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サラは内科も、外科もできる万能医師である。
病気の治療もできれば、骨折も治せてしまう。
ファンタジーのこの世界では、医者に求められるものが多いのかもしれない。
そもそも魔法もある世界で、医者がどういう価値を持っているかわからない。
分からないが、行く先行く先でやはりサラは重宝されて丁寧にもてなされていた。
ともかくサラは今も、手術をしているようだ。
一人ひとりを相手にしながら医者の仕事を、確実にこなしていた。
俺は廊下で怪しそうなやつをじっと観察していた。リュックサックを背負いながら。
「あなたはずっと立っていて、飽きないですか?」話していたのはソーリック。
「俺は、サラのボディガードだしな」
「そうですか、ご苦労様です」
「何もなければ、俺に話しかけるな」
「やはり、君の力はかなり魅力的だ」
ソーリックは、俺の前を阻むように立っていた。
俺は首を横に振って、廊下に並ぶ兵士に目を光らせた。虎男の求愛活動だろうか。
「相変わらず口説くの下手だな、女とかいないだろう」
「自分は既婚者だ」
「そうかよ」虎男はそう言いながら、勝ち誇った咆哮をしてみせた。
挑発か、そう思いながらそれでも相手にはしない。
「君も、獣化して弱者だろう。周りに認められず、苦労しただろう」
「そうかもしれないな」
現実の俺は、ひきこもりだ。あながち間違いではない。
「だとしたら君は、弱者の気持ちが分かるのではないか?」
「獣化した人間が、女を襲っている姿を見て……か?」
「言葉には気をつけて欲しい」
ソーリックの顔が険しくなった。
「君はここにいる、ここが貴族どもに襲撃されれば戦わないといけない。
だとしたら、自分たちとともに戦うのが筋というものではないか?」
「ソーリック様」そんな俺を勧誘中のソーリックに、兵士が近づいてきた。
「どうした?」
「作戦会議の時間が、迫っております」
「わかった」そう言いながら、ソーリックは兵士について行こうとした。
だが、俺の方に振り返っていた。
「そうそう、何か怪しいものを見かけたら声をかけてくれたまえ」
「怪しいもの?」俺はそれを少しだけ心に留めていた。
(鬱陶しい奴が、これでいなくなった)ソーリックの姿が、兵士とともに廊下の奥に消えていく。
俺はそう言いながら、再び見張りを続けるのだった。
そこに、さらに俺の前に新たな珍客が来ていた。




