✝霧の街の殺し屋
穏やかな波面と凪と言っていいほど風が吹かない海上、そして僅か数メートル先すら見ることができない深い霧がかかっている
ここは霧海、深すぎる霧以外は海自体には問題のない安全な海である、しかし霧に紛れて何かが潜んでいて、来る船も行く船も、空を飛ぶ飛行機や魔導士ですらすべて行方不明になる正体不明で不気味な海である、船を消す何かが生き物なのか気候なのかはいまだわかっていない、だが海岸からの釣りくらいはできるので、渡ろうと思わなければこの世界でもかなり安全な海といえるだろう
-濃霧の都市―無来港・霞叢地―
ここはそんな霧海の側にある都市霞叢地、この地は何本もの『木』が集まって形成された大陸の端に位置する都市で、多くの土地とつながっている分それなりに発展しており、高層ビルとまではいかないが鉄筋コンクリートの丈夫な建物がいくつも並ぶ、常に霧がかかっている大都市である
そんなこの街の中心から少し外れた通りにある3階建ての建物の2階、そこの窓はカーテンが閉じられ、深い霧も相まって外から見れば近寄りがたい雰囲気を放っていた
そんな部屋の中、二人の人物は机に座り、黙々と事務作業や副業の造花作りをこなしていた
「先輩、ボクこの仕事についてから事務作業か造花作りしかしてないんですけど」
「仕方ないだろ、依頼が全くないんだから」
先輩と呼ばれた人物-クリストファー・イシドロス-はそういって造花を作り続ける、不器用なのかとても遅い
「ところで給料も全く支払われてないんですけどそこら辺どう思います?」
一方口を動かしつつも器用に造花の山を作り上げていく人物-櫻木 吉野-、口元は笑顔だが目は一切笑っていない
「…社員の鏡だな」
「キレていいですか」
拳を構える櫻木。クリストファー、クリスは殴られないためにはどうしたらいいだろうかと思案する、そして意を決したようにこう言った
「…俺のコンビニ弁当やるよ」
「そんなんいらないんで給料払ってください、というかそんな悲しそうな顔しないでくださいよそんなに好きなんですか鮭おにぎり…大家さんに家賃待ってもらってるんです、造花の収入じゃ生きていけません」
「そんなこと言われてもないものはない」
言外に諦めろと示すクリスだったが櫻木も引き下がらない、仕方ないか、とでもいうように切り札を切った
「先輩、黒色人種ってわけじゃないですよね?」
「ん?普通に両親とも真っ白で俺なんかちっちゃいころ白雪姫ばりの肌だったぞ」
「じゃあ年中霧がかって日が出ることがあまりないこの街でそんな真っ黒な肌を持ってるのは何でですか?」
「いやこれは…」
「日焼けサロンに払う金があるなら従業員に給料を払ってください」
追い詰められたクリスの目は泳いでいる、櫻木からの圧力にしどろもどろになっている彼であったが、ここで彼を助けるかのようにこの部屋の電話が鳴る
「おおっと!依頼の電話だ!」
「先輩?」
以前、電話がかかってきたといって話を切った挙句逃走した前科のあるクリスに、櫻木は変わらず冷たい目で見つめる
「いや待てこれはマジだから…はい、こちらモノクロ殺し屋事務所、…はい…はい…かしこまりました。一週間以内ですね、はい、報酬は…6000万!?よっしゃ!おっと失礼しました、はい、毎度ありがとうございます」
慎重に受話器を置き、クリスはふー、と息を整え、櫻木に満面の笑みを向ける
「喜べ櫻木、成功報酬6000万の大仕事だ」
「成功報酬?前金は?」
「…ゴメン!久々のまともな依頼で話付けるの忘れてた♪」
ゴッ!
