自殺撲滅委員会
「大丈夫ですよ」
マリア・ベラーミと名乗った女性は、銃口を口に含み
引き金を引こうとしていた私にそういい、抱きしめてくれた。
「死んだらダメですよ。ご家族はどうするんですか?
保険金を当てにしてはいけませんよ。自殺だと、あなたの
保険金契約だと支払いはないですから」
「!?」
淡い栗色の髪をカールにし、めがねの奥では、黒い瞳が
キラキラと、狼狽し疲れ果てている男の目を覗いていた。
「私は、マリア・ベラーミといいます。自殺撲滅委員会のメンバーです」
「自殺撲滅委員会?」
よだれに濡れた銃口を口から引き抜き、力の抜けた人形のように
その場に崩れ落ちた男の名はボット・J・マルク
白髪の生え始めた顔を見ても、よもや、30後半だとは
とても思えないほどに、ボットは疲れ憔悴していた。
「はい、アメリカン政府のお墨付きをもらっている極秘機関です。」
「極秘機関?」
どこにでもいるような学生風の服装をした20代?の女性というよりは
大人ではない女性だろうか、ボットは馬鹿にしているのかと怒鳴ろうとしたが
そんな力もなくただ、クスクスと小さく鼻で笑うと、完全におろし
両手の中で横たわる銃をうつろな目で見つめた。
「マルクさんは、ブラック・Bから会社の運営資金として
100万ドルを借り受けていますね。」
「!?」
「破産手続きはさせてもらえなかったでしょう?家族を殺すと
言われましたか?だから、自殺して保険金でと、、保険金の
種類も判断できないBもあなたも愚かですね。脳みそが
先に破産しているかもしれませんよ」
「なっ!?」
驚き顔を上げたボットの首を右手でつかみ上げると、子供でも持ち上げるように
そのまま彼を持ち上げ、苦しみもがくボットに
「自殺なんでバカのすることです。私のいうとおりにしていただければ
借金も家族も、会社も、すべてお返しします。」
「がはっ!?がっ!?」
お尻から落下したボットは首をさすりながらヒューヒューと息を吸い
恐れとそして、微かにすがるような目で彼女を見上げた。
「た、助けてくれるのか?」
「助ける?もちろんです!!あなたが私の言うとおりにしてくだされば
すべて解決です。この、自殺撲滅委員会のマリア・ベラーミにお任せを!」
ーーーーーー
目隠しを取られると、そこには、一面真っ白い部屋に
テレビ、小説、マンガ、ゲーム、一人用ソファー、ベットが
備え付けられていたが、窓はなく、換気の為のダクトが
2箇所備え付けられていた。
「トイレとバスタブは奥の部屋です。日用品は使い捨てのを
毎日支給するので、服ですが、こちらを」
彼女の手に持った、上下真っ白なジャージをボットに差し出した。
彼はそれを受け取りながら、もう一度部屋を見渡し
「ここは?」
「あなたが1ヶ月の間生活する部屋です。この部屋から出る事は
できないのであしからず。」
「なっ!?そんなふざけたこと」
「ふざけた?あなたは同意したでしょ??ですから、借金の返済は
既に済ませていますし、元々、立ち直る力のあるあなたの会社でしたから
マーケティング的にももう、運営危機に陥る事はないかと思います」
「借金を返してくれたのか??」
「もちろんです。あなたにはその価値があると判断したので、、Rh null
とても希少な血液です。それに、、一度も大きな病気には
かかっていない、酒タバコもしていない。」
ボットは淡々とじゃベるこの幼さの残る女性が怖くなってきたが、彼女が
取り出した一枚の写真をみて、それに目を奪われた。
「ミッシェル、、リサ、、」
「ご家族には、既に新しい住居と奥様は元々、あなたの会社で
副社長をしていて運営能力があるので、仮の社長となって
いただきました。こちらが、すべての書類です」
写真を大事にポケットにしまい、手渡された書類に目を通す、、
そこにあるのは、まがい物ではなく、完璧に合法なパーフェクトな
書類だった。本当に、借金は返済されており、妻のミッシェルが
社長に就任している、、それに
「50万ドル、、、これは?」
「私からのプレゼントです。さらに、あなたが1ヶ月きっちり協力
してくださった後には、さらに50万ドル融資させていただきます。」
「そ、そんなことま」
ボットの言葉を制止するように彼女は不意に、微塵の無駄な動きもなく
彼の細い首に銀色の2センチほどのりんぐを巻きつけ、カチリと施錠された
音がした。
「それはケロン社が新開発した軍事用の特殊なリングです。
この部屋にあるミクロほどの大きさのセンサーとリンクしています。
廊下にでて、、そう、、10秒以内に部屋に戻らなければ
首からレーザーが照射されて、あなたの首を切れに切断するので
あしからず、しかし、すごいのは、断面を切ると同時に焼くので
血が噴出さないようになっていることですフフ」
「ふ、ふざけるなぁ!!これは犯罪じゃないかぁ!!」
「犯罪??いいえ、自殺しようとしたバカを助けて有効利用
しようとするための保険です。それとも、、元に戻しますか?
