【知りたい気持ち】
あれから2日経ち、今日も学校終わりにバイトをこなしていた。
あれからというもの会話はなく、普段と同じように原さんや鶴屋さんと話していた。
本上さんといえば、いつも通り本を読んでいる。
「そういえばこのまえ優之介くん夢子ちゃんと会話してたよね!」
ここにきて避けていた話題が振られてきた。
「い、いやあれは挨拶が返ってこなかったからであって...」
「話したくはないと?」
「そうじゃないです!」
あ、つい反論してしまった。
それを聞いた鶴屋さんはニヤッと笑い、 顔に熱を感じる僕の方をずっと見つめていた。
「うちも本上さんと話したいな~でもなんか話しかけづらいんだよね..」
いつもキャピキャピしている原さんと対照的だからなのでは。
普段と変わらない音量で会話しているのに、本に夢中なのか本上さんはずっと本を読んでいた。
「そうだ!鶴屋ちゃん!優之介の歓迎会してないじゃん!」
何かの伝統行事なのかな?
「確かに!最近忙しくて優之介くんのはやってなかったね!」
皆やったと言うことは本上さんもやったんだ。
本上さんは昔から居るらしいし、原さんは本上さん歓迎会には居なかったのか。
「僕はやらなくても良いですよ!」
「えぇ!やろうよ!ね?」
「そうだよ!やろ?うちも行くし!それに本上さんも来るだろうから、話す機会もあるよ!」
それは原さんがただ単に話したいだけですよね。
それに確かここって全員合わせて6人だったような。
お店が成り立つほどには稼いでいるのに少ない気がする。
「うーん..やるとすればどこでやるんですか?」
ここでやるには少々狭いしな。
「うちの時は鶴屋ちゃんの家でやったよ!」
「えっへん!私の家は結構でかいんだよ?」
「6人入っても大丈夫なんですか?」
そう聞くと「余裕」となぜか原さんが答えてくれた。
鶴屋さんの家か、想像がつかない。一軒家なのは間違いなさそうだ。
「お願い!楽しいからやろ?」
「日時はそっちで決めてくださいね?僕は一日くらい空けられるので」
「やった!任しといて!」
鶴屋さんの家も気になるしついに折れてしまった。
鶴屋さんと原さんは早速プランでも立てるのか従業員室へと行ってしまった。
あの二人は似てる気がする。
そうして僕は一人だけレジに取り残され、数時間お客さんの対応をしていた。
決して忙しかった訳でもないバイトを終えた。
「優之介くんごめん!鍵閉めお願いしても良いかな?」
帰ろうと従業員室に向かう際に鶴屋さんにそう言われてしまった。
「用事も無いですし良いですよ!」
そう言うと鍵を渡され、鶴屋さんは帰っていった。
あの、僕は閉店後の仕事とかやったこと無いのですが。
「まずは店内に流れている音楽を消して外の電気を消す。そのあとは補充とか精算」
いきなり後ろから声をかけられ驚く僕だったが、さらに驚いたのが声の主が本上さんだったことだ。
「あ、精算らしきことは鶴屋さんがやってたような」
田舎に居たときにもバイトはしていて、その時に店長さんが「精算めんどくさいな」と言いながら精算をしていたので、精算が何かは解っていた。
「そう」
これも立派な会話なんだけど、なんか..会話が弾まない。
何を話したら良いのかと考えつつも知っている補充の仕事をしていた。
「終わったよ」
と仕事中なんの会話もなく終わってしまった。
「着替える」
そう言い本上さんは更衣室に入っていった。
僕も着替えるとするか。
もちろん男女の更衣室は別れており、僕も更衣室の中で着替えを済ました。
従業員室に戻ると着替え終わって私服姿の本上さんと目があってしまった。
まだ少し寒いだけに、暖かそうな服装をしている。
つい僕は目を反らしてしまった。
「更衣室の窓閉めた?」
「あ!」
言われて気づいた僕は更衣室の窓の鍵を閉めた。
また従業員室に戻ると本上さんがこっちを見て目を反らそうとしない。
これは、どういった状況なのでしょうか。