クリスは想像以上の威力を持っていた櫻木の拳により、地に臥した。
◇
この街の彼らの事務所よりさらに街の中心から外れた場所、そこには古ぼけた一軒の西洋風の屋敷があった。
二人は隠れるということもせずに建物の門の正面に立っていた
「で、ここがターゲットのいる場所ですか…」
「正確にはターゲットがいた場所だ、でもターゲットの居場所の情報を持ってる奴がいる、お前がいるおかげで躊躇いなく殺れる」
頼りにしてるぞ、とクリスは櫻木の肩をたたくが、やめてください気持ち悪いです、と言われ精神に大きなダメージをくらったクリスはまたも地に臥した。そんなクリスなど気にもせず、櫻木はめんどくさそうな顔をする
「なるほど、アレは正直疲れるんであまり使いたくないんですけど…仕方ないですね、報酬のためです、ボクも全力を尽くします」
「よし!行くぞ!」
「復活早いですね」
「ああ、体質みたいなもんだ」
クリスは門の錠の部分に銃を撃ち、カギを壊して屋敷の中に侵入した
◇
屋敷の中は暗く、通気性も悪いせいかよどんだ空気が漂っていた
「先輩、本当にここにターゲットがいるんですか?人の気配がしないんですけど」
「んー、まあ人じゃねえからな」
「?それはどういう…」
疑問を口にしようとした櫻木にクリスはハンドシグナルで合図する、櫻木への指示は『静かに』と『待機』だ。
櫻木がクリスの経営するこの事務所に就職して一番最初に習ったのがこの仕事の時のハンドシグナルだった、櫻木は正直いらないと思っている
クリスは銃の撃鉄を起こす、静かに銃を両手で握り、ゆっくりと構える、ちょうどその時、彼らの前を黒い影が横切った
「そこだァ!」
ダァン!
クリスの放った銃弾は真っすぐに黒い影に叩き込まれ、影は四散した、辺りには影…ゴ○ブリの死骸が散らばった
「いやバカですか!」
ゴッ!
本日二回目の櫻木の拳がクリスの後頭部を捉える
「なんでG相手に銃撃ってんですか!銃弾だってただじゃないんですよ!ほんとは最初に鍵を撃った時も止めたかったくらいなのに」
「いや、あれが情報を握ってる奴」
キレる櫻木に、クリスは何事もなかったかのようにケロッと立ち上がり、あっさり言い放った
「はい?」
櫻木は正気かコイツなどと考えながら問う、しかし櫻木は嫌な予感を感じていた、給料も払わない、カッコつけたがりでよくふざけるこの上司は仕事に関してはまともなのである
「アレがターゲット」
「はい?」
「アレがターゲットだってば」
「はい?」
現実を受け入れたくないのだろう、櫻木は壊れた機械のようになんどもクリスに問い直す
「櫻木吉野よ、いい加減現実を受け止めるがよい、貴様はGを殺し、Gにアレをするのだ」
「いやぁぁぁああああああああああああ!」
辺りには櫻木の悲鳴がこだまする、もはや自分が殺し屋だという自覚は一切なく、隠密とはかけ離れた行動だった
◇
「うぅ…先輩、ほんとにGなんですか?」
黙々と煙が湧いてくる屋敷の前、二人はそれを眺めつつ、櫻木が必死にクリスを説得しようとしていた
「さっきからそう言ってるじゃん、お前が死体が壊れてたら無理だっていうからバ○サン買ってきたのに」
「いやおかしいですってなんでGが情報持ってるんですか、普通あり得ないでしょう」
至極当然の疑問をぶつけるが、そんなものはどこ吹く風、クリスは明確かつ避けられない理由を話す
「アレはああ見えて使い魔だからな、言い忘れてたけど今回のターゲットは吸血鬼だ」
「はあっ!?なんでG!?普通コウモリとかあるじゃないですか!?」
「吸血鬼って他の生き物に自分の血を入れて使い魔にするからな、この辺りにはコウモリがいなかったんだろう、だからG、両方とも黒いし」
「ええー…、というか吸血鬼の使い魔ならバル○ン程度で殺せるんですか?」
「問題ない、使い魔ってちょっと頭良くなって命令聞くようになるだけだから、時間を稼ごうとしても無駄だぞ」
クリスへの質問で時間を稼ごうとしていた櫻木であったが、無情にもこうしている間に○ルサンの煙はGを屠っていく、櫻木の出番は近い
「嗚呼、なんで…こんな…」
せめてカブトムシとかなら…とぼやくが現実は非情である
「がんばれ6000万に繋がってる」
「うぅ……あっおじいちゃんなんでこんなところに?」
「戻ってこい」
ペシッ
「あう…」
