001
森の中で、俺は走っていた。
雨がパラパラと降りしきって、雨を嫌うようにひたすらに走っていた。
フードをかぶり、全身をマントで覆って走っていた。
走るといっても、歩く速度とあまり変わらない。なにせこの俺は、短足だからな。
俺の体は単純に大きい。
二メートルを優に超える大男で、しかも横にもかなり太い。
全身を長い布で覆い、大きく丸い足で俺は大きな音を立てて走っていた。
そしてそのフードから、俺は茶色の毛で覆われた顔を少しだけ見せていた。
だけどすぐにフードを深めに被って、必死に隠していた。
その俺は、もう一人と一緒に併走していた人間がいた。
やはり、同じようにフードをかぶっていた。
「雨が降ってきましたからね」
「これぐらいの雨なら、俺は平気だけどな」
大きなリュックサックを背負っていたが、わざと俺の歩幅に合わせるように走っていた。
それでも鈍足な俺は、重そうな体を運んでいた。
本当の俺は、こんなに遅くないのに。
「お前だけなら、もっと早く走れるのだろ?」
「いえ、マトイさんを置いて先にはいけませんよ」
「そこまで、俺に気を遣わなくても……」
「それはありえません!」
隣の人間は、俺よりずっと小さい。
身長は、俺の体の半分弱といったところだろうか。
同じく雨よけのフードというか、白いコートを着ていた。フードの中から見せる顔は、女だ。
目はたれていて、小さな鼻、子供っぽい顔で幼さが所々に垣間見えた。
「にしても、木の下で雨をやり過ごせば……」
「いえ、もうすぐ村もあるみたいですから。それに雨に濡れたら、風邪をひいちゃいますよ」
女はフードの中から、明るい声で俺の方を見ていた。
だけど俺は、フードを深くかぶったまま目だけは前を向けていた。
「俺は普通ではないし、風邪もひかないだろう」
「そんなことありませんよ。会話もできますし、二足歩行ですし、おかしいところは何もないですよ」
「お前がそうでなくても、これはおかしいだろう」
「おかしいと思っていると本当におかしくなりますよ。病は気からです!
それに、もう少しで小屋が見えるはず……あった!」
俺たちが走り抜けた森の中から、突如丸太小屋が見えた。
その丸太小屋は、平屋で小さかった。
「小屋があるな、あれのことか?」
「そうですね、小さいですね。でも雨宿りとしては十分ですね」
「こんな俺だから、まともな話はできないだろう。サラ、先に交渉を頼めるか?」
「はい、任せてください!」
俺の言葉に反応したサラが、フードの中から笑顔を見せた。
大きな目で、子供のように笑うサラは、俺に頷いて小走りに走っていく。
駆け足のサラは、山小屋の方に近づいていった。
サラを見送りながら、俺は走るのをやめてゆっくりと歩き出す。
俺の体は走ろうが歩こうが、疲れはほとんど変わらない。
それだけ、俺のこの巨体が走ることに向いていないのだ。
やがて俺もサラから遅れること二分ほど経って、丸太小屋にたどり着く。
丸太小屋の玄関で、サラはドアを開けて何かと話をしていた。
俺が近づくとフードを外して長い髪をなびかせたサラが、大きく手を振って合図した。
「サラ、話はつけたのか?」
「ええ、大丈夫です」
大声で返事を返すサラ。俺がゆっくり歩く中、小さな体を目一杯使った頭上に丸を作っていた。
フードを外した長い髪のサラに近づくと、ドアの裏で人が隠れるように立っていたのが見えた。
だが、それは人あって人ではない。
「中に入れ」
ドアの中で姿を見せたのは、白い毛の狼の頭をした人間だった。