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5.将軍達と進歩

「お前の父親は恐ろしい」

寝台に寝転がると、セレストはルーシェに言った。

「優しく見えますが厳しい人です」

しみじみとルーシェは言う。

「それではすまん。伝説とはよくいったものだ」

「はぁ、伝説なのですか」

首を傾げる。彼女は父親に関する噂をあまり聞いたことがない。

そういう話は身内の前にして言えるものではないし、当の本人は興味もないから教えていないのだ。

「そうだ」

ルーシェの腕を引いて言う。彼女は逆らわずにセレストの腕に抱かれた。

微かなばらの香りに気持ちが高ぶる。

「お前はよく似ているな。飄々としてるくせに何か奥に隠している恐ろしいところがそっくりだ」

「あまり嬉しい評価ではありませんねぇ」

そのとぼけるところも全くもって似過ぎなんだ!とセレストは思ったが口にしない。

言っても認めないだろうし、柔らかなルーシェの肌に気をとられてたことにもあった。

初めてルーシェを抱いた日、何度果てても彼女を求めてしまう程の衝動が彼を襲った。

欲しい、この女の全てが――際限なく湧き出る想いは最近では雑談しているだけでも起きる。

他の女とはある程度したら枕話をしつつ終わるのだが、ルーシェに限ってはいつも獣のように求めてしまう。

朝はすやすやと眠るルーシェを起こさずにしてしまったりと歯止めが中々きかない。

自分でも不思議に思うが答えが全く出てこない。彼自身答えを求めようとも思わなかった。気が晴れればそれで良いからだ。

ルーシェはルーシェで彼の夜はこんなものなのだろうと思っていた。

英雄色を好むとはこういうことか、でも少しは手加減して欲しい……日替わりで本当に良かった。他の方も大変なんだろうな。それがルーシェの本心だった。

だが、皆自分より早く居るから慣れてるかとも思う。得にウィーアとハルハリアは比較的長く愛妾をしている。

元気でうらやましい、とルーシェは思う。

我慢できなくなったのかセレストが首もとにキスしてきて、明日は屋敷の庭を見に行けるだろうかとぼんやり考えていた。


レギオンの屋敷では、基本愛妾たちとの戯れは夜のみだ。

昼のうちは仕事があるということもあるが、休みの日であっても共に茶を飲んだり連れ回したりなどはない。勿論部屋に行くことも無い。

愛妾たちに平等に接することと肉体以外の関係をもつつもりもないからだ。とはいえ、誕生日などの贈り物を執事任せではあるが贈ってはいる。

ある日セレストは領地に関する仕事をしていた。休憩にして茶を飲んでいると、窓の向こうに小さく何かが見えた。

よくよく見ていると、ルーシェとその侍女が二人で歩いている。時たま立ち止まっては何かを話していた。

庭でなにをしているんだかと思っていると、ルーシェが何か板ものを取り出し、筆記していた。

何を調べているのだかとセレストは少し警戒する。また動き出したところで、執務室の扉がノックされた。

「失礼します、カルティエ将軍様がいらっしゃいました」

執事の声がする。通せと言うと扉が開き、カルティエが入ってくる。

「休憩中悪いな」

カルティエが言うと

「何、構わん」

と侯爵は返す。

「何の用だ?」

軍に関する話しなら、カルティエがわざわざやってこない。何かあるのかと問い掛けた。

「阿呆どもがやらかした」

たったその一言で二人の間に緊張が走る。

「やつらの無能さは今に始まったことじゃないが……何をやらかした」

「予想通り、内乱中愚策を棚にあげ血の流れで権利を主張した一派と、優秀な議会をはじめとした政務部の軋轢が悪化した。幸い軍部には及んでいない」

この国の古くからある貴族たちはそれなりにいる。その中でも高貴な血をもつ一族たちは、今でも政治に口を出す。それが優秀ならば問題はないのだが、殆どがここしばらくの間に腐り切っていた。

皇帝はその整理に追われている。

皇帝以下優秀な人材たちが水面下で動いていることを良いことに腐った者たちは増長していた。

腐った者は内務省にも居る。それらと、政務部というほぼ雑用だが一番多忙な部署と仲が悪い。

その仲の悪さが悪化したと言う。

政務部は貴族の嫡男は少なく、次男坊三男坊の集まる部署でもあるが頭脳明晰で行動力さえあれば平民でも採用される王宮でも少し特別な場所だ。内省でも実力主義の場所であるが故に、彼らは古い血を自慢する貴族たちを嫌っている。