櫻木は思う、社会は厳しい、お金を稼ぐのには苦労すると
◇
正午、霧のせいで見通しは良くないが、この街でもそれなりに明るくはなる、二人は鮭おにぎりとサンドイッチを片手に街の東の方に向かっていた
「先輩、見つけました、あの屋敷の地下ですね」
「OK,じゃあ早速襲撃すっぞ」
クリスは肩を回しストレッチを始め、櫻木はバッグを置き、中身を確認する
「しかし大丈夫ですかね?昼とはいえここは光のささない霧の街、もし逃げられたりしたらゾンビのパンデミックとか…」
櫻木は心配そうにそう言った。対してクリスはのんびりと体を伸ばしながら答える
「だいじょぶだいじょぶ、吸血鬼の眷属化って自分より知能レベルがはるかに劣る奴にしか効かないから。そもそも光が弱点っていうのは迷信なんだけどな、ちょっとは効くけど日焼けくらい」
「どっちみちやばくないですかそれ…」
「いんや問題ない、大半の吸血鬼は迷信を信じ切ってる、それに迷信を信じてるせいで生まれてからほとんど日の下に出たことないから日光過敏症になってるし」
「えぇ…なんか吸血鬼のイメージがどんどん崩れていくんですけど…」
「まあ頑丈で高性能な肉体をもってるのは事実だから気をつけろよ、血は別に必要ない、嗜好品とかパワーアップアイテムの類だ」
「了解です、血を取られないようにですね」
ふむ、と急にクリスが顎に手を当て何か考え始める
「いや、あいつらカッコつけたがるから血を飲むときは首筋に嚙みついてこようとする、あえて血を吸わせて隙だらけのそこを叩くのもいいかもしれん…」
「いえ首にかみつかれるとか普通に嫌なんでやりませんよ」
「えぇ~楽なのに」
「代償が大きく無いですか?」
「ちぇー」とクリスが残念そうに言う、櫻木はそれを蔑みの目で見つめていた。後輩を餌にしようとするのだから当たり前ではある
「うし、逝くぞ」
「ええ、って今なんか漢字違いませんでした?」
「うん?どんな感じ?」
「…いえ、やっぱりいいです、伝わってないっていうのはよくわかりました」
二人は屋敷の扉を開き、中へ踏み込んだ。
やはり鍵は銃弾で破壊した。
◇
ただえさえ暗い街、窓をすべて締め切っている吸血鬼の館となれば中は真っ暗だった。クリスは何でもないように、櫻木は転ばないように気を使いながら歩いていた
「先輩、よくそんなにスムーズに歩けますね」
「んー、まあ目はいいから見えてるんだ」
「いいなあ、楽そうで、うわっ」
ポチッ
何かに躓いたのか、櫻木が転ぶ、そこまでは特に問題なかったのだが、転んだ拍子に着いた手が何かのスイッチを押してしまっていた
「何かの拍子になんかのスイッチを押してしまうってドジっ子の定番っちゃ定ば…」
「せんぱぁぁぁあい!」
地面に穴が開き、クリスはそこに吸い込まれていく、櫻木は慌てていたが落ちていくクリスはいつも通りマイペースを保っていた。
「嗚呼…やってしまった…あのふざけた先輩の前では絶対にポカしないように気を付けてたのに…これ後でどんだけ揶揄われるんだろうか…」
クリスが落ちて行った穴はすぐに閉じ、もう一度スイッチを押しても開くことはなかった、侵入者を分断するためのものだったらしい。
しかしさすがクリスという先輩あるが故にというべきか、この後輩、全くクリスの安否の事を気にしていない、信頼の裏返しといえば聞こえはいいが、櫻木はそんなこと全く考えていなかった
「ああもう、疲れるからできるだけやりたくなかったんだけど、こうなったらボク一人で全力でやるしかない『帰る場無き霊魂よ、此処に集いて道を照らせ、さらば私は橋を架けよう、すべて終われば渡ると良い、鬼火』うわっ、やっぱ疲れる」
櫻木の周囲に青い炎が浮かび上がる、しかし櫻木は全く熱そうなそぶりを見せず、疲れた様子で歩き始めた
「先輩も油断しないで欲しいなぁ…ボクが全部やる破目になる」
クリスが落下したのは櫻木の責任なのだが、櫻木は責任転嫁で自分の精神を落ち着かせた
◇
「ここが怪しいよね、見るからに魔王城の謁見の間っぽいし、小さいけど」
屋敷の地下で櫻木は大きめの扉を見つけた、いかにもな雰囲気を漂わせている扉だが地下に作ったせいか如何せん小さく、迫力の足りないものとなっていた。
櫻木が扉に手をかけようとしたとき、ぎぎぃと低く軋んだ音を立てて扉は自動で開いた。櫻木は警戒しつつも部屋の中へ入った
