見せたいものがある」

元気なく立ち上がったダッツは、フラフラと歩き出す。

そのまま、奥の左側にあるドアへと向かって行った。



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