100万ドルの負債をすべて、、、奥様とお嬢様はとても
喜んでいました。ただし、あなたに会えるのは、1ヵ月後だと
うその理由を信じているので安心ですよ。ねぇ?やめるんですか?
自殺しかできない無能を助けてあげたんですよ。まぁ、それが
自殺撲滅委員会の仕事なんですけど、、今なら、いいですよ。
全部元に戻してあげます。保険は自分で自殺でもはいるやつに
変更してくださいね。」
「、、1ヶ月だな、、それでいいのか」
ベラーミはアハッと子供の様に笑うと、ボットの両手をとり
優しく撫でながら、
「もちろん、今日から1ヶ月です。終わればお帰りください。
50万ドルを持って、キャッシュでも小切手でもお好きに、、ただし、
1ヶ月間の食べ物はこちらが用意したものを食べていただきます。
あと、薬も一日3種類ほど、それと、400mLの献血を1日1回食事前に
行うので、、、頑張ってくださいねマルクさん。ご家族のためにも、、」
「、、あぁ、、」
「素直な人って素敵です。いいですかぁ~自殺なんて馬鹿な事は
しないでくださいね。それと、監視してるので、1回でも
こちらの要求と違う事をしたら、、、フフ、、冗談です。
でも、やめてくださいね。私、怒るのは苦手なんですから、」
嘘だろう、彼女の目は脅しの言葉を言うたびにランランに輝き、
新しいおもちゃを見るような目で、服と書類を持ち、背を向け
ベットの方向に歩き出した男をジッとながめ、楽しそうに
笑うと、ドアを閉めた。聞いた事もないような鍵のかかる音が
3度もし、そして、軽い足音が遠ざかっていく中、ベットに
横たわったボットは、天井を見つめ、そして、手に持った
家族の写真眺めた、、ジッと、、
「待っててくれ、、」
ーーーーーー
次の朝目を覚まし、夢ではなかったと白い部屋に目を向けると、
見たことも無い薬とボトルに入った水が、ベットの横のテーブルの上に
置いてあった。カプセルが2つに錠剤が一つ、薬に刻印はなかった。
「飲めってコトか、、」
首にはめられた金属に指を滑らせると、ボットはもう一度部屋を見渡し、
躊躇しながらも新品のペットボトルに入った水のふたをあけて
薬を口に放り込むと一気に飲み込み、水で流し込んだ。
「なんだ、、この水、、」
口の中に広がる異様な味に驚きながら、ボットは手に持った
水のボトルを見てみたが、これも薬と同じくどこの何の水なのかも
記されておらず、ボットはテーブルに水を置くと深くため息をつき
目を閉じた。
「簡単だったでしょ?」
「!?」
驚いてベットから飛び起き、ドアのほうを見ると、
いつの間にか、ベラーミが楽しそうにボットを眺め立っていた。
今日の服装は、黒いリボンの靴に、黒いタイツフリフリのスカート、
上は、同じように肩にフリフリが付いている黒と白の服だ。胸元の
赤いリボンがひときわ大きく目立っていた。
「献血するから、そこの壁にたってくださいな。」
言われるまま指定された壁に行くと、どこからか聞こえる機械音と共に
壁から椅子がせり出し、それには、野球ボールぐらいのリングが
右の肘掛に取り付けられていた。
「座って、リングにひじの下まで腕を入れてください。自働で
献血が開始されるんだってさ。凄い機械でしょ?一家に一台
普及したらいいと思わない??」
ボットは彼女の言葉を無視して、椅子に座るとリングに右腕をいれた。
リングの先端には、2本のチューブが取り付けられており、それは
壁の中へとつながっていた。
「えっと、、あれ???始まらない??なんで???}
「これはいったいどういう、、つっつつ!!!」
突き刺すような痛みが右腕に走りみてみると、普通の針の
2倍はある太さの針が、リングから腕に突き刺さり、凄い勢いで
血を吸い取り始めていた。
「アハッ、5分で400取れるんだって、消毒もしてくれるから
安心してね。バンソーコーはいらないんだって、その針は
大きいけど特殊な構造でね、抜いても血が出ないんだって、
消毒は抜くときに行われるから、針が抜き終わったら
昼の食事まで好きにしていいですよ~」
体中の血が勢いよく抜けていくのを感じ、頭がフワフワと
闇を漂っている感覚がボットを襲っていた。
「そうだ、新発売の総合栄養ドリンク置いときますね。これも、
きっちり飲んでくださいね、、、そうだ、」