「ククク、よく来たな、よくもわが眷属を殺してくれおったな、吾輩直々に処分してやる」
待ち構えていたのは漆黒の髪をオールバックにし、真っ白な肌を持った男、ターゲットの吸血鬼だった
「できますかね、1時間で2000以上もの造花を作るボクの腕を嘗めない方がいいですよ」
「?よくわからんが、まあ全力でお相手しよう」
吸血鬼は剣を持ち、櫻木に斬りかかる、その速度は正しく人外と言っていい動きで勝負は一瞬で着くかに思われた
しかし、櫻木の前にはバックから飛び出てきた黒い骸骨が立ちふさがり、剣を両腕の骨で受け止めていた
「キサマ死霊術師か!」
「いえ、少し違うんですけどまあいいです、行け!温もり無き骸たちよ!」
櫻木の呼びかけとともに、櫻木のバックからもう一体黒い骸骨と無数の黒い影が飛び出て、吸血鬼に襲い掛かる
吸血鬼は剣を器用に扱い、何でもないように骸骨からの攻撃をしのぎつつ、襲い掛かってくる3㎝から5㎝程の黒い影を切り裂いていた
「フフフ、この程度か死霊術師よ…ん?ああっ!これは吾輩の眷属ではないか!キサマよくも!」
吸血鬼が自身に襲い掛かる黒い影の正体に気づき、激昂する。それでもなお黒い影を切り捨て続ける。怒りによるものか吸血鬼の太刀筋が鋭いものに変わり、黒い骸骨たちが押され始める。
それに気づいた櫻木はバックから小瓶を取り出し、中の液体をインクに魔法陣を書き始める
「なんでそんなにGに愛着持ってるんですか!正直一刻も早く契約を解除したいんでじゃんじゃん破壊してください!」
「キサマァ!吾輩に元とはいえ眷属を殺せというのか!?」
「たかがGでしょうが!というかボクが操ってる時点で死んでますし、だいたいアナタ躊躇なく切り捨ててるじゃないですか」
「敵には加減できんのだ!」
遂に黒い影、いや今更取り繕うのもやめよう、Gが全滅し、骸骨のうちの一体も切り裂かれた
「敵認定してるじゃないですか!っと『冥府より来たれ、既に滅びし巨人、されどその身は貴殿の運命を宿すべし』!」
櫻木の描いた魔法陣から上半身だけを持つ骸骨が現れる、左手にはどす黒い赤色の玉を持ち、そこからは紅暗く怪しく光る鎖が伸びている、胴体から右腕にかけては左手の玉から伸びる鎖が巻き付き、右手にはその鎖の先を持っている。巨大な骸骨が現れると同時、吸血鬼がもう一体の黒い骸骨を切り裂いた
「ふんっ、いくら巨大であろうと骨であることには変わりはないわ!」
そんなもの関係ないと言わんばかりに吸血鬼が骸骨に斬りかかる、しかし吸血鬼の剣が骸骨に触れた瞬間、剣は錆び付き瞬く間に崩れ落ちた、それを見た吸血鬼はすぐさま飛びのき距離を置いた
「ほう、滅びの運命を宿らせたか、それがキサマの切り札と見受けするが、それはそう長くは持たぬだろう、その骸が宿す滅びそのもので自壊しようとしておる」
「よくわかりますね、でもそう簡単には行きませんよ『放て』!」
櫻木の言葉とともに骸骨はその手の鎖を吸血鬼に向けて放つ、一本だけではない、骸骨は自身の体に巻き付いている幾多もの鎖を引き解き、投げつけてゆく
「ぬ、ぬおおおおおお!」
着弾した鎖は吸血鬼だけでなく触れた部屋の壁や床までも崩壊させてゆく、骸骨がすべての鎖の端を投げ終えるとあたりにはボロボロになった地下室の惨状と砂煙が広がっていた
「ふう、これでやりましたかね」
「ふははははは!なかなかいい攻撃だったぞ!」
風が巻き起こり、砂煙が吹き飛ばされるとそこにはボロボロになりつつも五体満足で立っている吸血鬼の姿があった
「…あれでまだ生きてるんですか…正直もう気絶したいんですけど、この大地に四肢を放りだしてぐっすり眠りたい」
地に片膝をつき、荒く息をしている櫻木、魔力の使い過ぎによる疲労だった、それを見て吸血鬼は舌打ちする
「魔力の使い過ぎによる精神面の衰弱か…つまらんな死霊術師」
「死霊術師とはちょっと違うって言ったじゃないですか、油断しましたね」
櫻木がニィっと口元を歪め、左手で地面を叩く、いつの間にか吸血鬼の周囲に散らばっていた黒い骨の残骸から二つの木の芽が芽吹き、吸血鬼を取り込まんとするばかりの勢いで成長する。
「んなっ!?これは」
「ボクは死霊術師じゃなくて陰陽師の家系です。あとこんな話を知っていますか?『桜は人を食って咲く』って」
「ぐううううう!」
二つの樹は螺旋を描くように成長し吸血鬼を閉じ込める、吸血鬼は逃れようとするがあと一歩のところで巻き込まれた