「あっ、あの..女子の方の窓も..閉めて..くれない?」
「え?」
若干声が裏返りつつも返事をすると、僕はようやく状況を理解した。
僕は女子更衣室に入ると、高い位置にある窓を閉めた。
「更衣室の窓って高いよね」
僕が笑いながらそう言うと、本上さんは顔を赤くしつつも首を小さく縦に振った。
多分いつも原さんが開けて、閉め忘れてるんだなと自分の中で理解する。
「ま、まずは従業員室の鍵を閉めて」
そのあとも本上さんの指示に従って鍵閉めをした。
本上さんは基本閉店まで居るし、閉店後の仕事も詳しいんだなと感心した。
シャッターを閉めると本上さんが手を差し出してくる。
「鍵、明日私が朝返しとくから」
「そういうことね..はい!」
何かの期待を壊され、つい声に出してしまったが聞こえていなかったらしい。
帰ろうと、街灯やらお店の電気とかで明るい帰り道を歩こうとしたが、
「本上さんって歩きなの?」
別れの挨拶をするつもりだったが、先に質問をした。
「うん..近いし」
「明るいけど危ないし送ってくよ」
話すようになって一週間も経ってないのに、送ってくとかおかしいかな。
自然と口にしてしまった言葉に不安を持ちつつも本上さんの目を見ると、
「あ、うん..ありがとう」
どうやら嫌でもないらしい。
こうして一緒に帰ることになったのだが、会話がない。
本上さんは本が好きで、僕も本が好き。でも読んでる本のジャンルが違ってしまえば会話はすぐに終わる。
「本上さんって普段どんな本を読むの?」
悩んだ末、普段読む本のジャンルを聞くことにした。
「前まではサスペンスとかバトルものだったけど、最近は恋愛の本かな..」
本上さんが恋愛小説を読むとは思えなくて、ちょっとだけ驚いた。
「私が恋愛小説読むのって変?」
「変じゃないよ!」
僕が驚いた顔をしてしまったから気を使わせてしまった。
「僕も恋愛小説読むし!意外でしょ?」
本上さんは僕の顔を見ると少しだけ笑顔を見せてくれた。
「ううん..意外じゃない」
笑ってから言われてもね。
「この前なんて恋愛小説ランキングで1位だった本が気になって、買って読んだよ」
恋愛小説を男が読むのは普通ですよね?
書店で働いてるため、本の買い物は困らないし、ついつい柄でもない恋愛小説を読んでたりする。
時々別の本屋に行った時、少女漫画を買うためレジに持っていくと「え..?この人少女漫画買ってるよ..」みたいな目をされる。
僕だけじゃないはずだ。
「その小説は面白かった?」
「うん!ちょっと複雑な展開だったけど最後はスッキリした終わりになってた!」
「鶴屋書店で本のランキング..つけてるの..私なの、良かった喜んでもらえて」
その笑顔は反則なのでは。
「ほ、本当に!?もし良かったらオススメの恋愛小説を教えてよ!」
笑顔もそうだが、ランキングを本上さんがつけていることもビックリだった。
「い、いいよ..またバイトで会うときに貸してあげるね」
こうして約束をしたところで、家の前に着いたらしく足が止まった。
「ここ?」
「そうだよ」
そこはボロいとまでは、いかないほどの2階建てのアパートだった。
「本上さんは独り暮らし?」
「うん」
まぁ独り暮らしなら充分な大きさだろう。
「じゃあ..またね」
体をこちらに向けて手を振ってそう言った。
「うん!またね!」
僕が笑顔でそう言うと本上さんは2階へと上がり、自分の家のドアを開け中へと入っていった。
「あっ、」
ドアが閉まったとき僕は、ドアのポストにはみ出している封筒やら手紙やらを見てしまった。
だけど、今度それを聞くかと言われれば聞く勇気は今はなかった。
家に帰ってきてポストからはみ出していた物について考えてしまったが、僕は本上さんと仲良くなれたことが今日一番嬉しかった。
僕も隠したいことがあるし、あのポストの物について聞くのはよそう。
そう自分に言い聞かせたが、どこかで本上さんのことをもっと知りたいと思うところもあった。