視界がボヤケ、部屋がグニャグニャと揺れる中、縦や横に
ゴムの様に伸びた彼女が近づいてくる。声は、壊れたスピーカーの
様に響いていたが、何を言っているかは理解できた。
「部屋の鍵は開けときますね。私、あなたを信じてますからフフ」
一瞬、暖かい何かが左耳を舐め、クスクスと笑いながら
彼女が立ち去ってった。
部屋は開けられたまま、部屋と同じ白い廊下が見えた。
景色は歪み、採血が終了して椅子が自動的に壁に吸い込まれ
男はそのまま床に崩れ落ちたが、意識はなく、止まるといっていた
血も流れ続け、白い、新品のジャージの裾を赤く染め始めていた。
ーーーーーー
「どうです美味しいですか??」
「うん、、まぁ、、これは何の肉だい?」
テーブルの上には、こんがりと焼かれた食パン2枚、レタスの上に
にんじん、たまねぎをスライスしたシンプルなサラダ、湯気の立っている
コーンスープ、そして、丸皿には、脂身の見事な、、そう、一度だけ
日本に旅行したときに食べたマツザカ?だったかの肉に似ていた。
添え物に、茹でたグリーンビーンズ、小ぶりのジャガイモが肉の
隣にチョコンと鎮座している。
「大手の食品メーカーが開発した新商品ですよ。
目の前のすべての食べ物がそう、、美味しいですか?」
答えは、イエスだった。しかし、私を見る彼女の目が気に入らなかった。
あれは観察する目だ。檻の中のどうぶつを観察する人間の目、、それに、
数週間が過ぎてわかったが、私に与えられるモノすべてが
聞いた事のある大企業の新商品だった、、たぶん
「これは、、認可されてる食べ物なのか?」
「フフ、、なんでそんなつまらない事をきくんですかぁ??
残り、2週間で自由になれるのに、、それに、私に
きかなくてもわかってるんだもん。」
「私は、実験動物ということか、、!?」
とっ、突然首の後ろをものすごい力で締め付けられ、手に持った
フォークは、手から落下し皿の上に壮大な音を立てて不時着した。
「自殺するようなゴミクズは実験動物以下ですよぉぉぉ
だって、彼らは生きたいって思ってるんだもん、、最初はね。」
力はドンドン強くなり、彼女の指は首にめり込み、座っている
椅子から、身長185、体重90のボットの体は離れ
「このまま死ぬ??木の枝みたいに折ってあげようか??
でっ、家族に首を180度回転させた状態で送ってあげる。
お見舞金として、、ん~10万ドルぐらいかな」
温かい何かが股から流れ始めたのを感じたとき、首を締め付ける
力はなくなり、ボットは綺麗にいすに収まった。
滑らかで、綺麗な両手が彼の頬を優しく掴み、可愛らしいニコニコした
目でマリアは完全に怯えた大人の目を覗き込んだ。
「そう、そういう目は実験動物も一緒、、家族に会いたいでしょ???
だったら、ちゃんと食べて、言われたことをしてくださいね。」
不意にやわらかい唇がボットの唇を包み込み、スッと離れていった。
ーーーーーーー
朝起きると採決が始まり、終わると、朝食と薬(健康サプリだといわれた)
それが終わると、昼まで自由に過ごし、テレビも見ることができたし、
読書も出来た。注文すればほとんどのものも用意された。
そして、12時キッカリに昼ごはんが運ばれ(朝も昼も晩もメニューはすべて
違っていた)彼女が私を観察しながらきくのだ
「美味しいか、、、クク、、」
目の前の七面鳥のローストをナイフで切り、フォークへ口へと
運びながらボットはそうつぶやいた。
幸い最近では彼女は食事を運んでくるとどこかへと姿をけした。
1時間、、2時間、、最近では、時間の感覚がわからなくなってきた。
気分がわるいのだ、、変な声もきこえる、、だが、言われた事をしないと
いけない、、家族の為に、、私の為に、、しかし、、気分が悪い、、
もちろん、彼女にもそう訴えたが、知っていたのかあの気持ち悪い笑顔を浮かべ
カラフルな薬を手渡されただけだ、、もちろん、水?で流し込むまで
彼女は私を見つめ続けた。
「あと、、3日、、あと、、少しであえる、、」
「パパ」
「!?」
「パパ、、助けて、、」
「リサ!!リサなのか!!」
「パパ、、助けて、、」
ボットはフォークを床に投げ捨て、声のするほうへと体を動かした。
「リサ!!ど、どうしてお前が!!」
