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イセカイGO!  作者: 葉月 優奈
一話:『纒 慎二』とグリゴン
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014

その女の俺に対する反応は、余りにもおかしかった。

最初のラオルや、門番の青年のほうが正しいリアクションだと思ったから。

恐れおののき、恐怖から抗おうとする憎悪、反抗、逃走。


だけど俺の前にいる白いコートの少女に、恐怖のような感情も憎悪のような感情が見えなかった。

背はかなり低くて小さい、見た目だけなら小学生高学年ぐらいの女の子にしか見えない。

子供の好奇心のようなもので、俺に近づいたのだろう。


「あなた、人間でしょ?」

「人間……といっても、信用できないだろうが人間だ。それよりお前は、俺のこの姿が怖くないのか?」

「怖くはありません。やっぱり、あなたは病気なんですね。はい、これ!」

女は白いコートの内ポケットを探って、透明な液体の入った小瓶を俺に差し出してきた。


「これ、なんだよ?」

「『アルノール』という薬です、今のあなたの病の進行を遅らせます」

「俺が病?」

「あなたは、私の言葉が理解できます。

つまりは理性があるということで、人間だと診察しなくてもわかります。

まあ姿は珍しいですが、ステージ3でしょう。あれ?でも全身獣化しているし……どうなんでしょう?」

「ステージ3?」

俺は女の言っている意味が、全くわからなかった。

俺は首をかしげながらも、女が差し出す小瓶を見ていた。


「うん。あなたは、『獣化病(ビーストロール)』という病に冒されているの。

あっ、自己紹介まだだったわね。

私の名前は、『サラ・バリジャット』。一応、旅医者をしているの!」

「旅医者サラ……か?」

サラという女が、俺に対し何やら紋章のようなものを見せていた。

サラの名前が書かれていた紋章、蛇を杖で操る老人の姿が描かれていた。

これは『医師免許』だろうか、俺は書かれている文字よりも白衣の老人で推測できた。


「はい。私の薬を信じて飲んでくれれば、あなたは獣化病から救えます」

「ちょっと待て、その獣化病ってなんだ?」

「人間から獣に変わってしまう、恐ろしい病です。

現在、私との会話の成立していることからステージ3と診断できます」

「そうかい」サラの話を、俺は適当に聞いていた。

俺は正直、彼女の言葉を素直に信用できなかった。


病気というのなら、苦しみがあるはずだ。

だが、この体になった時に病のような苦しみを俺は特別感じなかった。

それでも俺をじっと大きな瞳で見ているサラの姿勢は、紛れもない本物だと俺は思えた。

淀みのない大きな目で、ずっと俺を見ている。心配そうな顔で見ていたのだ。

だから俺は彼女の好意を、おそるおそる薬を受け取った。


「あなたは救われる命です。どうかこの薬を……」

「わかった」そんな時、俺の大きな腹の虫が鳴った。

どうやら俺の体は、空腹になるのが早いようだ。


「もしかして、お腹もすいているんですか」

「ああ、何も食べていないからな」

そう言いながら、腹の虫を黙らせるように透明な薬(アルノール)を飲んだ。

なんだこれは、すごく苦いんだけど。苦い顔が、自然と出てしまう。


「に、にがっ!」

「ここの泉の水が、飲めますから」サラがそういい、泉の前にかがみ込んだ。

両手で救って、彼女自ら水を飲んでみせた。


「ああ、そうか」

大きな両手で、大量の水をすくって飲む。

なんだ、この水は。すごく美味しいし、まるで体力が回復するようだ。


「この薬を飲めば、俺の病は治るのか?」

獣化病(ビーストロール)です。診察しなくても、ステージ3だと思います」

「なんだそれは?なんとかロールのステージ3というのは、どんなものなのだ?」

不思議そうな顔で俺が聞くと、今度はサラのお腹があまり可愛くない音で鳴っていた。

顔を赤くしたサラは、俺に対して苦笑いをしていた。


「はい、あ……ごめんなさい」

「お前も、メシがまだなのか」

「はい、ご飯もまだのようですし、これ……」

サラのコートの内側、白いワンピースを着ていた。

コートの裏で腰にポシェットがついていて、中から缶詰を取り出していた。


「この中には、パンが入っています」ラベルを見ると、確かにパンの絵が描かれていた。

「いいのか?」

「はい、まだたくさんありますし」

「ありがてぇ、助かった……」

人の優しさに感動したのか何度も頭を下げて、缶詰の中身のパンで空腹を満たす。

数秒で硬いパンが消えたのは、この体の所以か。

俺の巨体の空腹は、あまり満たされない。サラも同じように缶詰のパンを食べていた。


「いえ……それよりあなたは旅の人ですか?」

「旅?ああ、俺はどこに行けばいいか、ヒントもアテもなくて……困っているんだ」

「そうですね、その体ですと……何かと大変ですものね」

「そうだな」ここに来るまでに、変なトラブルにも巻き込まれた。

痛みとかはないが、問答無用に敵対的行動をされるのはいい気はしない。


「もしよろしければ、私と一緒に旅してくれませんか?」

サラが俺の大きな右手を握って、かわいく笑顔を見せていた。


「俺と?」大柄の俺は、左手の太い親指で自分を指さした。

「はい、この森は思ったよりも危険ですから」

「ボディガードか?なるほど、俺はこのパンで釣られたのか」

「お願いします、私の旅に付き合ってくれませんか?」

「いや、その話だけどな」

うまい話だ、確かに彼女についていけば食うのに困らないかもしれない。

彼女は俺に対して、警戒心もほとんど無いようだ。


「ちゃんと、あなたにも報酬は出しますよ。

それに……あなたも病にかかっています。

私としては、あなたを患者ということで治療をしなければいいけませんから」

サラはにこやかに、俺に提案してきた。

俺は数秒考えたが、迷いはなかった。


「いいだろう。じゃあ俺は、患者とボディガードってことで」

俺は表情をあまり変えずに、頷いていた。

それを見て、サラは笑顔を見せていた。


「ありがとうございます、患者さん!それより、あなたの名前をお願いします」

「俺は『(マトイ) 慎二』だ」

「マトイ?マトイさんですか、変わった名前ですね」

サラは俺の名前を聞いて、不思議そうに俺の顔を覗いていた――



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