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イセカイGO!  作者: 葉月 優奈
一話:『纒 慎二』とグリゴン
12/639

012

俺が次に目を覚ましたとき、周りには火がついた燭台がいくつも見えた。

薄暗い部屋らしき場所に、その明かりが目に入ってきた。

だが、俺の腹のあたりに何やら人がいた。


「なんだ?」俺は体を起こす。

やっぱり体は、茶色の毛をまとったグリゴンのままだ。

相変わらずの大きな体で、重い上体を持ち上げた。


「誰だ?」俺は、首だけをなんとか向けた。

俺の腹の辺りには、一人の男。西洋風の鎧を着て、手には剣を向けていた。

鎧の男は俺の腹に、その刃をしっかりと向けていた。


「お、起きましたよ!化け物が」

「何をやっている、お前は?」俺は周囲を見回す。

周りには俺の両手を抑えるように、鎧を着た二人の男が立っていた。


「この化け物が!」

「しばらく眠っていてもらおう」

腕の近くにいた男が、すかさず俺の丸い手に向けて鉄の大きなハンマーを振り下ろした。

そのハンマーが俺の手に命中した。したのだが、痛みが全くない。


「むうっ、実験は」

「邪魔だ」俺は両手を上に振り上げたとき、ハンマーが持ち上がっていく。

どうやら本物のグリゴンで、怪力なのは本当らしい。


力で押されたハンマーを弾き、俺の両腕そばにいた男は後ろにのけぞった。

重そうな鉄のハンマーを、はじかれて二人の男はバランスを崩してその場に座り込んでしまう。

表情があまり変わらない俺は、細い目のまま腹のそばにいる鎧の男を見ていた。


「やはり化け物か、これでも喰らえっ!」

「まあ、待ちたまえ」血気盛んな剣を持った兵士が、後ろの声で反応して動きを止めた。

両手で剣を握ったままの兵士は、ゆっくりと剣を下ろした。

俺も後ろから聞こえてきた男を、細い目で見ていた。


奥には真っ黒なローブを着た、胡散臭そうな男だ。

白い肌の顔しか見えないが、年齢的には中年の男といったところだろうか。

剣を持った男を制して、ゆっくりと黒ローブの男が俺に近づいてきた。


「我が名は魔術師ラオル、『獣の子』たるお前に審判を下そう」

「なんだ、その『獣の子』ってのは?」

「呪われし大地の呪いを、獣の子が生き残るためには、未知なる化学変化を……求める」

「何言っているんだ、お前は?」

この顔は、怒りを表現するのが難しい。

それでも細い目を少しだけつり上がらせて、ラオルという男をじっと見ていた。


「『獣の子』、お主のすべてが欲しい」

「そうか、俺を殺す気らしいな」

体を起こした俺は、立ち上がっていた。

先ほどの草原と違って重いこの体をスムーズに動かすが、立ち上がった時に天井に頭を強く打った。

どうやらこの部屋は、かなり天井が低いようだ。だけど、あまり痛みがない。


「な、な、立ち上がると申すのか?獣の子よ!」

「獣の子じゃねえ、俺は『纒 慎二』だ」

「マトインジ……獣の子、やはり獣の子じゃ。獣の子の体を分解しなければ、ならぬ、ならぬぞ!」

叫んだラオルという男は、その後おかしな言葉をブツブツと呟いていた。

そんな俺の足元が、青白く光っているのが見えた。


「ま、魔法陣か?」円形の不思議な文字が、書かれた青く光る魔法陣だ。

どんな魔法陣かわからないが、ラオルという男は魔法らしきものを詠唱しているのだろうか。

ラオルの前には剣を持った男が、鉄の鎧を着て守るように身構えた。


(魔法のある世界なのか。いずれにせよ俺には友好的ではなさそうだ。

さて……俺はどうするか?)

敵と判断できる行動を見て、俺の頭の中に四つの単語が浮かび上がった。


(《たたく》《ねむる》《みをまもる》《ずつき》、このコマンドって……グリゴンの行動アクションだ)

ノケモンコレクションで、グリゴンが使う行動アクションと同じだと直ぐにわかった。


目の前では、魔法陣の前で魔法を詠唱し続ける魔術師ラオル。

ハンマーを持った二人の男は、怯えているのか腰が引けていた。

対して、剣を持つ男はじっと俺の様子を伺っていた。

さっきの俺の馬鹿力を見て、慎重になっているようだ。


(この状況なら、一つしかないだろ)

俺はひとつのコマンドを選択した。

《たたく》という選択をした瞬間、俺の体が鎧の男に向かって勝手に歩き出した。

「や、やめろ!化け物……」

明らかに腰が引けていた鎧の男は、俺が向かってくるのを見るや直ぐに横に飛んだ。

自分よりもずっと大きい体が迫ってくれば、それは恐怖でしかない。

男が逃げて、すぐ目の前に黒いローブの魔術師ラオルが立っていた。

魔法を詠唱して、彼の前には黒い何かが浮かび上がってくる。

だが俺は無言で大きな右手を振り上げて、ラオルに振り下ろした。


「獣たる……その子を……グヘッ!」

俺の……いやグリゴンの、大きな右手で思い切り叩いた。

黒い服のラオルを、軽々と吹き飛ばした。

岩の壁にラオルの体は、打ちつけられて岩の壁に(もた)れかかるように倒れていた。


「ラ、ラオル様っ!」

次の瞬間、ぐったり倒れたラオルに俺の突進を交わした兵士が声を上げた。

彼の声は、悲鳴と恐怖が入り混じった声だ。

俺の一撃を見て、へたりこんだハンマーの男たちは腰を抜かして逃走しようと後ろに下がる。

足をバタつかせて、恐怖で顔を凍りつかせて逃げ出そうとしていた。


「やりすぎたか?」頭をかいて、俺は逃げる二人の男をじっと見ていた。

その一方で、剣を持っていた鎧の男はラオルに近づいていた。


「ラオル様っ、しっかりしてください!」男の問いかけに、返事がない。

「なあ、そこのあんた」

「お前は出て行け、この化け物っ!」鎧の男は、強がりのような声で俺を睨んでいた。

やはり、まともな話はできそうもない。

それに、彼らは最初から俺を殺そうとしていた。

だとすれば、俺は次のセリフを口にするしかなかった。


「俺はここを出ていきたいのだが、どうすればいい?」

と、恐怖におののく鎧の男に言葉を投げかけるしかできなかった。



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