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第三話(最終回)



 周囲がどよめきました。


「ひろ美……あんた『イジメは嫌い』って言ってたのに、やっぱり普通の人間だったのね。」


 ちがう、イジメじゃないっ! ……って反論したいけど、説明するのもめんどくさい。


 蔵森の袖を掴み、引きずるように教室を出ます。蔵森のやつは、おびえたようなヘラヘラ笑を浮かべています。こいつ……ホント、イジメたくなってくる気持ちがわかるわ!


 とにかく、屋上への登り口に引っ張っていきました。


 外からは激しい暴風雨の音。


「く・ら・も・り~」


「な、なにかな、那梨野さん?」


 私は、拾った手帳を叩きつけるように、彼の胸に押し付けました。そして、下を向いてしまい…


「ゼニカネーダーの正体、あんただったのね。」


 見つかって嬉しいんだか、こんな奴だったことが悲しいんだか。


「ご、ごめん……」


「なんで謝るのよ!」


 私はイラついて叫んでしまいました。そういえば、こいつってば、あの時も、謝りやがった……。


「悪いことやってるわけじゃないでしょ!?」


「そ、そうだけど……」


「さあ、洗いざらい話しなさい。」


「何を?」


「なんで正義の味方なんかやってるのかよ。話さないなら、前に私にコクッたことと合わせて、みんなにバラすわよ?」


 うわ、私ってば、悪人ぽくない!?


「わ、わかった。話すよ。」


 蔵森のやつは、観念した表情になりました。


「実は……じいちゃんの遺言なんだ。」


「へ?」


 もっとすごい理由を想像していた私は、あっけに取られます。


「悪の組織・ナチュラル党というのがあって……」


「なんか健康によさそうな悪の組織ね。」


「動物と人間を融合させたケダモノイドを作り、世界征服をたくらんでいるんだ。」


「はあ……」


 なんてベタな設定。


「地球を、大自然な状態にしようと……」


「それっていいことじゃないの?」


「文明が滅びて、人間が全部、汚いケダモノになるってことだよ?」


「そ、それが大自然かッ!」


「大自然というのはもともと、汚くて臭くて虫がいっぱいっていうものさ……」


 そ、そうか、たしかに……TVとかで自然の素晴らしさを観るだけじゃすっかり忘れちゃうけど、文明がなくなったら、たしかに汚くて臭くて虫がいっぱいになります!


 自然派を自認していた私は、激しい葛藤に襲われ、頭を抱えて膝をついてしまいました。そんな私に蔵森が声をかけてきます。


「自然を愛するなら、それを受け入れることが必要なんだよ。」


 たしかに、愛するってことは、いいことも悪いこともすべてを受け入れなきゃならないってことだけど……にしても。


「あっ、ちょっと待って。ってことは、そのナチュラル党とかいう人たちはその覚悟があるってことなの?」


「いや。奴らは、世界中を大自然にすれば、自分たちだけは公害を出しても平気という考えかたなんだ。」


「な、な、なんて身勝手な!」


「僕は、金持ちだったじいちゃんの遺言で、遺産を、ナチュラル党のケダモノイドと闘うために使わないといけなくなったんだ……17才の誕生日から。」


「それで、あんな趣味の悪いスーツを作ったわけ?」


「いや、あれもじいちゃんの遺言で、……ほんとは嫌なんだけど。」


 …………。


「うーん、『じいちゃんの遺言』じゃ、嫌でもしょうがないわね。」


 そう、じいちゃんの遺言は絶対なのです。


「うん……だけど、このことは誰にも……」


「言わないから安心して。」


 蔵森の表情に、急に安心が溢れ出しました。


 私の一言でこんなに表情が変わる……こんなヤツ、こんなヤツ……うかつにも、ちょっと「かわいい」とか思ってしまいました。




 その日の午後。さらに激しくなる台風で、ダイヤに影響が出始めました。町中はまだ動いているけれど、新幹線とかは不通が出始めたようです。


 下校時間が早まり、今日ばかりはみんな、そそくさと帰り支度をはじめました。


 私もバッグに荷物を詰め込んでると、そこへ先生があわただしくやってきまして。


「那梨野、いま家から電話があってね。おじいさんが危篤で、お前に会いたがってるそうだ。家に帰らず直接に行くようにと。」


「はぁ? なんでまた突然!」


 私は驚き呆れました。だけど、どうも事態は急を要するようです。


 激しい風雨の叩きつける中、私は必死に傘を構えて昇降口を出ました。傘の外になってしまうスカートや足に、前から雨が降りかかってきます。校門を出てバス停に行くまででも一苦労でした。


 が、そこには貼り紙が……


「台風のため、午後のバスは全便欠航です。」


 お前は飛行機かっ!


