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2.失言と笑い上戸

目の前の女をどうすべきか。セレストは悩む。

部屋に返すべきか。虚偽の発言で牢に入れるべきか。何も考えず抱くべきなのか。

どれも最適な案とは言えない。

ルーシェはわずかながらの緊張でセレストの言葉を待っていた。

さっきからとんでもなく口が滑り、あることあることぶちまけてしまってひやりとしている。無礼すぎる口の聞き方にセレストが咎めないことも原因だった。

唯一、この屋敷に来た理由は黙秘だと口走ったことは僥倖じゃないかと思った。

体は震えはしないが背筋が寒い。

これで自分がこの屋敷に来た、下らない理由を知られたらどうなるだろう。その理由の一部である父親が肩を竦めて「そのくらい許せる器がなければ将軍になどなれんさ」と言ったのを思い出す。

無責任にも程があるし、娘の自分を何だと思っているんだ。

乗せられて乗ってしまった私も馬鹿ではあった、と今更ながら反省する。

「……もういい」

セレストはがしがしと頭をかき、長い沈黙を破った。それにルーシェは思考をはっと切り替えた。

「面倒だ」

そう言うと、セレストは寝台に転がる。

ルーシェは何がとは聞かない。恐らく考えるのが面倒になったのだろう。

さてどうするかと思考に入ろうとすると、ぐいっと手を引かれた。

思いがけないことに身体の均衡を崩し、寝台に転ぶ。

そこへセレストは覆いかぶさってきた。

「とりあえず、するか」

なにがとりあえずだ、とルーシェは呆れる。

「お気の召すままに」

ルーシェの言葉に彼は目をみはる。

すぅ、と目を細めると口許に笑みを讃えた。

「言ったな?」

しまった、とルーシェは思った。そっちじゃない、そういう意味じゃないと訂正しようと思った瞬間に、無理矢理仰向けにされ唇を塞がれた。

まずい、これは非常にまずいのではと思いながらもセレストの唇から逃れる事ができない。

仕方ない、元よりそういう身の上だと諦め、彼女は痛くありませんようにと祈り、絡められる舌と唇の感触の気持ち良さに思考を放り投げた。

その夜といえば、初めてだというのにかなり乱暴に抱かれた。破瓜の痛みもさることながら、容赦なしに責め立てられるわ、口の奉仕もさせられるわと空の色が若干変わりはじめるくらいまで続いたことが辛かった。

満足そうに眠るセレストを置いて部屋に戻ろうとしたが腰がぬけて動けない。起き上がるのさえつらいので、諦めて眠ることにした。

目が覚めたのは昼過ぎだった。

私の可愛い将軍閣下が居なくなってしまったわ、とセレストの寝顔を見るのが好きだったルーシェは少しがっかりした。

次はまた彼が忙しくありますようにとちょっと祈ってしまった。




ルーシェが目を覚ます少し前。会議を終えたセレストとカルティエは連れ立って昼食をとっていた。

「アーヴィス、俺はそんなに鈍っただろうか」

珍しく落ち込むセレストに、カルティエは驚いた。

「どうしたんだ?急に謙虚な事を言い出すとは、雨が降りそうだな」

「真面目な話しだ」

嫌な顔をするセレストは、ルーシェの話しをする。正直誰にも話したりはしたくないがカルティエだけは別だった。

「他の女はどうなんだ?」

一連の話をカルティエは笑わずに質問した。

「居れば解る。というより部屋を見れば寝てても隠れても解るし、まして疲れていたとしても気づかないはずがない!だが、あの女だけは気づかなかったんだ!!」

まるで恐ろしいものを思いだすような呈で言う。ポーカーフェイスのカルティエの腹筋がそろそろ辛くなる。

この男にそんな表情をさせたのはルーシェなる女だけではなかろうかとも思った。

「お前を消したいヤツはそれなりに居るし、間者みたいなものではないのか?」

何度も機会があったのにお前は死んでないが、とカルティエは付け加える。

「間者なら媚びへつらうし近づくだろう。あの女はな、そういう意味で近づこうともせず俺に対して『さして興味も無い』と言い放ったんだぞ!?」

だんっとテーブルを叩く。

もう駄目だ、もう堪えられない。

「そんなのが間者でたまるか!」

その憤慨する姿を口切りに、カルティエは吹き出した。

「たっ、確かにっ……くっ……ありえな、くくっ……ありえないなぁ……」

人目もあるので抑えて笑う。

だが、止められない。カルティエの腹筋は良く堪えた。

「笑うな」

仏頂面でセレストは言うが、はじめからこらえていた為にそうそう止められない。

「興味ないとか……仮にも、上位貴族にっ……言うことじゃない…よなぁくく……」

おさまらない笑いとともにカルティエは言う。

「全くだ。家族の為だと言うがそれは建前と認めるわ、やる気があるのかと言うと無いと言うわ、帰れと言えば喜んで帰りそうな勢いだ」

もうだめだ、もうだめだと身体を折ってプルプル震える。

ルーシェの不思議すぎる言葉と、それにふて腐れるセレスト。帝国の獅子と呼ばれたセレストにこんな子供のような態度をとらせる女に興味を持つ。

「しかしまぁ、何者なんだろうな、そのルーシェとやらは」

目に浮かぶ涙を拭いつつカルティエは言う。

「しらん。明白なのはランバール伯の娘と言うことだけだ」

「アーカンサ地方の領主か。優しいフリしてのらりくらりと政府の過剰な要求を交わした伝説をもつ伯爵だな。手強そうだなぁ、セス」

にこやかに笑いながらカルティエは言った。

戦事中、中央政府は豊かな土地を持つ地方領主に過剰に物資と人員の要求をした。

涙をのみながら答える領主や何も考えずに答える領主が多い中、静かに抵抗し民を守ったのがランバール伯エルンストだった。

物資に関しては最低限、人員に関しては貼紙募集で集った者のみという頼りない支援。勿論政府は足りぬと言う。

しかし出来ないものは仕方ないと肩を竦めるだけだった。

そんなことをするので、ランバール伯は宮廷でもつまはじきにされた。本人は全く気にしておらず飄々としておりそれが更に周囲の反感を買っていた。

だが、戦争が終わるとそれは一転した。

戦災の後が残ってしまった地方や戦で負けた国への支援は戦事中よりも多額に、かつ人員をさいたのだ。地方領主どころか中央にいる貴族たちすら苦しいのに。

今でもそれは行われており、ランバール伯の資産は一体どうなっているのかと世間で噂されていた。

「反抗のはの字も出ないようなお方だったが、何を隠しているか解らなくて逆に恐ろしい」というのがランバール伯の評価だ。その娘なら確かにセレストを翻弄できそうだとカルティエは思う。

「せっかくならランバール伯の財源を聞いてみれば良いじゃないか。どう答えるのか楽しそうだ」

そしてかわされるセレストを見たい。

その気持ちがありありと現れたのか、セレストは恨めしそうにカルティエをにらみつけた。

「他人事とはいえ楽しそうだな貴様」

「こんな君を見られるなんて楽しい以外ないだろう?ま、時間をかけて探ってみればいい。そうすれば鈍っているのかいないのかが証明される」

あぁ面白かったと言わんばかりのカルティエの言葉に、セレストは深いため息で返すだけだった。

男二人は食事の後のお話でした。おかげでカルティエはぬるいコーヒーを飲むはめに。

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