声はドアの向こうから聞こえてくる、これまで見つめるだけだった
白い壁と白い床の向こうから、彼が一歩一歩、小刻みに震える体を
揺らしながら進んでいくと、可愛らしく、どこか怯えているとわかる
声は遠ざかりながらも、しっかりと耳に届く範囲から父に助けを求め続けてきた。
「リサ!!リサ!!」
何の躊躇もなくボットはドアを超え、廊下に目を走らせたが、
丁度、右側の通路を何かが横切っていく影だけが見えた。
「ボット、、助けて、、あなた、、」
右側の置くからきこえたのは、娘ではなく最愛の妻の声だった
「ミッシェル!?」
「助けて、、ボット、、お願い、、動けないの」
はきそうだった、、体中の体液が流れ出し、骨は腐ってボロボロに
崩れ落ち、舌は感覚がなくなり、視界はぼやけ、絶えず右目からは
涙が流れ続けていた。彼は、満身創痍だった。しかし、家族の為に
いき続けた、会うために、、もう一度、、一緒に、、
「ミッシェル、、リサ、、」
娘と、妻の声は交互にきこえ、それに反応するように
彼の首に巻かれたリングがピーピーと音を出し始めたが、
彼の耳には聞こえなかった。いや、既に、耳もきこえなくなり始めていたが
家族の声だけは、自分に助けを求める声だけは頭に鳴り響いていた。
「いまいく、、いくから、、」
視界は歪み、足元はふらつき、今にも汚れ一つない床に
倒れてしまいそうだったが、あの、廊下を曲がって家族を
助けなければいけない、、それだけが、男に意識をもたせ、足を
動かせていた。
「パパ、、、あなた、、こっちだよ。」
「リサ、、ミッシェル!!!」
壁に手をかけ、涙の溢れ出した顔をグッと引き寄せ
覗き込んだ先にいたのは、手に四角いマイクを持って
あの笑顔でこちらをみつめるマリアの姿だった。
「リサ、、ミッシェル、、どこに、、どこに、、」
「あれ、、なんで首が落ちないの??」
「私の家族は、、家族は、、」
そういいながら、倒れこむようにボットはマリアの胸に
体ごと倒れこんだ
「家族ですかぁ、、えっと、、ここにいるよパパ、、あ、な、、たフフフ」
ボット何も理解できないという顔で、楽しそうにマイクを持って
しゃべる少女の顔を見上げ、そして、リングが一瞬振動し、彼の
意識は深い闇の中に落ちていった、、永遠に、、
ーーーーーーー
建物のスピーカーからLittle Green Bagが流れる中、
全身血まみれのマリアは薄い含み笑いを浮かべながら
首のない死体を優しく抱いていた。
「マリア、、どうした?新しいあそびか??」
後ろを振り返ると、アニメTシャツと短パンの若い男が、伸び放題にしている
マリアの同じ栗色の髪を左手でかきむしりながら、彼女に近づいてきた。
「違うよ。このリング欠陥だらけ、、作動する時間も大きくずれてたし、
首を焼いて血が出ない??みて」
おもちゃを放り出すように、ボットの死体を血の海の中に投げ捨て、マリアは
立ち上がると、全身真っ赤に染まった姿をみせびらかすようにクルリとその場で
一回転し、男に抱きついた。
「兄さんは終わったの?」
「あぁ、、お前よりはうまくいった。これ」
男の手には薄い透明なシートが風もないのに揺ら揺らと揺れている
「豚の細胞から作った人工の皮膚、、綺麗だろ」
「他にもあるんでしょ」
「あぁ、、人間のすべてを豚から作って試させてもらったよ」
「どうだった」
血がべっとり付いた妹の髪をなんのためらいもなく撫でながら
2人は歩き出した。
「ママに話すときに教えてやるよ。お前のもきかせてくれ」
「ビリーのバカは??」
「あいつは、まだ遊んでる。動かなくなってもあいつにとっちゃ
終わらないんだよ」
「バカみたい、、ビリーってば愛情が欠陥してるんじゃない」
音楽が流れ続ける中、血の中で沈んだ首のない死体を残して
2人は仲良く抱き合いながら、ゆっくりと出口へと歩いていく、
「今日のご飯はママにスパゲッティー作ってってたのむの」
「赤いミートソースの特製スパゲッティーだろ?」
「そう!!、、なんでか食べたくなったの??」
「俺もだよ、、何でだろうな??」
二人が大きなドアから消えた後も音楽は流れ続け、自身の血の中で
横たわる男の赤く染まったズボンのポケットから、
擦り切れた一枚の写真がスッとひとりでに落ち
血の中へと男と一緒に落ちていった、、、。