金喰い
腹が減っていた。足取りも覚束ない程だった。長年勤めた会社をクビになり、妻子も失った彼は途方に暮れていた。
学生時代の同期がそろそろ会社の重役に昇進する頃に、自分だけ0からのスタート。いや、こんな中年親父を採用してくれる会社などある訳がなかった。
若い者にタメ口をきかれるバイトは長続きしなかった。少し自暴自棄になっていた。
派遣でなんとか食いつなぐものの、年老いた体に力仕事はきついものがあった。
働く時間は減り、貯金も減り、腹も減り。スーパーで数少ない小銭を使いカップラーメンを買った。確認すると割り箸が入ってなかった。店員に言うと、「2円になります」と言われた。世の中そんなところまで金なのか。
家のガス電気水道はとうに止められていた。財布の中身はくすんだ銀色のコインが数枚入っているだけ。
スーパーで買ったカップラーメンは3日に分けて食べた。食べた気がしなかった。
できるだけ腹を空かさないようにと、1日寝て過ごす日々が増えた。大家がたまに家賃を請求しにくるが、居留守を決め込んだ。
長い時間寝るだけの生活を過ごしていると、意識がぼんやりとしてくる。それなのに腹の虫だけはやけにはっきりと聞こえる。
あぁ、金があればなぁ。
金があれば飯が食えるのに。ハンバーグや寿司なんて贅沢は言わないさ。奈良漬けとかでいい。あぁ、金さえあれば、飯が食えるのに。
金さえあれば。そもそも金ってなんだ?どうして金がなければ飯が食えないんだ?
金があれば飯が食える。つまり金は飯なんだ。飯は金なんだ。なぁんだ、簡単じゃないか。
くたびれた財布をひっくり返す。ほんの少しの飯が床に転がる。俺はそれを口の中に放り込んだ。
アドバイス、感想お待ちしています。