 と、ツッコんでも一人。泣きたい気分で途方にくれていると、暴風の中を、高いエンジン音が聞こえてきました。


「あっ、ゼニカネーダー!」


 そして黄金のスクーター。


「那無野さん、乗るんだ。おじいさんのところへ行くんだろ?」


「う、うん。だけど送ってもらわなくても…」


「電車も不通になってる。」


 な、なにぃっ! 


「でも、スクーターに二人乗りは……」


「安心してくれ、これは中型だ。」


 とりあえず、荷物をシートの下に格納してもらい、ヘルメットをかぶってゼニカネーダーの後ろに座ります。(ゼニカネーダーはノーヘルです)


「飛ばすからつかまっててくれ。」


 エンジン音とともにスクーターは一気に加速し、滝のように水が前から後ろへ流れていきました。




「ねえっ!」


 風に負けないように大声で怒鳴ります。


「そんな頭してて、苦しくないの!?」


「実は…メチャ苦しい!」


 そりゃそうでしょう。すげ笠を被って自転車を飛ばすのだって苦しいんです。頭にこんなでかいコインをつけて60km/hくらいで走ったら、風圧がすごくないわけがありません。


「このスーツは、改良の余地があるな!」


 改良とか以前の問題だと思うけど……


「いっそ、コインじゃなくてお札にしたら!?」


「ああ、それはいいね!」


 スクーターは河のように流れる水をつん裂いて、田舎道へ入っていきました。




「おじいちゃん!」


 濡れた服をタオルで拭くのももどかしく、私は座敷へ駆け込みました。


「おおっ、来たか。」


 ところがおじいちゃんは、コタツに座って海苔せんべなどかじってるではありませんか。そしてTVでは「四匹が斬る!」が。


「あれ? 危篤じゃなかったの?」


「そうでも言わないとお前、来ないじゃろ?」


 うぐっ……うちの家族はこういう嘘が多いから嫌い! 「オオカミ少年」っていう童話を知らないのかしら?


「今日はとても大事な用があったのじゃ。お前は今日が17才の誕生日じゃろ。」


「ええ。」


「実は、昔、親友と約束してな。お互いの孫が17才になったら、悪の組織・ナチュラル党と戦う正義のヒーロー/ヒロインにしようと……」


 ……なんか、どっかで聞いたような話なんですけど。(汗)


「嫌。。。」


 そう言った私ですが、とたんに。


「うううっ!」


 突然、おじいちゃんが突っ伏して苦しみ出しました。


「ど、どうしたのおじいちゃん!?」


「じ、持病の肺癌が!」


 肺癌て持病なのかッ!?


「わ、わしはもうだめじゃ! ひろ美、お前はこの、借金して作ったスーツを着て、正義のヒロインになってくれ……これがじいちゃんの遺言じゃ! うううっ、がくっ!」


 じ、じいちゃんの遺言!! この世に逆らってはならないものが二つあります。自分の良心とじいちゃんの遺言!


 しっかり「がくっ」まで声にして力尽きたおじいちゃんを、渡されたスーツを手にしながら、私は呆然と見つめていました。




 漁港で暴れていたケダモノイド・イカゲッソ(イカってケダモノなの?)の前に、私は立ちはだかります。ううっ、はずかしいよう。


「におう…におうぞ。昼下がりの漁港に、悪の臭いが漂っている。」


 こんなセリフ言いたくない、言いたくないけど……


「借金の戦士・ゼニ『ガ』ネーダー、推参!」


 なんて恥ずかしい名前の正義のヒロイン! そして、お札の真ん中に顔という恥ずかしいカッコ!


 そんな私の、ゼニカネーダーと一緒での戦いは、まだ始まったばかりなのです。






 -----自主的に打ち切り。(汗)


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