「終わりです、せいぜい桜の肥料にでもなってください、まあ魔力によるものなのですぐに枯れちゃうんですけどね…あっダメだ寝る…」
櫻木が地面に倒れ伏し、穏やかな寝息を上げる、辺りには紅く暗い不気味な色合いの桜の花弁が散っていた
◇
「グオオオオオオオオオオオ!」
桜の木にひびが入り、砕け散る、中からは血だらけの吸血鬼が現れる
「よくもよくもよくもやってくれおったな!この吾輩をオオオオオオ!」
激昂した吸血鬼はすやすやと眠る櫻木に近づき、その命を刈り取ろうと剣を握る、そこに一つの影が現れる
「おっとやめてくれ、うちの貴重な従業員だ」
「む!同族か…こやつはキサマの物か?しかしすまないな、こやつは吾輩の逆鱗に触れた、なんとしても消し飛ばさねば吾輩の気が収まらぬ」
「そうか、交渉決裂っていうかこっちはアンタの討伐が目的なんだから苦笑以前の問題だったな」
現れた影―クリスは銃を構え吸血鬼に向けて放つ
「フンッ、いくら手負いとはいえそんな簡単にやられると思うなよ若造」
吸血鬼は銃弾を剣で弾き距離をとる、クリスは懐から十字架を取り出し吸血鬼に投げつける
「なっキサマ!同胞ではないのか!」
「いんや俺も吸血鬼だけどさ、吸血鬼って意外と思い込みによるものが多いんだぜ、例えばニンニクや銀の類」
クリスは銀でできたフォークとニンニクを吸血鬼に投げつける
「キサマ!やめろ!やめろぉ!」
「十字架は宗教的なもの、ニンニクはそもそもこのにおいが苦手な種族だから俺も苦手だし、銀は種族的に金属のアレルギー保持者が多いだけ、それらが幼少期からの教育によって勝手に恐れて、果てにはアレルギー反応まで起こすようになる、一種のプラシーボ効果だな。まあ光に関しては僅かな光で肌が真っ黒になるほどなんだが…」
クリスは片手で十字架を前に構えつつゆっくりと吸血鬼に近づいていく
「でもって吸血鬼の特性としては眷属化や怪力、タフさがあるがどれもそこまで強力なものじゃない、魔法で代替できたり、一部の獣人種には負ける程度だ、それでも再生能力には目を見張るものがあるがな、高いところから落ちてもこの通りだ」
片手で器用に銃をリロードしつつ、クリスは吸血鬼へと問いかける
「ところでこんな俗説とはいろいろとかけ離れている吸血鬼だが、一つだけ説通りの弱点がある、何か知ってるか?」
「ふうっふうっ…」
弱点とされているものを近づけられてパニックになっている吸血鬼の前に立ち、クリスは再び銃を構える
「銀だよ、吸血鬼は金属アレルギーを持っていないやつでも臓器だけは銀に過剰にアレルギー反応を起こしショック死する、というわけでプレゼントの銀の銃弾だ、高いんだぜ無駄打ちすると櫻木に怒られるくらいにはな」
辺りに銃声が響き渡る、あとには骸が一つ、残された
「銃声聞いても起きないってすごいな眠り姫…よいしょっと」
クリスは櫻木を背負い、事務所へと戻る、辺りはまだ明るかった
「お仕事完了、ってな…あっ!こいつ自分が吸血鬼倒したって思いこんでんじゃね?」
―魔法使いの食道楽その4―
サンドイッチ
アリス「今回紹介するのはサンドイッチだ、サンドイッチの食べ方自体は遥か昔1世紀ごろにはもう広まっていたらしいんだが、サンドイッチという名前が出てきたのは18世紀ごろ、語源はイギリスのサンドウィッチ村だとか砂と魔女以外はなんでも挟んで食べられるだとか言われている、まあサンドウィッチのウィッチの綴りは魔女ではないため後者は嘘だろう」
アリス「今回の話では櫻木がサンドイッチを食べていた、彼女が食べていたのはコンビニのものだが、コンビニの物でも最近のはかなりおいしい」
アリス「サンドイッチは世界各国に存在し、いろんな名前、姿がある、まあパンで何かを挟むだけだからいろんなのがあるのは当たり前なんだが…」
アリス「外のパンにしても食パンやフランスパン、中にはボロボロと崩れやすいがクロワッサンを使ったものなど多種多様、中身に至っては肉、魚、野菜、と多く、具の調理によってもさらに分化する。中にはソースだけで作ったものもあるくらいだ、広義的に見ればジャムサンドがこれにあたるかな」
アリス「なんにせよ、簡単に作れておいしい、持ち運びも楽だから弁当にもピッタリだ、是非好きな具を好きなパンで挟んで楽しんでくれ」