019
動物は、追い詰められれば何をするかわからない。
それは元人間だった獣……狼男も同じだということだろうか。
俺は二匹目の狼男を見て、困った顔を見せた。
だが悲しきことに、グリゴンがみせる間の抜けた顔では表現することはできない。
増援は、実に最悪のタイミングで現れた。
二匹目の敵を、俺は全く想定していなかった。
「マトイさん、どうやら『共鳴咆哮』です」
「なんだ、それは?」
「同族の獣を呼び起こすもので、眠っていようが起こして同族を守るように戦わせます」
「それはまずいな」
敵は二匹だ、しかも手負いの狼男も相変わらず戦うつもりだ。
サラの注射を打たれたのにもかかわらず、顔色悪いながらもしっかりと立っていた。
手負いの狼男と向き合う俺と、白いローブのサラの前にはダッツ。
小さな体のサラは、ローブから新しい注射を出していた。
だけど、サラは見ての通り戦いに向いていない。
匂い袋でかく乱させて、その隙に注射を打つ方法しか持っていないようだ。
「なあ……サラ」
「うん」俺の言葉に返事する間もなく、ダッツがサラを狙って動く。
近くにいたダッツが、俺のすぐ後ろにいるサラに襲いかかってきた。
注射を持ったまま、サラは足元がぬかるんだ地面を蹴った。
狼の如く機敏に動くダッツは、あっという間にサラと間合いを詰めた。
飛びかかるように、右腕を振り下ろした。
サラは、横に飛んで俺から離れてしまう。
ダッツは間髪容れずに、サラに向けて拳を繰り出していた。
目の赤いダッツは、やはり動きも早い。
人間並の反応しかできないサラは、二発目の拳はかわしたものの三発目の拳がサラの右腕に命中。
「ああっ!」腕を殴られたサラは、注射を落としてしまう。
サラの顔が痛そうな顔に変わり、右腕を抑えていた。
「大丈夫か?」
サラに声をかける俺の前には、狼男が俺に向かっていた。
爪を光らせて、俺の腹を攻撃していた。
動きの遅いグリゴンの俺は、爪の攻撃をしっかりと食らってしまう。
それでも俺は爪で切られているのに、痛みがほとんどない。
(爪の攻撃も、無傷かよ)
腹の毛が切られているだけで、爪の攻撃はダメージになっていない。
単にパラパラと腹を守る毛みたいなのが落ちていくだけだ。
さすがは、怪力と強靭さを兼ね備えたグリゴンだろうか。
だが、その後ろで戦うサラは別だ。
ダッツの一発の拳をまともに受けて、サラは顔を歪めていた。
呼吸を乱して、苦しそうなサラはダッツに追い詰められていた。
サラを失うことは、俺にとって避けたいことだ。彼女は俺の雇い主であり、専門医であり、仲間だ。
(とりあえず、こいつを倒してサラを助けにいかないとな)
頭の中に、さっきと同じく四つのコマンドが現れた。
(《たたく》《ねむる》《みをまもる》《ずつき》か)
まあ既に頭で、《たたく》というコマンドを決めていた。
それと同時に、俺の右腕がゆっくりと上がっていく。
上がる右腕を見ていた俺の目の前にいる狼男が、突然ジャンプをしてきた。
口を大きく開けて、長くて太い牙が見えた。
そのまま俺の右腕を、強引に噛みついてきたのだった。