今まで表立っての悪化は無かった。

だが、今回は純血主義の貴族たちは政務部の足という足を引っ張った。

「……随分捨て身だな」

セレストは鼻で笑った。

「一歩間違えたら自分の身が危ないと言うのにな」

カルティエは肩を竦めて

「俺みたいな庶民には"お偉方"の考えることは解らん」

と苦笑した。

「純血主義ではない上位貴族たちはどういう反応だ?」

「グレッグ大将は『阿呆か』とおっしゃった」

グレッグ大将は軍部の総大将であり、二人の上司だ。

「あのジィさんはいつも言ってただろう。他のだ他の」

セレストは飽きれながら言う。

「あー、似たようなもんだ」

カルティエはすまなそうに言う。

それほど今回のことは予想出来たことだった。

「ただ、王族のパイロープ公だけが『楽しくなってきた』と言っていた」

とはいうものの、はっきり聞いた訳ではない。

サロンにいた公爵の側付きが聞いたらしいと報告があったのだ。

「パイロープ公か……」

王族は余計な事を考えずこの事態をどうにかしてくれとセレストは思う。

貴族とは言え、レギオン侯爵家は元々武人の家で、代々爵位と共に将軍の地位につくことが多い。どちらかというと軍人を本分とするので歴代の侯爵は純血主義の貴族の争いに首を突っ込まず逃げて回っていた。

セレストはその例に漏れない。

「軍部は巻き込まれ損になりかねんな」

セレストが言うとカルティエは苦笑する。

「グレッグ大将も同じご意見だ。それから、お前も気をつけた方が良い」

その言葉にセレストは片眉をあげた。

「お前の愛妾たちは古参貴族の娘たちだろう。お前に限ってないと思うが、各々の家の思惑をもって誘惑してくるだろう。乗るなよ」

「気持ちはありがたいが、ないな」

セレストはため息をつく。

「念のためだ」

カルティエもわかっていると言う風に言った。

ふ、とセレストは視線を庭にはずすと未だルーシェと侍女が花壇の前にいた。一体なにをしているのだか。

「あれが噂のルーシェ嬢か」

視線を外し、一瞬ぼんやりした友人の視線を追ってカルティエは言う。

「そうだ。未だに良くわからん。何が目的なのか、何がしたいのかさっぱりだ」

苦々しい表情のセレストにカルティエはおや、と思う。

セレストと仲良くなって長いが、その中でもセレストは女に対してさっぱり興味を持たなかった。

何か目的があろうがただの恋心だろうが近づいた女を抱いては捨てるという人で無しだ。注意しても意味がないのは話しをしてて解ったのであえて口出しすることは無かった。

そんなセレストに興味を抱かせるとは。

「進歩だな……」

としみじみいうと

「何の話しだ」

とカルティエは睨まれる。

「君が一人の女性に興味を持つと思わなかった」

「女としてではない。警戒すべき対象としてだ」

憮然とする。

「そうか?今の表情じゃ恋してるようにしか見えなかったが」

「気でも狂ったのか、アーヴィス」

軽口に間髪入れずに返してくる。

「冗談だ。そんな睨むな」

流石に言い過ぎたかと肩をすくめる。

「ただ、ルーシェ嬢とは話してみたいな。是非席をつくってくれ」

そういうとセレストは嫌そうな顔をする。

「会うなら勝手に会え。わざわざ呼ぶと他のも呼ぶ羽目になる。あの女たちに昼間に会うのは遠慮したい」

妾たちには平等に接して面倒を起こさせないようにしたい気持ちがわかったので、カルティエは素直に頷いた。

「解ったよ。庭に居る内に話しかけるが大丈夫か?」

「話しかけるのにわざわざ許可をとらなくても良い」

セレストが呆れたようにいうと、カルティエは眉根を寄せた。

「馬鹿言うな、妾とはいえお前の妻だ。許可なく近づくつもりはない」

「お前の愛妻家っぷりを見れば許可なんかいらんだろう。いなくなる前に行ってこい。お前も暇じゃないんだろう」

セレストはカルティエの妻に対する惚気を思い出し若干うんざりしながら言った。

「すまんな。また何かあれば教える」

「あぁ、頼む」

「じゃぁな」

という軽い言葉を残してカルティエは出て行った。セレストはまた書類に目を落とす。

三度庭に視線をやるとルーシェに話しかけ、楽しそうな会話をしているだろう様子を見た。

その姿になんとなく苛ついたのを、セレストは自分自身で気づかなかった。

純血主義と実力主義の争いはあまり重要事項ではないので、割りとテキトーに書いております。

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